出穂雅実「北東アジアにおける現生人類の居住年代と行動を復元する際の諸問題」
本論文は、文部科学省科学研究費補助金(新学術領域研究)2016-2020年度「パレオアジア文化史学」(領域番号1802)計画研究A02「ホモ・サピエンスのアジア定着期における行動様式の解明」の2016年度研究報告書(PaleoAsia Project Series 4)に所収されています。公式サイトにて本論文をPDFファイルで読めます(P14-18)。
本論文は、モンゴルおよびシベリアを含む北東アジア地域の上部旧石器時代前半の考古学的証拠を収集し、北東アジアに現生人類(Homo sapiens)が居住した年代と行動の特徴、およびそれらの多様性と変化を明らかにするという目的の達成のために、現時点でのデータと問題点を整理し、今後の具体的活動を展望しています。北東アジアの当該期の研究は、遺跡から石器と共に骨角器や豊富な動物遺存体が出土するという好条件を有する一方で、遺跡の多くは斜面もしくは緩斜面に立地し、埋没後の擾乱を強く被るという困難を伴っているため、遺跡の年代決定と行動コンテクストの復元にあたっては多角的な分析と慎重な解釈が肝要になる、と本論文は指摘しています。
モンゴルは中央アジア・東アジア・北アジアの結節点に位置し、現生人類の高緯度地域への最初の移住に関する諸問題の解明に重要な役割を果たすと期待されています。モンゴルの上部旧石器時代初期の石器群は、ルヴァロワ(Levallois)技法の要素を伴う石刃技術によるプライマリ・リダクションによって定義され、5万~4万年前頃と推定されています。しかし、広大な地理的範囲で石器リダクションの基本的な特徴が一致するものの、各地域の石器群の具体的な特徴と相異がどの程度あるのかについては不明なことが多い、と指摘されています。この理由は、上部旧石器時代初期~前期の遺跡の多くが緩斜面のシートウォッシュ堆積物や洞窟充填堆積物に埋没し、長年にわたる多種多様な埋没後擾乱によって、地質編年と遺跡内行動の復元が困難なためです。シベリア南部でも同様の問題があり、北東アジア地域における現生人類拡散の詳細な様相を復元するのは、容易ではないようです。
本論文は今後の課題として、まずそれぞれの遺跡のコンテクストを正確に把握する調査研究を積み上げ、推定されている占拠年代にはどのくらいの不確さが残されているのか見積もり、さらにより確かな年代を決定するといった、遺跡レベルでの具体的な調査研究を挙げています。次に本論文は、地域の地質編年をアップデートして行動変化と生態系変化の関係をより高い精度で探り、集団間の関係や移動を他地域との比較を通じて浮き彫りにするといった、より広域の課題に取り組む調査研究を挙げるとともに、両者を意識的に追求していくことが重要だと指摘しています。
参考文献:
出穂雅実(2017)「北東アジアにおける現生人類の居住年代と行動を復元する際の諸問題」『パレオアジア文化史学:ホモ・サピエンスのアジア定着期における行動様式の解明2016年度研究報告書(PaleoAsia Project Series 4)』P14-18
本論文は、モンゴルおよびシベリアを含む北東アジア地域の上部旧石器時代前半の考古学的証拠を収集し、北東アジアに現生人類(Homo sapiens)が居住した年代と行動の特徴、およびそれらの多様性と変化を明らかにするという目的の達成のために、現時点でのデータと問題点を整理し、今後の具体的活動を展望しています。北東アジアの当該期の研究は、遺跡から石器と共に骨角器や豊富な動物遺存体が出土するという好条件を有する一方で、遺跡の多くは斜面もしくは緩斜面に立地し、埋没後の擾乱を強く被るという困難を伴っているため、遺跡の年代決定と行動コンテクストの復元にあたっては多角的な分析と慎重な解釈が肝要になる、と本論文は指摘しています。
モンゴルは中央アジア・東アジア・北アジアの結節点に位置し、現生人類の高緯度地域への最初の移住に関する諸問題の解明に重要な役割を果たすと期待されています。モンゴルの上部旧石器時代初期の石器群は、ルヴァロワ(Levallois)技法の要素を伴う石刃技術によるプライマリ・リダクションによって定義され、5万~4万年前頃と推定されています。しかし、広大な地理的範囲で石器リダクションの基本的な特徴が一致するものの、各地域の石器群の具体的な特徴と相異がどの程度あるのかについては不明なことが多い、と指摘されています。この理由は、上部旧石器時代初期~前期の遺跡の多くが緩斜面のシートウォッシュ堆積物や洞窟充填堆積物に埋没し、長年にわたる多種多様な埋没後擾乱によって、地質編年と遺跡内行動の復元が困難なためです。シベリア南部でも同様の問題があり、北東アジア地域における現生人類拡散の詳細な様相を復元するのは、容易ではないようです。
本論文は今後の課題として、まずそれぞれの遺跡のコンテクストを正確に把握する調査研究を積み上げ、推定されている占拠年代にはどのくらいの不確さが残されているのか見積もり、さらにより確かな年代を決定するといった、遺跡レベルでの具体的な調査研究を挙げています。次に本論文は、地域の地質編年をアップデートして行動変化と生態系変化の関係をより高い精度で探り、集団間の関係や移動を他地域との比較を通じて浮き彫りにするといった、より広域の課題に取り組む調査研究を挙げるとともに、両者を意識的に追求していくことが重要だと指摘しています。
参考文献:
出穂雅実(2017)「北東アジアにおける現生人類の居住年代と行動を復元する際の諸問題」『パレオアジア文化史学:ホモ・サピエンスのアジア定着期における行動様式の解明2016年度研究報告書(PaleoAsia Project Series 4)』P14-18
この記事へのコメント