ネアンデルタール人の火起こし
ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の火起こしに関する研究(Sorensen et al., 2018)が報道されました。ネアンデルタール人が火を用いていたことは確実で、接着剤としてのタールの生産(関連記事)や木製棒の製作(関連記事)でも火を用いていた可能性が指摘されています。しかし、ネアンデルタール人が道具により火を起こせたのか、それとも自然火を集めて火を維持していたのか、議論が続いています。
本論文は、おもに5万年前頃となる、フランスの広範な地域の遺跡で発見された、後期ムステリアン(Mousterian)層の石器群を分析し、この問題を検証しました。本論文の取り上げた後期ムステリアンはおもに、アシューリアン(Acheulean)伝統ムステリアン(MTA)に分類されます。本論文は、後期ムステリアンの燧石製の両面加工石器の使用痕を分析し、堅い金属物質との繰り返しの打撃および(もしくは)強烈な摩耗である可能性を指摘しています。石器の溝は縦軸に並行で、自然に生成されたものではない可能性が高そうです。
本論文は、実験考古学的手法も用いました。火起こしに用いたと考えられるネアンデルタール人の両面加工石器の痕跡と最も近いものが生じたのは、黄鉄鉱に打ち付けた時でした。現生人類(Homo sapiens)の遺跡からは、黄鉄鉱と燧石製の石器とを打ち合わせて火を起こしていた証拠が確認されています。この点からも、ネアンデルタール人が火を起こしていた可能性は高い、と考えられます。火の制御により、火は必要とする度に起こせばよくなるわけですから、自然火を維持するために大量の燃料を必要としないという点で、ネアンデルタール人が寒冷な地域で生存していくさいに有利となったでしょう。
ネアンデルタール人が火を制御できていた証拠は、まだ本論文のような水準で広範な時空間にて確認されたわけではありませんが、ネアンデルタール人はアフリカの多くの地域よりも寒冷なヨーロッパにおいて長年進化してきた系統なわけで、5万年前頃よりもずっと前から、火を制御できていた可能性は高いと思います。もちろん、ネアンデルタール人の火の制御が現生人類よりも劣っていた可能性はありますが。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
【考古学】やはりネアンデルタール人は火をおこしていた
ネアンデルタール人は、現生人類と同じように、石器を使って火をおこす方法を知っていた、とする研究報告が、今週発表される。
ネアンデルタール人が火を利用していたことは過去の研究で明らかになっているが、火をどのようにして手に入れていたのか(野火を集めていたのか、あるいは自分でおこしていたのか)をめぐる論争は決着していない。黄鉄鉱(鉄を含む鉱物の1種)とフリント(石英の微細結晶からなる黒灰色の硬い岩石)を打ち合わせて火をおこしていたことの証拠となる、独特の形状のフリント製石器がユーラシア全土の数多くのホモサピエンスの遺跡から出土している。しかし、そのような石器は、ネアンデルタール人の遺跡からは見つかっていない。
今回、Andrew Sorensenたちの研究グループは、過去に発見されたフリント製石器で、ネアンデルタール人が他の作業(例えば、動物の食肉処理)に用いていたとされるものを対象に、火をおこすために用いられていた可能性を示す痕跡がないかどうかを調べた。その結果、このフリント製石器に鉱物の痕跡が同定され、硬い無機物質が繰り返し打ち付けられていたことが示唆された。次にSorensenたちは、フリント製石器のレプリカを作り、それらを使ってさまざまな石質材が関係する数々の作業(黄鉄鉱の破片を使って火をおこすなど)を行い、8個のレプリカに鉱物の痕跡を残した。
Sorensenたちは、こうした各作業においてフリント製石器のレプリカに残されたさまざまな痕跡を分析し、火をおこす作業によって残された痕跡が、過去に発見されたネアンデルタール人の石器に見られる鉱物の痕跡との一致度が最も高いと結論付けた。このことから、ネアンデルタール人自身が石器を使って火をおこしていたことが示唆される。
参考文献:
Sorensen AC, Claud E, and Soressi M.(2018): Neandertal fire-making technology inferred from microwear analysis. Scientific Reports, 8, 10065.
