アメリカ大陸在来イヌの起源と現代のイヌへの影響(追記有)

 アメリカ大陸在来イヌの起源と現代のイヌへの影響に関する研究(Leathlobhair et al., 2018)が報道されました。『サイエンス』のサイトには解説記事が掲載されています。アメリカ大陸には古くからイヌがおり、アメリカ大陸最初のイヌは暦年代で10190~9630年前と推定されているので、アメリカ大陸への人類最初の拡散よりも数千年遅れたようです。19世紀にアメリカ大陸在来イヌを見たヨーロッパ系アメリカ人は、ヨーロッパ系のイヌとは異なりオオカミに似ていることに驚きました。しかし、アメリカ大陸在来イヌの起源と、現代のイヌへの影響については、多くが未解明です。

 本論文は、10000~1000年前頃におよぶ、北アメリカ大陸とシベリアのイヌのDNAを解析しました。内訳は、71匹分のミトコンドリアDNA(mtDNA)と7匹の核DNAです。これらは現代および古代の145頭のイヌと比較されました。その結果、アメリカ大陸の品古代イヌは他のイヌに見られない遺伝的特徴を有している、と明らかになりました。19世紀にヨーロッパ系アメリカ人が遭遇したアメリカ大陸在来イヌは、ヨーロッパ系のイヌとは遺伝的に異なっていたわけです。

 mtDNAの解析でアメリカ大陸在来イヌと最も類似していたのは、シベリアの北方にあるジョホフ(Zhokhov)島の9000年前頃のイヌでした。両系統の推定分岐年代は16000年前頃で、この頃にイヌが家畜化された、との見解も提示されています。アメリカ大陸在来イヌの起源は、北アメリカ大陸のオオカミではなく、シベリアの集団だと考えられます。先コロンブス期のアメリカ大陸のイヌ7匹の核DNA解析でも、アメリカ大陸の在来イヌは他のイヌと遺伝的に異なっており、最も近い現生種はアラスカンマラミュートやシベリアンハスキーのような北極圏の品種と明らかになりました。

 アメリカ大陸在来イヌ系統は、現代のイヌに遺伝的影響をほとんど与えていません。これに関しては、アメリカ大陸先住民集団がヨーロッパ系人類集団のアメリカ大陸への侵出にともない、大打撃を受けたこととの類似性が指摘されています。ヨーロッパ系のイヌがアメリカ大陸へと導入されたことで、アメリカ大陸在来イヌ系統は衰退していったのではないか、というわけです。また、ヨーロッパ系アメリカ人がオオカミに似た外見のアメリカ大陸在来イヌを駆除した影響があった可能性も指摘されています。このように、アメリカ大陸在来イヌ系統は現代のイヌにほとんど遺伝的影響を及ぼしていないようですが、イヌ性感染腫瘍に関しては、アメリカ大陸在来イヌ系統から現代のイヌへの影響が指摘されています。


参考文献:
Leathlobhair MN. et al.(2018): The evolutionary history of dogs in the Americas. Science, 361, 6397, 81–85.
https://dx.doi.org/10.1126/science.aao4776


追記(2018年7月9日)
 ナショナルジオグラフィックでも報道されました。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック