アフリカ南部の初期人類の頭蓋

 アフリカ南部の初期人類の頭蓋に関する研究(Beaudet et al., 2018)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。本論文は、多数の初期人類化石が発見されていることで有名な、南アフリカ共和国ヨハネスブルク市の北西40kmにある、スタークフォンテン洞窟(Sterkfontein Caves)遺跡の400万年前頃の初期人類頭蓋StW 578を、南アフリカ共和国の他の初期人類化石や、現代人10人および現生チンパンジー10頭の頭蓋と、高解像度の顕微鏡断層撮影法により比較しました。比較対象となった初期人類化石は、スタークフォンテンの4標本(StW 505、Sts 5、Sts 25、Sts 71)、スワートクランズ(Swartkrans)の3標本(SK 46、SK 48、SK 49)、マカパンスガット(Makapansgat)の3標本(MLD 1、MLD 10、 MLD 37/38)です。

 本論文はこれらの頭蓋を、アウストラロピテクス属もしくはパラントロプス属のどちらかに分類しました。頭蓋の厚さや組織構造において、StW 578はアウストラロピテクス属に分類されます。StW 578の頭蓋は比較的厚く、おもに海綿骨から構成されています。これは現代人にも見られる解剖学的特徴です。スタークフォンテンの4標本のうち、StW 505およびSts 71もStW 578と同様にアウストラロピテクス属に分類されました。一方、パラントロプス属の頭蓋は比較的薄く、おもに緻密骨から構成されています。

 現代人とアウストラロピテクス属に見られる、おもに綿骨から構成される厚い頭蓋は、脳の血流という点で両者が類似していた可能性を示唆します。また、ホモ属における脳容量の増大にさいして、頭蓋が脳の保護に重要な役割を果たした可能性も示唆しています。現代人がアウストラロピテクス属の一系統から進化した可能性は高い、と言えるでしょう。一方、パラントロプス属の頭蓋はアウストラロピテクス属とも現代人とも異なる特徴を有しており、これは派生的と言えそうです。すでに定説になっていましたが、パラントロプス属は現代人系統とは異なる系統である、と改めて確認されたと言えそうです。


参考文献:
Beaudet A. et al.(2018): Cranial vault thickness variation and inner structural organization in the StW 578 hominin cranium from Jacovec Cavern, South Africa. Journal of Human Evolution, 121, 204–220.
https://doi.org/10.1016/j.jhevol.2018.04.004

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