石器製作技術と手の動作
石器製作技術と手の動作に関する研究(Harris, and Nielsen., 2018)が報道されました。石器製作技術の変化と人類の進化との関係は、これまで多く論じられてきました。石器製作にさいして、とくに手の構造・能力は重要となるのですが、30万年以上前の人類遺骸で手の骨は稀であるため、石器製作技術の変化と手の構造・能力の進化との関係はよく分かっていません。本論文は、実験考古学的手法を用いて、この問題を検証しています。
本論文は、9人の熟練した石器製作者にオルドワン(Oldowan)剥片・前期アシューリアン(Acheulean)握斧(handaxes)・後期アシューリアン握斧を製作させ、そのさい、打撃による剥離や石材の縮小過程などにおいて手にどの程度の圧力がかかっているのか、測定しました。その結果、オルドワン剥片や前期アシューリアン握斧の製作と比較して、より洗練された後期アシューリアン握斧の製作では、ハンマーを用いての打撃による石材の縮小過程などにおいて手にかかる圧力に顕著な違いはない、と明らかになりました。一方、後期アシューリアン握斧の製作でも、予め想定された設計に必要な打面調整が用いられる場合には、オルドワン剥片や前期アシューリアン握斧の製作よりもずっと手の指にかかる圧力が高い、と明らかになりました。
より洗練された石器製作を可能とする打面調整には強い力と器用な動作が必要で、それが可能な手の構造が前提条件となります。一方、オルドワン剥片や前期アシューリアン握斧の製作では、そうした手の構造・能力は必要ではありません。後期アシューリアン握斧の製作者たちは、現代人と類似した手の器用さ・力強さを供えていたようです。本論文は、石器製作技術の発展と人類の手の構造の進化とが関連している可能性を指摘しています。確かに、洗練された石器が適応度を高めるのだとしたら、そうした石器の製作が可能な手の構造(および認知能力の基盤となる遺伝的多様体)が選択圧となり、定着・拡散した可能性は高そうです。
ただ、上述したように、30万年以上前の人類の手の化石は稀なので、石器製作が人類の手の進化の選択圧となったのか、確証の難しいところです。あるいは、現代人のような器用な手は石器製作以外の適応との関連で進化し、後に石器製作にも用いられることになったのかもしれません(前適応)。打面調整にはそれを可能とする器用で力強い手と共に、一定水準以上の計画性を可能とする認知能力も必要となります。手の構造が先に進化して、認知能力が後で進化した結果、より洗練された石器を製作するようになった場合も考えられます。もちろん、その逆の順番も考えられます。また、打面調整のような技法を用いて洗練された石器を製作していないからといって、そうした石器を製作する能力がなかったとも断定できません。石器製作は目的や石材や文化伝統などで制約されるからです。本論文は、今回の実験考古学的手法の課題として、参加者が9人と少ないことを挙げており、今後、同様の実験によるデータの蓄積が期待されます。
参考文献:
Key AJM, Dunmore CJ. (2018) Manual restrictions on Palaeolithic technological behaviours. PeerJ 6:e5399.
https://doi.org/10.7717/peerj.5399
本論文は、9人の熟練した石器製作者にオルドワン(Oldowan)剥片・前期アシューリアン(Acheulean)握斧(handaxes)・後期アシューリアン握斧を製作させ、そのさい、打撃による剥離や石材の縮小過程などにおいて手にどの程度の圧力がかかっているのか、測定しました。その結果、オルドワン剥片や前期アシューリアン握斧の製作と比較して、より洗練された後期アシューリアン握斧の製作では、ハンマーを用いての打撃による石材の縮小過程などにおいて手にかかる圧力に顕著な違いはない、と明らかになりました。一方、後期アシューリアン握斧の製作でも、予め想定された設計に必要な打面調整が用いられる場合には、オルドワン剥片や前期アシューリアン握斧の製作よりもずっと手の指にかかる圧力が高い、と明らかになりました。
より洗練された石器製作を可能とする打面調整には強い力と器用な動作が必要で、それが可能な手の構造が前提条件となります。一方、オルドワン剥片や前期アシューリアン握斧の製作では、そうした手の構造・能力は必要ではありません。後期アシューリアン握斧の製作者たちは、現代人と類似した手の器用さ・力強さを供えていたようです。本論文は、石器製作技術の発展と人類の手の構造の進化とが関連している可能性を指摘しています。確かに、洗練された石器が適応度を高めるのだとしたら、そうした石器の製作が可能な手の構造(および認知能力の基盤となる遺伝的多様体)が選択圧となり、定着・拡散した可能性は高そうです。
ただ、上述したように、30万年以上前の人類の手の化石は稀なので、石器製作が人類の手の進化の選択圧となったのか、確証の難しいところです。あるいは、現代人のような器用な手は石器製作以外の適応との関連で進化し、後に石器製作にも用いられることになったのかもしれません(前適応)。打面調整にはそれを可能とする器用で力強い手と共に、一定水準以上の計画性を可能とする認知能力も必要となります。手の構造が先に進化して、認知能力が後で進化した結果、より洗練された石器を製作するようになった場合も考えられます。もちろん、その逆の順番も考えられます。また、打面調整のような技法を用いて洗練された石器を製作していないからといって、そうした石器を製作する能力がなかったとも断定できません。石器製作は目的や石材や文化伝統などで制約されるからです。本論文は、今回の実験考古学的手法の課題として、参加者が9人と少ないことを挙げており、今後、同様の実験によるデータの蓄積が期待されます。
参考文献:
Key AJM, Dunmore CJ. (2018) Manual restrictions on Palaeolithic technological behaviours. PeerJ 6:e5399.
https://doi.org/10.7717/peerj.5399
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