ショーヴェ洞窟壁画の年代
取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、フランス南部のアルデシュ(Ardèche)県ヴァロン=ポン=ダルク(Vallon-Pont d’Arc)にあるショーヴェ=ポン=ダルク洞窟(Chauvet-Pont d'Arc Cave)の壁画の年代に関する研究(Quiles et al., 2016)が報道されました。なお、以下の放射性炭素年代測定法による年代は基本的に較正されたものです。ショーヴェ=ポン=ダルク洞窟(以下、ショーヴェ洞窟と省略)の壁画は1994年に発見され、当初は壁画の形式論的観点から、22000~18000年前頃となるソリュートレアン(Solutrean)期のものと推測されていました。しかし、その後、放射性炭素年代測定法により壁画の年代が32000~30000年前頃と推定され、大きな話題を呼びました。
ショーヴェ洞窟の年代データは、(2016年時点での)最近15年間で350点以上得られています。これらの中にはウラン-トリウム法や熱ルミネッセンス法や塩素36測定法によるものがあり、放射性炭素年代測定法に基づくものは259点、そのうち未刊行のものは80点となります。放射性炭素年代測定法の試料は、洞窟の床の炭化物・壁画表面の炭化物・動物の骨の3通りに分類されます。放射性炭素年代測定法による信頼度68%の年代は以下のようになります。なお()内は信頼度95%の年代です。
地面の炭化物では、36700~36400(37000~36200)年前、34200~33700(34400~33500)年前、31100~30800(31400~30700)年前、28800~28300(29700~27900)年前となります。壁画の炭化物では、36100~34600(36600~34000)年前、31400~29500(31900~29000)年前となります。ホラアナグマの骨では、44000~41700(48300~41500)年前、35600~35300(35900~35100)年前、33300~33000(33500~32700)年前となります。
これらの推定年代から、(まず間違いなく)現生人類(Homo sapiens)が洞窟を利用したのは、37000~33500年前頃と31000~28000年前頃の2期で、この期間に壁画を描いた、と推測されます。現生人類の洞窟壁画としては古い部類になりますが、インドネシアのスラウェシ島では39900年前頃の現生人類の所産と考えられる洞窟壁画が発見されているので(関連記事)、ショーヴェ洞窟の壁画は現生人類の所産としては最古ではなさそうです。なお、現時点で最古の洞窟壁画は66700年前頃以前までさかのぼり、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の所産と考えられています(関連記事)。また、現生人類が洞窟を利用した第1期にはホラアナグマも洞窟を利用していた、と考えられます。もっとも、同居していたとは考えられず、考古学的な時間枠ではごく短期間、相互に洞窟を利用したのでしょう。
上述したように、放射性炭素年代測定法以外の年代測定法も用いられ、熱ルミネッセンス法や塩素36測定法では、岩石の年代測定から洞窟の崩落年代が推定されました。塩素36測定法からは、洞窟での崩落が29400±1800年前、23500±1200年前、21500±1000年前の3回起きた、と推測されます。最初の崩落の後、現生人類はショーヴェ洞窟を放棄したと推測され、現生人類もその他の大型動物も、1994年の発見までショーヴェ洞窟に入らなかったようです。
参考文献:
Quiles A. et al.(2016): A high-precision chronological model for the decorated Upper Paleolithic cave of Chauvet-Pont d’Arc, Ardèche, France. PNAS, 113, 17, 4670–4675.
https://doi.org/10.1073/pnas.1523158113
ショーヴェ洞窟の年代データは、(2016年時点での)最近15年間で350点以上得られています。これらの中にはウラン-トリウム法や熱ルミネッセンス法や塩素36測定法によるものがあり、放射性炭素年代測定法に基づくものは259点、そのうち未刊行のものは80点となります。放射性炭素年代測定法の試料は、洞窟の床の炭化物・壁画表面の炭化物・動物の骨の3通りに分類されます。放射性炭素年代測定法による信頼度68%の年代は以下のようになります。なお()内は信頼度95%の年代です。
地面の炭化物では、36700~36400(37000~36200)年前、34200~33700(34400~33500)年前、31100~30800(31400~30700)年前、28800~28300(29700~27900)年前となります。壁画の炭化物では、36100~34600(36600~34000)年前、31400~29500(31900~29000)年前となります。ホラアナグマの骨では、44000~41700(48300~41500)年前、35600~35300(35900~35100)年前、33300~33000(33500~32700)年前となります。
これらの推定年代から、(まず間違いなく)現生人類(Homo sapiens)が洞窟を利用したのは、37000~33500年前頃と31000~28000年前頃の2期で、この期間に壁画を描いた、と推測されます。現生人類の洞窟壁画としては古い部類になりますが、インドネシアのスラウェシ島では39900年前頃の現生人類の所産と考えられる洞窟壁画が発見されているので(関連記事)、ショーヴェ洞窟の壁画は現生人類の所産としては最古ではなさそうです。なお、現時点で最古の洞窟壁画は66700年前頃以前までさかのぼり、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の所産と考えられています(関連記事)。また、現生人類が洞窟を利用した第1期にはホラアナグマも洞窟を利用していた、と考えられます。もっとも、同居していたとは考えられず、考古学的な時間枠ではごく短期間、相互に洞窟を利用したのでしょう。
上述したように、放射性炭素年代測定法以外の年代測定法も用いられ、熱ルミネッセンス法や塩素36測定法では、岩石の年代測定から洞窟の崩落年代が推定されました。塩素36測定法からは、洞窟での崩落が29400±1800年前、23500±1200年前、21500±1000年前の3回起きた、と推測されます。最初の崩落の後、現生人類はショーヴェ洞窟を放棄したと推測され、現生人類もその他の大型動物も、1994年の発見までショーヴェ洞窟に入らなかったようです。
参考文献:
Quiles A. et al.(2016): A high-precision chronological model for the decorated Upper Paleolithic cave of Chauvet-Pont d’Arc, Ardèche, France. PNAS, 113, 17, 4670–4675.
https://doi.org/10.1073/pnas.1523158113
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