ミトコンドリアの起源の見直し
ミトコンドリアの起源の見直しに関する研究(Martijn et al., 2018)が公表されました。ミトコンドリアはATPを産生する細胞小器官で、その内部共生的な起源は真核細胞の進化史における重要な事象でした。ミトコンドリアはアルファプロテオバクテリアを祖先とする、という強力な系統発生学的証拠があり、細胞内寄生体であるリケッチア目の細菌、またはその他のアルファプロテオバクテリアだと考えられています。しかし、最初期の化石真核生物は約20億年前までさかのぼり、分岐からは非常に長い時間が経過しているため、長枝誘引(long-branch attraction;LBA)に関する多くの問題があると示唆されています。
採取されているアルファプロテオバクテリアの中から最も近縁な種を突き止めようとする取り組みでは矛盾する結果が得られており、ミトコンドリアの祖先の正体および性質についての詳細な推定が困難になっています。多くの研究が、ミトコンドリアは宿主が関連する複数の病原性系統および内部共生系統を含む分類群であるリケッチア目に近縁な祖先種から進化した、との見解を裏づけていますが、ミトコンドリアが自由生活性の細菌群から進化したと示唆する研究もあります。進化による形質転換は、とくに細胞内寄生体にたいしてヌクレオチド組成バイアスの変化を引き起こしたため、ミトコンドリアとリケッチア目細菌との間の類似性の一部は収斂である可能性が指摘されています。
これまでの比較研究では、農業的あるいは医学的に重要な細菌を用いる傾向があり、まだ採取されていない膨大な数の多様な微生物の中に真の答えがある可能性は検討されていませんでした。この研究は、ミトコンドリアの系統発生学的な位置を再評価するため、海洋表層水由来のメタゲノムで探索を実施し、異なる12クレードのアルファプロテオバクテリアと、全てのアルファプロテオバクテリアにたいして姉妹群となる1クレードからなるゲノム採取データへと、既知のアルファプロテオバクテリアのゲノム試料が大幅に増えました。
続いて、長枝誘引(long branch attraction;LBA)および組成バイアスによる人為的結果を特異的に対処できる系統ゲノミクス解析を実施したところ、ミトコンドリアはリケッチア目あるいは現在認識されている他のどのアルファプロテオバクテリア系統からも進化していない、と示唆されました。ミトコンドリアは、採取されている全てのアルファプロテオバクテリアが分岐する前に枝分かれした、別のプロテオバクテリア系統から進化したことを示しています。この新たな知見を考慮すると、ミトコンドリアの祖先の性質に関してこれまで提示された仮説はいずれも再評価されるべきだ、と指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
微生物学:ミトコンドリアの古い起源は、採取されているアルファプロバクテリア内にはなかった
微生物学:ミトコンドリアの祖先を再検討する
真核細胞の進化における重要な出来事は内部共生細菌の獲得であり、これが最終的にミトコンドリアになったとされている。ミトコンドリアは、細胞内寄生体であるリケッチア目の細菌、またはその他のアルファプロテオバクテリアであると考えられている。しかし、最初期の化石真核生物は約20億年前のものであり、分岐からは非常に長い時間が経過しているため、長枝誘引(long-branch attraction;LBA)に関する多くの問題があることが示唆される。また、その後の進化による形質転換は、特に細胞内寄生体に対してヌクレオチド組成バイアスの変化を引き起こした。そのため、ミトコンドリアとリケッチア目細菌との間の類似性の一部は収斂である可能性がある。しかし、これまで行われた比較研究では、農業的あるいは医学的に重要な細菌が用いられる傾向があり、まだ採取されていない膨大な数の多様な微生物の中に真の答えがある可能性は検討されていない。今回T Ettemaたちは、海洋表層水由来のメタゲノムで探索を行い、既知のアルファプロテオバクテリアのゲノム試料が大幅に増えた。モデル化からは、ミトコンドリアとリケッチア目細菌との間の近縁性が除外され、ミトコンドリアの祖先がアルファプロテオバクテリアであるとすれば、非常に初期に分岐した絶滅系統に由来することが示唆された。
参考文献:
Martijn J. et al.(2018): Deep mitochondrial origin outside the sampled alphaproteobacteria. Nature, 557, 7703, 101–105.
http://dx.doi.org/10.1038/s41586-018-0059-5
採取されているアルファプロテオバクテリアの中から最も近縁な種を突き止めようとする取り組みでは矛盾する結果が得られており、ミトコンドリアの祖先の正体および性質についての詳細な推定が困難になっています。多くの研究が、ミトコンドリアは宿主が関連する複数の病原性系統および内部共生系統を含む分類群であるリケッチア目に近縁な祖先種から進化した、との見解を裏づけていますが、ミトコンドリアが自由生活性の細菌群から進化したと示唆する研究もあります。進化による形質転換は、とくに細胞内寄生体にたいしてヌクレオチド組成バイアスの変化を引き起こしたため、ミトコンドリアとリケッチア目細菌との間の類似性の一部は収斂である可能性が指摘されています。
これまでの比較研究では、農業的あるいは医学的に重要な細菌を用いる傾向があり、まだ採取されていない膨大な数の多様な微生物の中に真の答えがある可能性は検討されていませんでした。この研究は、ミトコンドリアの系統発生学的な位置を再評価するため、海洋表層水由来のメタゲノムで探索を実施し、異なる12クレードのアルファプロテオバクテリアと、全てのアルファプロテオバクテリアにたいして姉妹群となる1クレードからなるゲノム採取データへと、既知のアルファプロテオバクテリアのゲノム試料が大幅に増えました。
続いて、長枝誘引(long branch attraction;LBA)および組成バイアスによる人為的結果を特異的に対処できる系統ゲノミクス解析を実施したところ、ミトコンドリアはリケッチア目あるいは現在認識されている他のどのアルファプロテオバクテリア系統からも進化していない、と示唆されました。ミトコンドリアは、採取されている全てのアルファプロテオバクテリアが分岐する前に枝分かれした、別のプロテオバクテリア系統から進化したことを示しています。この新たな知見を考慮すると、ミトコンドリアの祖先の性質に関してこれまで提示された仮説はいずれも再評価されるべきだ、と指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
微生物学:ミトコンドリアの古い起源は、採取されているアルファプロバクテリア内にはなかった
微生物学:ミトコンドリアの祖先を再検討する
真核細胞の進化における重要な出来事は内部共生細菌の獲得であり、これが最終的にミトコンドリアになったとされている。ミトコンドリアは、細胞内寄生体であるリケッチア目の細菌、またはその他のアルファプロテオバクテリアであると考えられている。しかし、最初期の化石真核生物は約20億年前のものであり、分岐からは非常に長い時間が経過しているため、長枝誘引(long-branch attraction;LBA)に関する多くの問題があることが示唆される。また、その後の進化による形質転換は、特に細胞内寄生体に対してヌクレオチド組成バイアスの変化を引き起こした。そのため、ミトコンドリアとリケッチア目細菌との間の類似性の一部は収斂である可能性がある。しかし、これまで行われた比較研究では、農業的あるいは医学的に重要な細菌が用いられる傾向があり、まだ採取されていない膨大な数の多様な微生物の中に真の答えがある可能性は検討されていない。今回T Ettemaたちは、海洋表層水由来のメタゲノムで探索を行い、既知のアルファプロテオバクテリアのゲノム試料が大幅に増えた。モデル化からは、ミトコンドリアとリケッチア目細菌との間の近縁性が除外され、ミトコンドリアの祖先がアルファプロテオバクテリアであるとすれば、非常に初期に分岐した絶滅系統に由来することが示唆された。
参考文献:
Martijn J. et al.(2018): Deep mitochondrial origin outside the sampled alphaproteobacteria. Nature, 557, 7703, 101–105.
http://dx.doi.org/10.1038/s41586-018-0059-5
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