https://dx.doi.org/10.1038/s41598-018-28342-9
本論文は、おもに5万年前頃となる、フランスの広範な地域の遺跡で発見された、後期ムステリアン(Mousterian)層の石器群を分析し、この問題を検証しました。本論文の取り上げた後期ムステリアンはおもに、アシューリアン(Acheulean)伝統ムステリアン(MTA)に分類されます。本論文は、後期ムステリアンの燧石製の両面加工石器の使用痕を分析し、堅い金属物質との繰り返しの打撃および(もしくは)強烈な摩耗である可能性を指摘しています。石器の溝は縦軸に並行で、自然に生成されたものではない可能性が高そうです。
本論文は、実験考古学的手法も用いました。火起こしに用いたと考えられるネアンデルタール人の両面加工石器の痕跡と最も近いものが生じたのは、黄鉄鉱に打ち付けた時でした。現生人類(Homo sapiens)の遺跡からは、黄鉄鉱と燧石製の石器とを打ち合わせて火を起こしていた証拠が確認されています。この点からも、ネアンデルタール人が火を起こしていた可能性は高い、と考えられます。火の制御により、火は必要とする度に起こせばよくなるわけですから、自然火を維持するために大量の燃料を必要としないという点で、ネアンデルタール人が寒冷な地域で生存していくさいに有利となったでしょう。
ネアンデルタール人が火を制御できていた証拠は、まだ本論文のような水準で広範な時空間にて確認されたわけではありませんが、ネアンデルタール人はアフリカの多くの地域よりも寒冷なヨーロッパにおいて長年進化してきた系統なわけで、5万年前頃よりもずっと前から、火を制御できていた可能性は高いと思います。もちろん、ネアンデルタール人の火の制御が現生人類よりも劣っていた可能性はありますが。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
【考古学】やはりネアンデルタール人は火をおこしていた
ネアンデルタール人は、現生人類と同じように、石器を使って火をおこす方法を知っていた、とする研究報告が、今週発表される。
ネアンデルタール人が火を利用していたことは過去の研究で明らかになっているが、火をどのようにして手に入れていたのか(野火を集めていたのか、あるいは自分でおこしていたのか)をめぐる論争は決着していない。黄鉄鉱(鉄を含む鉱物の1種)とフリント(石英の微細結晶からなる黒灰色の硬い岩石)を打ち合わせて火をおこしていたことの証拠となる、独特の形状のフリント製石器がユーラシア全土の数多くのホモサピエンスの遺跡から出土している。しかし、そのような石器は、ネアンデルタール人の遺跡からは見つかっていない。
今回、Andrew Sorensenたちの研究グループは、過去に発見されたフリント製石器で、ネアンデルタール人が他の作業(例えば、動物の食肉処理)に用いていたとされるものを対象に、火をおこすために用いられていた可能性を示す痕跡がないかどうかを調べた。その結果、このフリント製石器に鉱物の痕跡が同定され、硬い無機物質が繰り返し打ち付けられていたことが示唆された。次にSorensenたちは、フリント製石器のレプリカを作り、それらを使ってさまざまな石質材が関係する数々の作業(黄鉄鉱の破片を使って火をおこすなど)を行い、8個のレプリカに鉱物の痕跡を残した。
Sorensenたちは、こうした各作業においてフリント製石器のレプリカに残されたさまざまな痕跡を分析し、火をおこす作業によって残された痕跡が、過去に発見されたネアンデルタール人の石器に見られる鉱物の痕跡との一致度が最も高いと結論付けた。このことから、ネアンデルタール人自身が石器を使って火をおこしていたことが示唆される。
参考文献:
Sorensen AC, Claud E, and Soressi M.(2018): Neandertal fire-making technology inferred from microwear analysis. Scientific Reports, 8, 10065.
https://dx.doi.org/10.1038/s41598-018-28342-9
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