「朝鮮人は世界でも類を見ないほど均一なDNA塩基配列の持ち主」との言説に関する備忘録
今でもわりとよく、表題のような言説というかコピペをネットで見かけます。そのたびに、どんな関連記事があったのか、検索するのは面倒なので、一度短く集約しておくことにします。コピペなので、ブログ・掲示板などでよく見かけますが、たとえばあるブログ記事では、以下のように引用されています。
米人類学者Cavalii-Sforzaの遺伝子勾配データによれば、 朝鮮人は世界でも類を見ないほど均一なDNA塩基配列の持ち主であり、これは過去において大きな Genetic Drift(少数の人間が近親相姦を重ねて今の人口動態を形成)か、あるいは近親相姦を日常的に繰り返す文化の持ち主だった事を表します。
(文献:The Great Human Diasporas: The History of Diversity and Evolution. 1995.. Luigi Luca Cavalii-Sforza and Francesco Cavalli-Sforza. Addison Wesley Publ. ISBN 0-201-44231-0)
遺伝的浮動(genetic drift)の理解が間違っているのですが、それはさておき、参考文献も挙げられているものの、じっさいに検証した人によると(関連記事)、「朝鮮人は世界でも類を見ないほど均一なDNA塩基配列の持ち主」といった見解は提示されていないそうです。また、別の参考文献を根拠に、「コリアンのデータが、普通ではありえないほど均一なものになっている」と主張する人もいますが(関連記事)、こちらも、その参考文献を直接読んだ方がデマだと断定しています(関連記事)。
上記コピペのような認識の根拠としてその他には、「ネイチャー電子版で2015年に発表されたと思う」とあるスレッドに投稿した人がおり(レス番号596)、その二つ後のスレッドで、「nature 538 7624」とやや具体的な情報を挙げた人もいます(レス番号562)。おそらくこれは、『ネイチャー』に掲載された韓国人の高品質なゲノム配列に関する研究(Seo et al., 2016)だと思います。しかし、この研究は、韓国人は遺伝的に均一だとか、韓国人では近親婚の頻度が高いとかいったことを一切述べていません。あるいは、ヒト参照ゲノムとの直接比較から、未知の(というか、その時点では報告されていない)挿入が多数見つかった、との知見が曲解されているのかもしれませんが、その多くはアジア人集団全体で共通している、とこの研究は指摘しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
遺伝学:韓国人のゲノムのde novoアセンブリとフェージング解析
遺伝学:韓国人のゲノム
今回J Seoたちは、PacBio社のロングリード塩基配列解読、イルミナ社のショートリード塩基配列解読、10X Genomics社のlinked read(合成ロングリード)、細菌人工染色体(BAC)を用いた塩基配列解読、およびBioNano Genomics社の光学マッピングを用いて、韓国人1個体のゲノムのde novoアセンブリおよびフェージング解析を行った。得られたデータは、集団特異的な参照ゲノムとして有用な、これまでで最も連続的なヒトゲノムアセンブリである。この研究により、ヒト参照ゲノムに存在していた数多くのギャップが埋められ、構造的多様性が明らかになった。
まず間違いなく、韓国人、あるいは朝鮮半島全体に対象を拡大して朝鮮民族(朝鮮半島地域集団)が、他民族と比較して著しく遺伝的に均一だ、と報告した研究はないと思います。おそらく、朝鮮半島地域集団が他地域集団との比較でより遺伝的に均一だとか、その要因として近親婚の頻度が他地域集団より高いとか報告したまともな研究もないだろう、と思います。現代日本社会で浸透している朝鮮半島関連の情報にはガセネタが少なくないようですから、私も注意しておかねばなりません。
なお、地域集団単位で近親婚の頻度が高いことはゲノム解析により推測でき、たとえばアラビア人やイラン人は歴史的に高頻度の近親婚が行なわれてきた、と推測されています(関連記事)。また、パキスタン人についても、高頻度の近親婚が指摘されています(関連記事)。個人単位でも、両親が近親だったか否か、ゲノム解析により推測でき、たとえば、アルタイ地域のネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)は、両親が半きょうだい(片方の親のみを同じくするきょうだい)のような近親関係にあったのではないか、と推測されています(関連記事)。一方、クロアチアのネアンデルタール人に関しては、両親はアルタイ地域のネアンデルタール人ほどの近縁関係にはなかっただろう、と推測されています(関連記事)。
参考文献:
Seo JS. et al.(2016): De novo assembly and phasing of a Korean human genome. Nature, 538, 7624, 243–247.
