アファレンシスの幼児の足(追記有)

 エチオピアのディキカ(Dikika)で2002年に発見されたアウストラロピテクス属の幼児化石の足に関する研究(DeSilva et al., 2018)が報道されました。この幼児化石(DIK-1-1)はアファレンシス(Australopithecus afarensis)に分類されており、エチオピアの公用語であるアムハラ語で「平和」を意味するセラム(Selam)と呼ばれています。DIK-1-1の年代は332万年前頃、年齢は2歳半、性別は女性と推定されています。DIK-1-1に関しては、二足歩行をしていたものの、肩や腕には類人猿と類似した特徴が見られ、現代人よりも樹上生活に適していたのではないか、と考えられています(関連記事)。また、DIK-1-1の脊椎骨に関しては、現生類人猿とは異なっており、現代人とは類似点と相違点の双方が見られる、とも指摘されています(関連記事)。

 本論文は、DIK-1-1のほぼ完全な足の骨を分析しました。DIK-1-1は、アファレンシスの成体標本に見られるに二足歩行の特徴の多くを有しており、アファレンシスは2歳半の時点で二足歩行をしていた、と推測されます。しかし、DIK-1-1には、母指可動性の増大および華奢な踵骨隆起と関連する外側楔状骨の特徴も見られ、アファレンシスの成体からは予期しにくい特徴でした。本論文は、DIK-1-1は絶滅人類の足の個体発生の実例としても貴重だ、と指摘しています。

 母指可動性の増大は、木登りの能力、さらには樹上生活への適応度を高める、と考えられます。アファレンシスは、それ以前に存在したアルディピテクス属(Ardipithecus)よりも移動様式では現代人に近いものの、確実に最初のホモ属と言ってよいだろうエレクトス(Homo erectus)と比較すると、現代人との違いがずっと多く見られます。と言いますか、エレクトスと現代人の移動様式は基本的には変わりません。

 アファレンシスは、祖先から継承した木登りの能力を高めるような形態的特徴を幼児期にはより強く保持していましたが、これは、まだ火を制御できなかっただろうアウストラロピテクス属において、幼児が捕食者から身を守るのに地上よりも樹上の方が適していたことによる、選択圧が反映されているのかもしれません。また、アファレンシスの母親が子供を抱えて移動するさいに、木登りの能力を高めるような子供の形態的特徴が有利に作用した可能性も指摘されています。これもまた、アファレンシスの幼児の足の形態の選択圧になったかもしれません。


参考文献:
DeSilva JM. et al.(2018): A nearly complete foot from Dikika, Ethiopia and its implications for the ontogeny and function of Australopithecus afarensis. Science Advances, 4, 7, eaar7723.
https://dx.doi.org/10.1126/sciadv.aar7723


追記(2018年7月6日)
 ナショナルジオグラフィックでも報道されました。

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