門脇誠二「西アジアにおける新人の拡散・定着期の行動研究:南ヨルダンの遺跡調査」

本論文は、文部科学省科学研究費補助金(新学術領域研究)2016-2020年度「パレオアジア文化史学」(領域番号1802)計画研究A02「ホモ・サピエンスのアジア定着期における行動様式の解明」の2016年度研究報告書(PaleoAsia Project Series 4)に所収されています。公式サイトにて本論文をPDFファイルで読めます(P8-13)。「パレオアジア文化史学」については以前から知っていたのですが、取り上げるのが遅れてしまいました。この他にも興味深そうな報告があるので、今後当ブログで取り上げていくつもりです。

本論文は、現生人類(Homo sapiens)がアフリカから西アジアに拡散して定着し、さらにヨーロッパやアジアの周辺地域へ分布域を広げつつあった時期の南ヨルダンの複数の遺跡の調査結果を簡潔に報告しています。石器の技術形態や使用痕・動物遺骸の同位体分析・放射性炭素法や光刺激ルミネッセンス法や熱ルミネッセンス法による年代測定など、これから本格的に分析が進むとのことで、楽しみです。

本論文は、解明すべき問題を3点に整理しています。一つ目は、現生人類の出アフリカの年代と、その時の環境や人類行動です。二つ目は、西アジアで生じた行動変化はヨーロッパなどの次の拡散先に引き継がれたのか、ということです。三つ目は古代型ホモ属から現生人類への置換にも関わらず、その前後の期間において行動や技術に連続性が認められる理由です。このような問題意識のもと、本論文は今後の具体的な分析内容として、石器を中心とした道具製作・陸生や水生の資源利用・居住や移動・墓や炉や象徴品などの社会関係を挙げています。

本論文が具体的に取り上げている遺跡は、死海地溝帯南部のアラバ渓谷(Wadi Araba)の東岸に位置する、カルハ山(Jebel Qalkha)一帯にあります。それらは、ワディアガル(Wadi Aghar)、トールハマル(Tor Hamar)、トールファワズ(Tor Fawaz)、トールアエイド(Tor Aeid)、ジェベルヒュメイマ(Jebel Humeima)です。トールハマル岩陰遺跡では、年代が新しくなるにつれ、中部旧石器時代のムステリアン(Mousterian)→上部旧石器時代前半となる4万年前頃の前期アハマリアン(Early Ahmarian)→終末期旧石器時代前葉となる2万年前頃のカルハン(Qalkhan)→終末期旧石器時代前葉となる15000万年前頃のムシャビアン(Mushabian)と文化が移行します。

ワディアガル岩陰遺跡ではどの層からも、ルヴァロワ(Levallois)様尖頭器、打面の大きい大型石刃、それを素材にしたエンドスクレーパーなど、上部旧石器時代初頭文化の技術形態的特徴をもつ石器群が発見されました。トールアエイド岩陰遺跡の石器群は、前期アハマリアンの石器製作伝統に相当する、とのことです。トールファワズ遺跡の石器群は上部旧石器的ですが、石器製作伝統の同定が不明とのことです。しかし、技術形態学的に、上部旧石器時代初頭と前期アハマリアンの溝を埋めるものと見込まれているそうで、今後の研究の進展が期待されます。


参考文献:
門脇誠二(2017)「西アジアにおける新人の拡散・定着期の行動研究:南ヨルダンの遺跡調査」『パレオアジア文化史学:ホモ・サピエンスのアジア定着期における行動様式の解明2016年度研究報告書(PaleoAsia Project Series 4)』P8-13

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