祖先的鳥類の頭蓋
祖先的鳥類の頭蓋に関する研究(Field et al., 2018)が公表されました。現生鳥類の頭蓋は、祖先である恐竜類に見られる状態から大きく変化しています。鳥類の頭蓋には、歯のない拡大した前上顎の嘴と、可動性の口蓋および顎の懸垂骨(jaw suspensorium)を含む複雑な動力学系が存在します。鳥類の拡張した神経頭蓋は拡大した脳を保護しており、その両側には縮小した顎内転筋が位置しています。しかし、こうした特徴が出現した順序や、それらが最初に現れた際の状況については、まだ明らかになっていません。
後期白亜紀の有歯鳥類イクチオルニス(Ichthyornis dispar)は、現生鳥類の外側で系統発生学的に重要な位置を占めており、現生鳥類の放散に近いものの、祖先的な形質を多数保持しています。原始的な初期鳥類とより現代的な鳥類との間という系統発生学的に重要な位置を占めている、というわけです。イクチオルニスの進化的な重要性は引き続き支持されているものの、1870年代に発見された不完全な遺骸の他に、イクチオルニスの有用な頭蓋標本の新たな報告例はなく、ジュラ紀および白亜紀の化石鉱床からは重要な鳥群化石が出土しているものの、そうした化石鳥類の頭蓋の多くはは破砕および変形しています。
この研究は、1点のきわめて完全な頭蓋を含む、三次元的構造が保持されたイクチオルニスの新たな頭蓋化石標本4点について報告しています。またこの研究は、イクチオルニスの基準標本に、これまで見過ごされていた2つの要素を発見しました。これらの標本を用いての高分解能のコンピューター断層撮影により、イクチオルニスの頭蓋のほぼ完全な三次元復元像が得られました。その結果、イクチオルニスが、小さくて口蓋棚を欠く、顎の先端部のみに限定された過渡的な嘴を持ち、その動力学系は現生鳥類のものに似ている、と明らかになりました。現生鳥類の摂餌装置である嘴は、じゅうらいの想定よりも早い時期に進化し、その構成要素は機能的および発生学的に調整されていた、と推測されています。
イクチオルニスの脳は比較的現代的ですが、その側頭領域は意外にも恐竜類のものに近く、大きな「adductor chamber(下顎内転筋を収める空間)」を維持しており、その背側は祖先的な爬虫類様の上側頭窓を形成する大きな骨構造に接していました。こうした特徴の組み合わせは、鳥類の脳および口蓋の重要な特性が、顎の筋肉系の縮小やくちばしの完全な変形に先行して進化したことを示しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
【古生物学】初期鳥類のくちばしを調べたユニークな研究
くちばしを持つ初期鳥類の極めて良好な保存状態の化石が新たに発見され、鳥類から恐竜類への移行が予想以上に複雑な過程であったことを明らかにした論文が、今週掲載される。
鳥類の頭蓋骨は、その祖先の恐竜類とはかなり異なっている。現生鳥類は、歯のない大きなくちばしを持ち、頭蓋が大きく、閉口筋は弱体化し、頭蓋骨の連接構造は顕著で、口蓋を動かすことができ、顎がぶら下がっている。こうした特徴が発生する過程と順序を解明することは研究課題となっているが、鳥類の頭蓋化石の保存状態が通常は良好でないために難題となっている。
今回、Bhart-Anjan Bhullarたちの研究グループは、新たに発見された初期鳥類Ichthyornis disparの4点の化石について詳細に調べた。I. disparは、歯を持つアジサシ似の海鳥で、翼幅は60 cm、現在の北米にあたる地域で1億年~6600万年前に生息していた。Ichthyornisは、化石記録において独特な位置付けがなされており、現生鳥類と近縁関係にある一方で、祖先種の特徴(例えば、先の曲がった鋭い歯)が数多く残っている。Ichthyornisの化石は、1870年に最初に発見されたが、この化石試料の頭部は不完全で、ひどくつぶれており、それ以降は新たな頭蓋骨が発見されていなかった。今回発見された頭蓋骨は、保存状態が良好で、三次元形状が保持されており、並外れて完全な頭蓋骨が1個含まれていた。また、Bhullarたちは、最初に発見されたIchthyornisの化石試料に関して、2つの要素が見落とされていたという予想外の報告をしている。
Bhullarたちは、三次元スキャンによってI. disparの頭部を再現した。Ichthyornisの頭蓋骨は、恐竜のように、大きな閉口筋のための穴が開いていたが、全体的には、大部分が現生鳥類のようで、顕著な連接構造があり、顎先に小さな原始的なくちばしがついている。これらの特徴のため、腕が翼になった後でも羽繕いや物体操作ができたと考えられ、現生鳥類の摂食器官がこれまで考えられていた時期より早く進化していたことが明らかになった。
古生物学:イクチオルニスの完全な頭蓋が明らかにする鳥類頭部のモザイク状集合
古生物学:祖先的鳥類の頭蓋が明らかに
白亜紀の海鳥イクチオルニス(Ichthyornis dispar)は、原始的な初期鳥類とより現代的な鳥類との間という系統発生学的に重要な位置を占めている。その進化的重要性が疑われたことは一度もないが、1880年代以降、イクチオルニスの頭蓋の重要な標本は新たに報告されておらず、他の化石鳥類の頭蓋は破砕および変形しているものが多い。今回B Bhullarたちは、1点の極めて完全な頭蓋を含む、三次元的構造が保持されたイクチオルニスの新たな頭蓋化石標本4点について報告している。彼らはまた、恐竜化石ハンターであるオスニエル・マーシュにより発見されイクチオルニスのホロタイプとなった標本に、これまで見過ごされていた2つの要素を見いだした。これら複数の標本のコンピューター断層撮影により得られた三次元復元像からは、イクチオルニスのくちばしが従来の想定よりもはるかに原始的なものであり、側頭部には化石鳥類の頭蓋ではほとんど知られていなかった、恐竜に似た特徴が見られることが明らかになった。
参考文献:
Field DJ. et al.(2018): Complete Ichthyornis skull illuminates mosaic assembly of the avian head. Nature, 557, 7703, 96–100.
http://dx.doi.org/10.1038/s41586-018-0053-y
後期白亜紀の有歯鳥類イクチオルニス(Ichthyornis dispar)は、現生鳥類の外側で系統発生学的に重要な位置を占めており、現生鳥類の放散に近いものの、祖先的な形質を多数保持しています。原始的な初期鳥類とより現代的な鳥類との間という系統発生学的に重要な位置を占めている、というわけです。イクチオルニスの進化的な重要性は引き続き支持されているものの、1870年代に発見された不完全な遺骸の他に、イクチオルニスの有用な頭蓋標本の新たな報告例はなく、ジュラ紀および白亜紀の化石鉱床からは重要な鳥群化石が出土しているものの、そうした化石鳥類の頭蓋の多くはは破砕および変形しています。
この研究は、1点のきわめて完全な頭蓋を含む、三次元的構造が保持されたイクチオルニスの新たな頭蓋化石標本4点について報告しています。またこの研究は、イクチオルニスの基準標本に、これまで見過ごされていた2つの要素を発見しました。これらの標本を用いての高分解能のコンピューター断層撮影により、イクチオルニスの頭蓋のほぼ完全な三次元復元像が得られました。その結果、イクチオルニスが、小さくて口蓋棚を欠く、顎の先端部のみに限定された過渡的な嘴を持ち、その動力学系は現生鳥類のものに似ている、と明らかになりました。現生鳥類の摂餌装置である嘴は、じゅうらいの想定よりも早い時期に進化し、その構成要素は機能的および発生学的に調整されていた、と推測されています。
イクチオルニスの脳は比較的現代的ですが、その側頭領域は意外にも恐竜類のものに近く、大きな「adductor chamber(下顎内転筋を収める空間)」を維持しており、その背側は祖先的な爬虫類様の上側頭窓を形成する大きな骨構造に接していました。こうした特徴の組み合わせは、鳥類の脳および口蓋の重要な特性が、顎の筋肉系の縮小やくちばしの完全な変形に先行して進化したことを示しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
【古生物学】初期鳥類のくちばしを調べたユニークな研究
くちばしを持つ初期鳥類の極めて良好な保存状態の化石が新たに発見され、鳥類から恐竜類への移行が予想以上に複雑な過程であったことを明らかにした論文が、今週掲載される。
鳥類の頭蓋骨は、その祖先の恐竜類とはかなり異なっている。現生鳥類は、歯のない大きなくちばしを持ち、頭蓋が大きく、閉口筋は弱体化し、頭蓋骨の連接構造は顕著で、口蓋を動かすことができ、顎がぶら下がっている。こうした特徴が発生する過程と順序を解明することは研究課題となっているが、鳥類の頭蓋化石の保存状態が通常は良好でないために難題となっている。
今回、Bhart-Anjan Bhullarたちの研究グループは、新たに発見された初期鳥類Ichthyornis disparの4点の化石について詳細に調べた。I. disparは、歯を持つアジサシ似の海鳥で、翼幅は60 cm、現在の北米にあたる地域で1億年~6600万年前に生息していた。Ichthyornisは、化石記録において独特な位置付けがなされており、現生鳥類と近縁関係にある一方で、祖先種の特徴(例えば、先の曲がった鋭い歯)が数多く残っている。Ichthyornisの化石は、1870年に最初に発見されたが、この化石試料の頭部は不完全で、ひどくつぶれており、それ以降は新たな頭蓋骨が発見されていなかった。今回発見された頭蓋骨は、保存状態が良好で、三次元形状が保持されており、並外れて完全な頭蓋骨が1個含まれていた。また、Bhullarたちは、最初に発見されたIchthyornisの化石試料に関して、2つの要素が見落とされていたという予想外の報告をしている。
Bhullarたちは、三次元スキャンによってI. disparの頭部を再現した。Ichthyornisの頭蓋骨は、恐竜のように、大きな閉口筋のための穴が開いていたが、全体的には、大部分が現生鳥類のようで、顕著な連接構造があり、顎先に小さな原始的なくちばしがついている。これらの特徴のため、腕が翼になった後でも羽繕いや物体操作ができたと考えられ、現生鳥類の摂食器官がこれまで考えられていた時期より早く進化していたことが明らかになった。
古生物学:イクチオルニスの完全な頭蓋が明らかにする鳥類頭部のモザイク状集合
古生物学:祖先的鳥類の頭蓋が明らかに
白亜紀の海鳥イクチオルニス(Ichthyornis dispar)は、原始的な初期鳥類とより現代的な鳥類との間という系統発生学的に重要な位置を占めている。その進化的重要性が疑われたことは一度もないが、1880年代以降、イクチオルニスの頭蓋の重要な標本は新たに報告されておらず、他の化石鳥類の頭蓋は破砕および変形しているものが多い。今回B Bhullarたちは、1点の極めて完全な頭蓋を含む、三次元的構造が保持されたイクチオルニスの新たな頭蓋化石標本4点について報告している。彼らはまた、恐竜化石ハンターであるオスニエル・マーシュにより発見されイクチオルニスのホロタイプとなった標本に、これまで見過ごされていた2つの要素を見いだした。これら複数の標本のコンピューター断層撮影により得られた三次元復元像からは、イクチオルニスのくちばしが従来の想定よりもはるかに原始的なものであり、側頭部には化石鳥類の頭蓋ではほとんど知られていなかった、恐竜に似た特徴が見られることが明らかになった。
参考文献:
Field DJ. et al.(2018): Complete Ichthyornis skull illuminates mosaic assembly of the avian head. Nature, 557, 7703, 96–100.
http://dx.doi.org/10.1038/s41586-018-0053-y
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