トカゲ類の起源

 トカゲ類の起源に関する研究(Simões et al., 2018)が公表されました。現生有鱗類(トカゲ類・ヘビ類・ミミズトカゲ類)は四肢類のうち鳥類と並んで世界で最も多様な分類群で、既知の最古となる化石の年代は1億6800万年前頃の中期ジュラ紀までさかのぼります。有鱗類の進化的起源に関しては、複数の問題で議論が続いています。まず、既知となる最古の化石と、それらの起源と推定される化石との間に約7000万年間に及ぶ空白期間が存在することです。次に、爬虫類の系統発生における有鱗類の標本数が限定的であることです。さらに、クラウン群有鱗類の起源に関する形態学的仮説と分子的仮説とが相容れないことです。

 本論文は、イタリアのアルプス地域で発見された、関節がつながった約2億4000万年前となる中期三畳紀の化石爬虫類(Megachirella wachtleri)の高分解能のマイクロフォーカスX線コンピューター断層撮影データを用いて、上記の問題を検証しています。また本論文は、化石と現生分類群(クレード)、さらには形態データと分子データとを組み合わせた系統発生のデータセットも提示します。本論文は、このデータセットを異なる最適性基準の下で解析し、双弓類爬虫類の類縁関係および有鱗類の起源を評価しました。

 その結果、双弓類の系統発生が再編されるとともに、イタリアで発見された中期三畳紀の化石爬虫類が、既知となる最古のステム群有鱗類であることを裏づける証拠が得られました。この中期三畳紀の化石爬虫類は、これまで既知となる最古の有鱗類化石よりも7500万年古く、トカゲ類の起源に関する化石記録の空白を部分的に埋めるものです。つまり、双弓類進化における有鱗類的特徴の獲得は、じゅうらい考えられていたよりも緩やかだったわけです。

 これにより初めて、有鱗類の初期進化に関する形態データと分子データとが一致し、これらのデータでは共に、イグアナ類ではなくヤモリ類が有鱗類最古のクラウンクレードとして位置づけられました。緩和型の形態時計と分子時計の組み合わせを用いた分岐年代の推定からは、鱗竜類およびその他の多くの双弓類の起源が、2億5200万年前となるペルム紀/三畳紀の大量絶滅事象以前にあると明らかになりました。これは、複数の双弓類系統にとって、三畳紀が起源ではなく放散の年代であったことを示唆しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


【古生物学】古代爬虫類の化石発見によるトカゲ類の進化系統樹の見直し

 有鱗目(ヘビ類とトカゲ類が含まれる現生動物の分類群)につながる進化系統上に位置する動物種として最古のものが、約2億4000万年前の三畳紀中期に生息していたことを報告する論文が、今週掲載される。この新知見によれば、有鱗目の出現とそれより大きな双弓類爬虫類系統の分裂が起こったのは、2億5200万年前のペルム紀/三畳紀の大量絶滅より前のことだったとされる。この大量絶滅をきっかけに爬虫類が出現したとこれまで考えられていたが、実は、大量絶滅は爬虫類系統内での多様化の新たな機会であったかもしれない。

 有鱗目は、陸生脊椎動物の中で最も多様化の進んだ大型分類群で、トカゲ類とヘビ類が含まれる。しかし、化石記録上、最古のものとして知られる有鱗目化石と有鱗目が出現した推定年代の間には7000万年の空白があり、爬虫類の系統樹研究には有鱗目が十分に組み込まれておらず、さらに最近の解剖学的研究とDNA研究による有鱗目の進化史の内容が矛盾しているため、有鱗目の出現についての理解に混乱が見られる。

 今回、Tiago Simoesたちの研究グループは、アルプス山脈のイタリア側で発見されていたMegachirella wachtleriの化石を再び調べて、有鱗目も含まれるより広範な分類群である鱗竜亜綱に分類し直した。また、高解像度のCATスキャナーを用い、骨格化石の中にこれまで気付かなかった特徴(有鱗目に特有の小さな下顎骨など)を発見した。これと並行して、Simoesたちは、これまでで最大の化石と現生爬虫類のデータセットをまとめて、有鱗目の進化史上のMegachirellaの位置を評価した。

 今回の研究で得られた知見からは、これまでに分かっている中でMegachirellaが有鱗目の系統で最も古い動物種であり、真の有鱗目で最古のものとして知られるジュラ紀の動物種より約7200万年も古いことが示唆されている。この新知見は、有鱗目とその他の爬虫類の出現時期に関する我々の理解の空白部分を埋めるために役立ち、これらの爬虫類の多様化が始まったのがペルム紀/三畳紀の大量絶滅から間もない時期だったことを明らかにしている。


古生物学:イタリア・アルプスに由来する中期三畳紀のトカゲから明らかになった有鱗類の起源

Cover Story:トカゲ類の起源:Megachirellaの化石の分析によって爬虫類の系統樹の空白が埋まった

 表紙は、中期三畳紀のトカゲMegachirella wachtleriの想像図である。イタリア・アルプスで発見されたこの生物の化石は、2003年に初めて記載された。今回、T Simõesたちは、高分解能マイクロフォーカスX線コンピューター断層撮影を用いた、この化石の詳細な分析について報告している。その結果、トカゲ類やヘビ類を含む爬虫類の一群である有鱗類の起源に新たな光が当てられた。著者たちは、M. wachtleriが既知最古の有鱗類化石より7500万年古いことを見いだしており、これによって化石記録の空白が部分的に埋められた。さらに、系統発生解析からは、有鱗類の進化においてヤモリ類がイグアナ類よりも早く出現したことが示され、主要な爬虫類系統の最初の多様化が、2億5200万年前のペルム紀–三畳紀境界より前に生じていたことが明らかになった。



参考文献:
Simões TR. et al.(2018): The origin of squamates revealed by a Middle Triassic lizard from the Italian Alps. Nature, 557, 7707, 706–709.
https://dx.doi.org/10.1038/s41586-018-0093-3

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック