氷河の融解により高まる津波の危険性

 氷河の融解により津波の危険性が高まる恐れを報告した研究(Higman et al., 2018)が公表されました。氷河が気候温暖化により融解し後退すると、岩盤斜面を支えられなくなり、落石や雪崩を引き起こすことがあります。また氷河の後退は、新たな水域の形成、あるいは既存の水域の拡大をもたらし、たとえば、アラスカ・パタゴニア・ノルウェー・グリーンランドの海岸線沿いで津波が起こりやすくなります。この研究は、2015年10月17日にアメリカ合衆国アラスカ州のティンドル氷河の末端で地滑りが発生し、1億8000万トンの岩石がターン・フィヨルドに流れ込み、津波を引き起こした際の野外観測結果を報告しています。

 この地滑り自体は約2㎢の陸地に影響を及ぼし、津波の影響は20㎢以上にも及びました。この時の波の遡上高は、地滑りがあった場所からターン・フィヨルドを挟んで向かいの陸地(海岸または静水面より高い構造物)まで、193mに達しました。この津波により残された独特な堆積記録は、木の破片・土壌・岩石を含む最大数mの厚さの堆積層で、テクトニクスによる津波の典型的な堆積層(砂質堆積物からなる薄い堆積層)とは大きく異なっている、と明らかになりました。これらの堆積層は、類似の津波事象(古津波を含む)の同定と解釈に役立ち、その発生頻度と規模の理解を深めることができる、と考えられています。この研究で報告された観測結果は、地滑りと津波の危険をモデル化するための基準となるもので、氷河の作用で形成された山岳地帯付近での自然災害の発生頻度と規模を高めると考えられる、気候変動の間接的影響への注意を喚起しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【環境科学】地すべりが引き起こす津波のリスクが氷河の融解によって高まる恐れ

 高山帯において山岳氷河と永久凍土の融解が長期間継続すると、不安定になった斜面が露出し、津波を引き起こす地すべりの発生危険性が高まることを報告する論文が、今週掲載される。

 氷河が、気候温暖化によって融解し後退すると、岩盤斜面を支えられなくなり、落石や雪崩を引き起こすことがある。また、氷河の後退は、新たな水域の形成、あるいは既存の水域の拡大をもたらし、例えば、アラスカ、パタゴニア、ノルウェー、グリーンランドの海岸線沿いで津波が起こりやすくなる。

 今回、Bretwood Higmanたちの研究グループは、2015年10月17日に米国アラスカ州のティンドル氷河の末端で地すべりが発生し、1億8000万トンの岩石がターン・フィヨルドに流れ込み、津波を引き起こした際の野外観測結果を報告している。この地すべり自体は約2平方キロメートルの陸地に影響を及ぼし、津波の影響は20平方キロメートル以上にも及んだ。この時の波の遡上高は、地すべりがあった場所からターン・フィヨルドを挟んで向かいの陸地(海岸または静水面より高い構造物)まで、193メートルに達した。Higmanたちは、この津波によって残された独特な堆積記録は、木の破片や土壌、岩石を含む最大数メートルの厚さの堆積層で、テクトニクスによる津波の典型的な堆積層(砂質堆積物からなる薄い堆積層)とは大きく異なっていることを明らかにした。これらの堆積層は、類似の津波事象(古津波を含む)の同定と解釈に役立ち、その発生頻度と規模の理解を深めることができると考えられる。

 従って、今回の研究で報告された観測結果は、地すべりと津波の危険をモデル化するための基準となるもので、氷河の作用でできた山岳地帯付近での自然災害の発生頻度と規模を高めると考えられる気候変動の間接的影響への注意を喚起している。



参考文献:
Higman B. et al.(2018): The 2015 landslide and tsunami in Taan Fiord, Alaska. Scientific Reports, 8, 12993.
https://doi.org/10.1038/s41598-018-30475-w

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