https://dx.doi.org/10.1038/nature20098
米人類学者Cavalii-Sforzaの遺伝子勾配データによれば、 朝鮮人は世界でも類を見ないほど均一なDNA塩基配列の持ち主であり、これは過去において大きな Genetic Drift(少数の人間が近親相姦を重ねて今の人口動態を形成)か、あるいは近親相姦を日常的に繰り返す文化の持ち主だった事を表します。
(文献:The Great Human Diasporas: The History of Diversity and Evolution. 1995.. Luigi Luca Cavalii-Sforza and Francesco Cavalli-Sforza. Addison Wesley Publ. ISBN 0-201-44231-0)
遺伝的浮動(genetic drift)の理解が間違っているのですが、それはさておき、参考文献も挙げられているものの、じっさいに検証した人によると(関連記事)、「朝鮮人は世界でも類を見ないほど均一なDNA塩基配列の持ち主」といった見解は提示されていないそうです。また、別の参考文献を根拠に、「コリアンのデータが、普通ではありえないほど均一なものになっている」と主張する人もいますが(関連記事)、こちらも、その参考文献を直接読んだ方がデマだと断定しています(関連記事)。
上記コピペのような認識の根拠としてその他には、「ネイチャー電子版で2015年に発表されたと思う」とあるスレッドに投稿した人がおり(レス番号596)、その二つ後のスレッドで、「nature 538 7624」とやや具体的な情報を挙げた人もいます(レス番号562)。おそらくこれは、『ネイチャー』に掲載された韓国人の高品質なゲノム配列に関する研究(Seo et al., 2016)だと思います。しかし、この研究は、韓国人は遺伝的に均一だとか、韓国人では近親婚の頻度が高いとかいったことを一切述べていません。あるいは、ヒト参照ゲノムとの直接比較から、未知の(というか、その時点では報告されていない)挿入が多数見つかった、との知見が曲解されているのかもしれませんが、その多くはアジア人集団全体で共通している、とこの研究は指摘しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
遺伝学:韓国人のゲノムのde novoアセンブリとフェージング解析
遺伝学:韓国人のゲノム
今回J Seoたちは、PacBio社のロングリード塩基配列解読、イルミナ社のショートリード塩基配列解読、10X Genomics社のlinked read(合成ロングリード)、細菌人工染色体(BAC)を用いた塩基配列解読、およびBioNano Genomics社の光学マッピングを用いて、韓国人1個体のゲノムのde novoアセンブリおよびフェージング解析を行った。得られたデータは、集団特異的な参照ゲノムとして有用な、これまでで最も連続的なヒトゲノムアセンブリである。この研究により、ヒト参照ゲノムに存在していた数多くのギャップが埋められ、構造的多様性が明らかになった。
まず間違いなく、韓国人、あるいは朝鮮半島全体に対象を拡大して朝鮮民族(朝鮮半島地域集団)が、他民族と比較して著しく遺伝的に均一だ、と報告した研究はないと思います。おそらく、朝鮮半島地域集団が他地域集団との比較でより遺伝的に均一だとか、その要因として近親婚の頻度が他地域集団より高いとか報告したまともな研究もないだろう、と思います。現代日本社会で浸透している朝鮮半島関連の情報にはガセネタが少なくないようですから、私も注意しておかねばなりません。
なお、地域集団単位で近親婚の頻度が高いことはゲノム解析により推測でき、たとえばアラビア人やイラン人は歴史的に高頻度の近親婚が行なわれてきた、と推測されています(関連記事)。また、パキスタン人についても、高頻度の近親婚が指摘されています(関連記事)。個人単位でも、両親が近親だったか否か、ゲノム解析により推測でき、たとえば、アルタイ地域のネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)は、両親が半きょうだい(片方の親のみを同じくするきょうだい)のような近親関係にあったのではないか、と推測されています(関連記事)。一方、クロアチアのネアンデルタール人に関しては、両親はアルタイ地域のネアンデルタール人ほどの近縁関係にはなかっただろう、と推測されています(関連記事)。
参考文献:
Seo JS. et al.(2016): De novo assembly and phasing of a Korean human genome. Nature, 538, 7624, 243–247.
https://dx.doi.org/10.1038/nature20098
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