アフリカ南東部の過去200万年間の気候変動とロブストスの絶滅
アフリカ南東部の過去200万年間の気候変動に関する研究(Caley et al., 2018)が報道されました。アフリカの初期人類には、おそらくは現代人というかホモ属の祖先だっただろう華奢型と、絶滅しただろう「頑丈型」とが存在していました。アフリカの「頑丈型」初期人類は、一般にはパラントロプス属に分類され(アウストラロピテクス属と分類する見解もあります)、アフリカ東部の系統はエチオピクス(Paranthropus aethiopicus)とボイセイ(Paranthropus boisei)、南部の系統はロブストス(Paranthropus robustus)と分類されています。これら3種の系統関係には不明なところがあり、エチオピクスからボイセイとロブストスが派生したとの見解が有力ですが、アフリカ南部ではアウストラロピテクス属のアフリカヌス(Australopithecus africanus)からロブストスが、アフリカ東部ではエチオピクスからボイセイが進化した、との見解も提示されています(諏訪.,2006)。つまり、パラントロプス属と分類されている人類群は単系統群ではないかもしれない、というわけです。
その問題はさておき、本論文についてですが、アフリカ南東部の過去200万年間の気候変動を復元し、人類進化との関連で論じています。過去200万年間のアフリカ東部の気候変動は、人類進化史において仮定されている役割の理解という観点から興味を持たれてきたにも関わらず、まだじゅうぶんには絞り込まれていません。アフリカ北東部の希少な古気候記録からは、じょじょに乾燥化する状況、あるいは安定した水文気候が示唆されています。対照的に、熱帯域のアフリカ南東部のマラウイ湖(Lake Malawi)の記録からは、過去130万年にわたってじょじょに湿潤な気候になる傾向が明らかになっています。
こうした過去の水文学的な変化を制御した気候強制力も議論の的になっており、水文学的変化にたいして局地的な日射強制力が支配的である、と示唆した研究もあります。一方で別の研究では、インド洋における海面水温の変化が影響を及ぼしている可能性が指摘されています。本論文は、アフリカ南東部(南緯20~25度)の水文気候が、低緯度域の日射強制力(歳差と離心率)と高緯度域の氷体積の変化の相互作用により制御されていることを示しています。この結果は、過去214万年間のインド洋南西部の海面水温の再構築結果と組み合わせた、リンポポ川(Limpopo River)流域の水文学的変化の複数の代理指標による再構築結果に基づいています。
本論文は、マラウイ湖の記録から示唆される水文気候の変化とは対照的に、リンポポ川流域が100万~60万年前頃まで長期にわたって乾燥化していたことを明らかにしました。マラウイ湖における湿潤化の証拠と併せると、この結果は、高緯度域における氷体積の増大に応答して、降雨帯が赤道域に向かって収縮したことを示唆しています。陸域生態系における森林面積あるいは湿地面積が減少することで、アフリカ南東部の水文気候の変化は、その長期的な状態と著しい歳差変動の両方の観点から、初期人類の進化史、とくにロブストスの絶滅に関与していた可能性がある、と本論文は指摘しています。注目されるのは、明らかにホモ属ではないロブストスの絶滅年代が、60万年前頃までくだる可能性が提示されていることで、これまでにも散々指摘されていますが、人類進化史において、現生人類(Homo sapiens)のみが存在している現代は異例な時期と言えるでしょう。
参考文献:
Caley T. et al.(2018): A two-million-year-long hydroclimatic context for hominin evolution in southeastern Africa. Nature, 560, 7716, 76–79.
https://dx.doi.org/10.1038/s41586-018-0309-6
諏訪元(2006)「化石からみた人類の進化」『シリーズ進化学5 ヒトの進化』(岩波書店)
その問題はさておき、本論文についてですが、アフリカ南東部の過去200万年間の気候変動を復元し、人類進化との関連で論じています。過去200万年間のアフリカ東部の気候変動は、人類進化史において仮定されている役割の理解という観点から興味を持たれてきたにも関わらず、まだじゅうぶんには絞り込まれていません。アフリカ北東部の希少な古気候記録からは、じょじょに乾燥化する状況、あるいは安定した水文気候が示唆されています。対照的に、熱帯域のアフリカ南東部のマラウイ湖(Lake Malawi)の記録からは、過去130万年にわたってじょじょに湿潤な気候になる傾向が明らかになっています。
こうした過去の水文学的な変化を制御した気候強制力も議論の的になっており、水文学的変化にたいして局地的な日射強制力が支配的である、と示唆した研究もあります。一方で別の研究では、インド洋における海面水温の変化が影響を及ぼしている可能性が指摘されています。本論文は、アフリカ南東部(南緯20~25度)の水文気候が、低緯度域の日射強制力(歳差と離心率)と高緯度域の氷体積の変化の相互作用により制御されていることを示しています。この結果は、過去214万年間のインド洋南西部の海面水温の再構築結果と組み合わせた、リンポポ川(Limpopo River)流域の水文学的変化の複数の代理指標による再構築結果に基づいています。
本論文は、マラウイ湖の記録から示唆される水文気候の変化とは対照的に、リンポポ川流域が100万~60万年前頃まで長期にわたって乾燥化していたことを明らかにしました。マラウイ湖における湿潤化の証拠と併せると、この結果は、高緯度域における氷体積の増大に応答して、降雨帯が赤道域に向かって収縮したことを示唆しています。陸域生態系における森林面積あるいは湿地面積が減少することで、アフリカ南東部の水文気候の変化は、その長期的な状態と著しい歳差変動の両方の観点から、初期人類の進化史、とくにロブストスの絶滅に関与していた可能性がある、と本論文は指摘しています。注目されるのは、明らかにホモ属ではないロブストスの絶滅年代が、60万年前頃までくだる可能性が提示されていることで、これまでにも散々指摘されていますが、人類進化史において、現生人類(Homo sapiens)のみが存在している現代は異例な時期と言えるでしょう。
参考文献:
Caley T. et al.(2018): A two-million-year-long hydroclimatic context for hominin evolution in southeastern Africa. Nature, 560, 7716, 76–79.
https://dx.doi.org/10.1038/s41586-018-0309-6
諏訪元(2006)「化石からみた人類の進化」『シリーズ進化学5 ヒトの進化』(岩波書店)
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