NHKスペシャル『人類誕生』第3集「ホモ・サピエンス ついに日本へ!」

 第1集(関連記事)と第2集(関連記事)は当ブログで取り上げました。今回は第3集で、現生人類(Homo sapiens)の日本列島への到達が解説されました。海路での日本列島への到達に関しては、実験考古学の成果が長く紹介されていました。当時と現代とでは、地形や海流に違いがあったのではないか、との批判もあるでしょうが、興味深い試みだと思います。ただ、南方からの海路とその検証としての実験考古学的試みに時間を割き過ぎたかな、との印象は否めません。北方経路について、もっと取り上げてもらいたかったものです。

 全体的な論調として気になったのは、現生人類は複雑な工程を要する道具製作や、未知の世界に乗り出す探求心により世界中に拡散でき、それはネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)など他系統の人類にはできなかったことだ、というような論調が強かったことです。確かに、たとえば縫い針をネアンデルタール人が用いた証拠はまだありませんし、今後も得られる可能性はきわめて低そうですが、一方で、縫い針など現生人類特有とされる行動や道具の多くが、ネアンデルタール人の滅亡後に現れることも考慮すべきではないか、と思います。現生人類特有とされる行動や道具がネアンデルタール人に見られないのは、先天的な違いに起因するのではなく、人口増やそれに伴う他集団との交流密度の高まりなどといった、後天的な社会的要因に起因する可能性もあると思います。ネアンデルタール人も、後数万年ほど生き延びていたら、現生人類特有とされる行動や道具の一部が見られるようになったかもしれず、その可能性は無視してよいほど低いわけではない、と私は考えています。じっさい、現生人類ほど長い距離ではありませんが、ネアンデルタール人が航海を行なっていた可能性も指摘されており(関連記事)、その時代にはまだ現生人類が長距離航海を行なっていた証拠は得られていないと思います。

 洞窟壁画に関しては、インドネシアの壁画(関連記事)が現生人類のものとしては最古と紹介されていましたが、スペイン北部の洞窟壁画の方がやや早いかもしれません(関連記事)。もっとも、スペイン北部の洞窟壁画を描いたのが現生人類とは確定していませんが。それはともかく、洞窟壁画に関して現時点の証拠では、ネアンデルタール人の方がずっと早いことになりそうです(関連記事)。ただ、今回取り上げられていたような、動物など具象的絵画に関しては、ほぼ間違いなくネアンデルタール人所産のものはまだ確認されていません。しかし、ネアンデルタール人の所産と思われる壁画のある洞窟には具象的なものもあり、まだ年代が確定していないのでネアンデルタール人の所産とは確定していないものの、その可能性は低くないと思います。また、仮にネアンデルタール人が具象的な壁画を残さなかったとしても、上述の東南アジアやスペイン北部の事例がそうであるように、現生人類の初期の洞窟壁画も手形のような稚拙なもので、具象的で「高度」とされるような壁画はネアンデルタール人滅亡後のものです。洞窟壁画に関しても、ネアンデルタール人が後数万年ほど生き延びていたら、「高度な」具象的絵画を描けた可能性は、無視してよいほど低いものではないと思います。ネアンデルタール人と現生人類との間に何らかの認知能力の違いがあり、それが現生人類の世界中への拡散とネアンデルタール人の絶滅の要因となった可能性は低くないでしょうが、少なくとも現時点では、断定は時期尚早だと思います。

この記事へのコメント

kurozee
2018年07月19日 17:40
「H・サピエンスは○○を発明したから××できた」という、いつものNHKパターンでした。まあそれはやむを得ないとして、韓半島経由の渡来ルートが無視されていたのはなぜでしょうかねえ。
ぜひ家族に見せたいと思っていたのですが、これだとかなり偏った知識を与えてしまいかねないと思った次第。
2018年07月20日 19:04
出演していた海部氏は、日本列島最古の現生人類は対馬経由で到来した、と著書で述べていますから、確かにそこは疑問が残るところですね。航海実験に時間を割き過ぎたのでしょうか。

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