ネアンデルタール人による近距離狩猟
ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)による狩猟方法に関する研究(Gaudzinski-Windheuser et al., 2018)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。イギリスやドイツでの証拠から、ヨーロッパの30万年前頃の人類は槍を用いていた、と明らかになっています。槍を用いていた人類とは具体的には、ネアンデルタール人やその前からヨーロッパに存在していたハイデルベルク人(Homo heidelbergensis)が想定されます。しかし、獲物の動物種も槍も、狩猟による損傷の証拠が残っていることは稀で、とりわけ両者がそろっている例はほとんどないため、木製の槍がどのように使われていたのかは、あまり明らかになっていませんでした。
本論文は、顕微鏡画像撮影法と条痕試験を用いて、ドイツのノイマルクノルト(Neumark-Nord)遺跡で発見された12万年前頃のダマジカ2頭の遺骸に見られる損傷を実験的に再現しました。ノイマルクノルト遺跡ではアカシカ・ダマジカ・ウマ・ウシなどの大型哺乳動物の多数の骨や、数千個もの石器が発見されています。当時は温暖期で、ノイマルクノルト遺跡周辺は大型動物の反映した森林環境だった、と推測されています。
実権の結果、少なくとも一つの打撃痕は低速で動く木製の槍で刻まれたものであると確認され、このダマジカはおそらく共同的な待ち伏せ戦術の一環として、近距離から木製の鋭い槍で突かれて死んだのだろう、と推測されています。これは、ネアンデルタール人が木々の密集した狭い場所で狩猟を行なう能力を有していた、と示しており、複雑な狩猟戦略と協調的な行動を窺わせる、と指摘されています。ただ、ネアンデルタール人が遠距離から投げ槍を用いて狩猟を行なっていた可能性を排除するものではない、とも強調されています。
ネアンデルタール人の狩猟能力に関しては色々と議論されてきましたが、近年では、ネアンデルタール人見直し傾向(関連記事)に沿って、ネアンデルタール人と現生人類(Homo sapiens)との狩猟に大きな違いはなかった、と想定する見解が有力になりつつあるように思います。ヨーロッパの事例では、フランスの遺跡の動物遺骸の分析から、本論文でも指摘されているように、ネアンデルタール人は共同で狩猟を行なっていたのではないか、と推測されており、ネアンデルタール人に少なくとも一定以上の計画性があったことも想定されています(関連記事)。レヴァントの事例からは、ネアンデルタール人の狩猟戦略が状況の変化に応じた柔軟なものだった、と指摘されています(関連記事)。
ただ、本論文でも、ネアンデルタール人の狩猟法として接近戦が想定されているように(上述したように、遠距離戦が否定されているわけではありませんが)、接近戦主体のネアンデルタール人と遠距離戦主体の現生人類との狩猟法には大きな違いがあり、それが芸術活動の質・量の違いになっている、との見解も提示されています(関連記事)。ネアンデルタール人と現生人類との狩猟の類似点と相違点については、今後の研究の進展が注目されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
ネアンデルタール人は槍を使って狩りをしていた
ネアンデルタール人がシカ猟で近距離から槍を使っていたことを明らかにした論文が、今週掲載される。
ネアンデルタール人やさらに古いヒト族ホモ・ハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)が狩猟で槍を使っていたという説は、英国とドイツで過去に発掘された40万~30万年前の木製の槍が裏付けている。しかし、獲物の動物種も槍も、狩猟による損傷の証拠が残されていることはまれで、とりわけ両者がそろっている例はほとんどないため、木製の槍がどのように使われていたのかは推測するしかなかった。
Sabine Gaudzinski-Windheuserたちは、顕微鏡画像撮影法と条痕試験を用いて、ノイマルク・ノルト遺跡(ドイツ)の12万年前の湖畔跡から出土したダマジカ骨格に見られる狩猟による損傷を実験的に再現した。Gaudzinski-Windheuserたちは、このシカが、おそらく共同的な待ち伏せ戦術の一環として、近距離から木製の鋭い槍で突かれて死んだのだろうと論じている。
関連するNews & Viewsの中で、Annemieke Milksは、ノイマルク・ノルト遺跡のシカが近距離からの槍で仕留められていたという事実について、別の場所のネアンデルタール人が遠距離から投げ槍を用いて狩猟を行っていた可能性を排除するものではないと強調している。しかし今回の研究成果は、ネアンデルタール人が木々の密集した狭い場所で狩猟を行う能力を持っていたことを示しており、複雑な狩猟戦略と協調的な行動をうかがわせる、とMilksは指摘している。
参考文献:
Gaudzinski-Windheuser S. et al.(2018): Evidence for close-range hunting by last interglacial Neanderthals. Nature Ecology & Evolution, 2, 1087–1092.
