共通の進化的起源を持つ頭蓋プラコードと神経堤

 頭蓋プラコードと神経堤の進化的起源に関する研究(Horie et al., 2018)が公表されました。脊椎動物の特徴の一つは、神経堤と呼ばれる胚性組織の存在です。しかし、神経堤がある部位には頭蓋プラコードも存在しており、プラコードと神経堤のどちらが先に生じたのか、よく分かっていません。この研究は、細胞系譜追跡・遺伝子機能阻害・単一細胞RNA塩基配列解読解析を組み合わせ、脊椎動物の祖先型である尾索動物(被嚢類)のカタユウレイボヤ(Ciona intestinalis)における側板外胚葉の特性について調べました。尾索動物(被嚢類)の胚性神経組織は、プラコードと神経堤両方の特性を持つことが知られています。

 ホヤにおける側板外胚葉のパターン形成と、脊椎動物の神経板外胚葉の区画化の間には顕著な類似点があります。どちらの系も、Six1/2、Pax3/7、Msxbの順次的な発現パターンを示し、これらは連動する調節性相互作用のネットワークに依存しています。ホヤでは、この区画化ネットワークは、それぞれに異なるものの連性のあるタイプの感覚細胞を生み出し、これらは脊椎動物の頭蓋プラコードや神経堤から派生するものと類似性が見られます。

 この研究は、ホヤにたいして単純な遺伝子機能阻害を行なったところ、ある一つの感覚細胞タイプから他のタイプへの転換が引き起こされたので、尾部の双極性ニューロンに着目しました。これらのニューロンは側板外胚葉の尾部領域から生じ、脊椎動物の神経堤から派生する後根神経節の特性を持つためです。尾部の双極性ニューロンは、ホヤのオタマジャクシ型幼生の側板の最前領域から生じる原始的プラコードの感覚細胞タイプである、付着突起感覚細胞に容易に形質転換しました。形質転換の証拠は、全胚の単一細胞RNA塩基配列解読解析により確認されました。これらの知見は、側板外胚葉の区画化が脊椎動物の出現より前に起こり、頭蓋プラコードと神経堤の両方の進化の共通起源だった、と示唆しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


進化学:脊椎動物の神経堤と頭蓋プラコードに共通する進化的起源

進化学:頭蓋プラコードと神経堤は共通の進化的起源を持つ

 脊椎動物の特徴の1つは、神経堤と呼ばれる胚性組織の存在である。しかし、神経堤がある部位には頭蓋プラコードも存在しており、プラコードと神経堤のどちらが先に生じたのかを知ることは難しい。尾索動物(被嚢類)の胚性神経組織は両方の特性を持つことが知られており、M Levineたちは今回、尾索動物のカタユウレイボヤ(Ciona intestinalis)の幼生で神経板境界領域の発生を遺伝学的に解析し、神経板境界部全体が、拡張された原始的プラコードの特性を持つことを示している。彼らはプラコードが神経堤の進化に先行していたと結論し、ホヤの神経板の区画化に用いられる遺伝子ネットワークが、脊椎動物の頭蓋プラコードと神経堤を区別する基盤となっていると示唆している。



参考文献:
Horie R. et al.(2018): Shared evolutionary origin of vertebrate neural crest and cranial placodes. Nature, 560, 7717, 228–232.
https://dx.doi.org/10.1038/s41586-018-0385-7

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック