クローヴィス文化の埋葬遺骸の年代の見直し

 クローヴィス(Clovis)文化の埋葬遺骸の年代を見直した研究(Becerra-Valdivia et al., 2018)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。以下の年代はすべて、放射性炭素年代測定法による較正年代です。本論文は、クローヴィス文化としては現時点で唯一の埋葬遺骸となる、アメリカ合衆国モンタナ州西部のアンジック(Anzick)遺跡の男児(Anzick-1)の年代を測定し直しました。クローヴィス文化集団は最初のアメリカ大陸の住民ではありませんが、13000年前頃に出現した、アメリカ大陸では最初の広範な文化です。

 アンジック1(Anzick-1)は幼児でゲノムが解析されており、クローヴィス文化集団は遺伝的に現代のアメリカ大陸先住民集団に大きな影響を及ぼしている、と推測されています(関連記事)。その意味で、クローヴィス文化集団はアメリカ大陸最初の住民ではなくとも、その意義は大きいと言えるでしょう。じっさい、先クローヴィス文化期の遺跡はクローヴィス文化期以降の遺跡と比較して少なく、時空間的に孤立しており、継続的な移住とはならなかった偶発的な拡散にすぎなかった、との見解も提示されています(関連記事)。

 アンジック1集団は、現代のアメリカ大陸先住民でも北部よりも中部・南部の集団の方と遺伝的に近縁と推測されており、アメリカ大陸先住民集団は、アメリカ大陸への移住から早い時期に「北部系統」と「南部系統」に分岐し、中央および南アメリカ大陸の先住民集団の祖先は南部系統のみだった、と考えられていましたが、その後、現代の南アメリカ大陸先住民集団には、南部系統だけではなく北部系統の遺伝的影響もある、と明らかになりました(関連記事)。

 アンジック遺跡では、鹿の枝角の骨角器や石器などクローヴィス文化の人工遺物が発見されました。これまで問題となってきたのは、アンジック1よりもクローヴィス文化の人工遺物である鹿の枝角の骨角器の年代の方が古いことでした。そのため、アンジック1はクローヴィス文化集団に属していたわけではない、とも考えられていました。本論文は、異なる前処理法を用いて改めて年代を測定し直し、アンジック1と骨角器の年代はともに12900~12725年前頃でほぼ一致し、13000~12700年前というクローヴィス文化終末期に収まることを明らかにしました。アンジック1はやはりクローヴィス文化集団に属していたわけです。


参考文献:
Becerra-Valdivia L. et al.(2018): Reassessing the chronology of the archaeological site of Anzick. PNAS, 115, 27, 7000–7003.
https://doi.org/10.1073/pnas.1803624115

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