https://dx.doi.org/10.1038/s41559-018-0596-1
本論文は、顕微鏡画像撮影法と条痕試験を用いて、ドイツのノイマルクノルト(Neumark-Nord)遺跡で発見された12万年前頃のダマジカ2頭の遺骸に見られる損傷を実験的に再現しました。ノイマルクノルト遺跡ではアカシカ・ダマジカ・ウマ・ウシなどの大型哺乳動物の多数の骨や、数千個もの石器が発見されています。当時は温暖期で、ノイマルクノルト遺跡周辺は大型動物の反映した森林環境だった、と推測されています。
実権の結果、少なくとも一つの打撃痕は低速で動く木製の槍で刻まれたものであると確認され、このダマジカはおそらく共同的な待ち伏せ戦術の一環として、近距離から木製の鋭い槍で突かれて死んだのだろう、と推測されています。これは、ネアンデルタール人が木々の密集した狭い場所で狩猟を行なう能力を有していた、と示しており、複雑な狩猟戦略と協調的な行動を窺わせる、と指摘されています。ただ、ネアンデルタール人が遠距離から投げ槍を用いて狩猟を行なっていた可能性を排除するものではない、とも強調されています。
ネアンデルタール人の狩猟能力に関しては色々と議論されてきましたが、近年では、ネアンデルタール人見直し傾向(関連記事)に沿って、ネアンデルタール人と現生人類(Homo sapiens)との狩猟に大きな違いはなかった、と想定する見解が有力になりつつあるように思います。ヨーロッパの事例では、フランスの遺跡の動物遺骸の分析から、本論文でも指摘されているように、ネアンデルタール人は共同で狩猟を行なっていたのではないか、と推測されており、ネアンデルタール人に少なくとも一定以上の計画性があったことも想定されています(関連記事)。レヴァントの事例からは、ネアンデルタール人の狩猟戦略が状況の変化に応じた柔軟なものだった、と指摘されています(関連記事)。
ただ、本論文でも、ネアンデルタール人の狩猟法として接近戦が想定されているように(上述したように、遠距離戦が否定されているわけではありませんが)、接近戦主体のネアンデルタール人と遠距離戦主体の現生人類との狩猟法には大きな違いがあり、それが芸術活動の質・量の違いになっている、との見解も提示されています(関連記事)。ネアンデルタール人と現生人類との狩猟の類似点と相違点については、今後の研究の進展が注目されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
ネアンデルタール人は槍を使って狩りをしていた
ネアンデルタール人がシカ猟で近距離から槍を使っていたことを明らかにした論文が、今週掲載される。
ネアンデルタール人やさらに古いヒト族ホモ・ハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)が狩猟で槍を使っていたという説は、英国とドイツで過去に発掘された40万~30万年前の木製の槍が裏付けている。しかし、獲物の動物種も槍も、狩猟による損傷の証拠が残されていることはまれで、とりわけ両者がそろっている例はほとんどないため、木製の槍がどのように使われていたのかは推測するしかなかった。
Sabine Gaudzinski-Windheuserたちは、顕微鏡画像撮影法と条痕試験を用いて、ノイマルク・ノルト遺跡(ドイツ)の12万年前の湖畔跡から出土したダマジカ骨格に見られる狩猟による損傷を実験的に再現した。Gaudzinski-Windheuserたちは、このシカが、おそらく共同的な待ち伏せ戦術の一環として、近距離から木製の鋭い槍で突かれて死んだのだろうと論じている。
関連するNews & Viewsの中で、Annemieke Milksは、ノイマルク・ノルト遺跡のシカが近距離からの槍で仕留められていたという事実について、別の場所のネアンデルタール人が遠距離から投げ槍を用いて狩猟を行っていた可能性を排除するものではないと強調している。しかし今回の研究成果は、ネアンデルタール人が木々の密集した狭い場所で狩猟を行う能力を持っていたことを示しており、複雑な狩猟戦略と協調的な行動をうかがわせる、とMilksは指摘している。
参考文献:
Gaudzinski-Windheuser S. et al.(2018): Evidence for close-range hunting by last interglacial Neanderthals. Nature Ecology & Evolution, 2, 1087–1092.
https://dx.doi.org/10.1038/s41559-018-0596-1
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