人類の器用な手の進化の要因

 人類の器用な手の進化の要因を検証した研究(Williams-Hatala et al., 2018)が報道されました。石器の製作・使用による身体力学的圧力は、人類の手の進化に影響を与えた、と考えられています。この見解は広く受け入れられていますが、人類は石器を製作・使用し始めた頃より、石器をさまざまな目的で用いていたと推測されており、石器関連のすべての行動が、人類の手の進化に等しく影響を及ぼした、というわけではなさそうです。

 本論文は、手にかかる圧力が、人類の手の進化への選択圧になったのではないか、との前提で、実験考古学的手法によりこの問題を検証しました。本論文は、鮮新世~更新世の初期人類が取ったと思われる石器関連の行動を39人の参加者に実施させ、そのさいに手にかかる圧力を測定しました。その行動とは、堅果の破砕・ハンマーストーンによる高カロリーの骨髄の抽出や剥片生産などです。その結果、行動の違いに影響を受けにくい基節骨のような領域もありましたが、その他の領域では、行動の違いによりかかる圧力に違いが見られ、とくに重要なのは親指・人差し指・中指でした。

 一貫して手に最大の圧力をかけた行動は、ハンマーストーンによる骨髄採取や剥片生産でした。本論文は、骨髄は高カロリーで、その入手が生存・繁殖に重要だったと考えられることからも、骨髄の入手およびそのための石器製作が、人類の手の進化の重要な選択圧になったのではないか、と推測しています。一方、堅果の破砕にはさほどの圧力はかからず、人類の手の進化の要因として不充分であるとともに、堅果の破砕に長けた他の霊長類の手に、人類のような手への進化を促す選択圧がかからなかった一因になったのではないか、と指摘されています。


参考文献:
Williams-Hatala EM. et al.(2018): The manual pressures of stone tool behaviors and their implications for the evolution of the human hand. Journal of Human Evolution, 119, 14–26.
https://doi.org/10.1016/j.jhevol.2018.02.008

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