意図的ではない人為的要因により局地的に絶滅したチョウ
人為的要因により局地的に絶滅したチョウに関する研究(Singer, and Parmesan., 2018)が公表されました。人間による生物の全球的な輸送は野生種に新たな資源を提供しますが、そうした資源への野生種の応答は不適応である場合が多いとされています。在来の植食性昆虫が有毒な外来植物を摂食して死ぬ例が複数あり、こうした例では外来植物は「生態学的罠(エコロジカルトラップ)」として作用します。逆に、外来資源に対する適応を欠くにも関わらず、そうした資源への適応度が高いという効果から生じる、新規な「生態・進化学的罠」も存在します。
ヘラオオバコ(Plantago lanceolata)は、畜牛牧場の経営によりアメリカ合衆国西部のネバダ州カーソンシティに導入されました。この外来植物を摂食することで、在来チョウ類エディタヒョウモンモドキ(Euphydryas editha)の大きな隔離個体群は、長年続いてきた雌の繁殖能力と子の致死率との間のトレードオフから解放されました。エディタヒョウモンモドキがヘラオオバコを摂食すると、従来の寄主である在来のオオバコ科(Collinsia parviflora)よりも幼虫の生存率が速やかに上昇しました。
1980年代の先行研究では、産卵成虫がヘラオオバコへの選好性を進化させたことが実証されました。エディタヒョウモンモドキにとってのヘラオオバコの利用可能性は人間によって制御されており、また、人間はエディタヒョウモンモドキの進化を上回る速さで土地管理を変化させることから、こうした傾向が続けば、エディタヒョウモンモドキが自らを危険にさらす可能性がある、と予測されました。エディタヒョウモンモドキは在来のオオバコ科を利用しなくなり、ヘラオオバコへの完全な依存性を進化させました。
2005年に人間がこの地域での牧場経営をやめたことで、罠が作動しました。ヘラオオバコの周囲にはイネ科植物が成長し、ヘラオオバコは埋もれて環境が冷却され、この地域では、高温を好むエディタヒョウモンモドキは絶滅しました。この局地的な絶滅は、エディタヒョウモンモドキの個体群が、牧場閉鎖に影響されない乾燥性の微小環境を占有していた在来のオオバコ科の使用を部分的に維持していたなら、防げた可能性があります。
イネ科植物の繁栄は急速に終わり、牧草地は再びエディタヒョウモンモドキがいずれの寄主を摂食するにも適した環境に戻りましたが、2008~2012年にこのエディタヒョウモンモドキの存在は確認されませんでした。2013~2014年、この地域には在来のオオバコ科のみを摂食するエディタヒョウモンモドキが自然に再定着し、生態系を原点に回帰させるとともに、人為的な進化サイクルの繰り返しへの準備が整えられました。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
【生態学】エディタヒョウモンモドキの波瀾万丈の進化史
米国ネバダ州の草原の土地利用パターンの変化に応じて、地元に生息するエディタヒョウモンモドキ(Euphydryas editha)の個体数が増加して減少し、再び増加したことを報告する論文が、今週掲載される。この研究では、人間活動によって、図らずも動物界で適応進化が起こってしまうことが示された。この関係は、人間活動によって変化した生息地の保全を計画する際に考慮に入れる必要がある。
25年前に発表されたMichael SingerとCamille Parmesanの論文では、米国ネバダ州カーソンシティに生息するエディタヒョウモンモドキの孤立個体群が、ウシの大規模放牧によって同地域に侵入した外来の植物種ヘラオオバコ(Plantago lanceolata)を好んで餌にし始めた過程について説明されていた。今回、同じ研究チームが発表した論文では、前回と同じエディタヒョウモンモドキの個体群が、在来種の食用植物Collinsia parvifloraを食べなくなってヘラオオバコに完全に依存するようになり、命に関わる進化的わな(evolutionary trap)ができあがったこと、そして、2005年の大規模放牧の終了によって、このわなが働いて、この地域のエディタヒョウモンモドキの個体群が大打撃を受け、絶滅したことが示されている。
今回の研究では、自然個体群の命取りとなり得る進化的わなが人間活動によって図らずも仕込まれることが明確に示されているが、この関係の動的な性質も論文に記述されている。なお、大規模放牧が終了した後、Collinsiaを餌にするエディタヒョウモンモドキが再び出現し、この地域に自然に再定住して、進化過程全体が再び始まる環境が整った。
生態学:外来資源に対する適応進化的な応答によって生じる致死的なわな
Cover Story:バタフライ効果:外来植物を好む傾向が局所個体群を絶滅に追いやる
1993年にNatureに掲載された論文で、米国ネバダ州カーソンシティの牧草地におけるエディタヒョウモンモドキ(Euphydryas editha)の隔離個体群が、畜牛牧場の経営によってその地域に導入された非在来植物ヘラオオバコ(Plantago lanceolata)への選好性を進化させ始めたことが明らかにされた。25年が経過し、今回M SingerとC Parmesanは、このチョウ個体群がこの外来植物に対して完全な依存性を進化させたことを報告している。2005年に牧場が閉鎖されると、周囲に繁茂したイネ科植物によってヘラオオバコは埋もれ、環境が冷却され幼虫が必要な熱を得られなくなったことで、この地域のチョウの個体群は絶滅した。その後、2013~2014年には従来の寄主を利用するエディタヒョウモンモドキが自然に再定着し、摂食対象も原点に立ち戻った。この知見は、自然個体群に対して致死的になりかねない「進化・生態学的わな」が、人間の活動によって意図せず生み出される可能性を例証しており、人間が手を加えた生息地の保全においてこうしたわなを考慮することの重要性を明らかにしている。
参考文献:
Singer MC, and Parmesan C.(2018): Lethal trap created by adaptive evolutionary response to an exotic resource. Nature, 557, 7704, 238–241.
https://dx.doi.org/10.1038/s41586-018-0074-6
ヘラオオバコ(Plantago lanceolata)は、畜牛牧場の経営によりアメリカ合衆国西部のネバダ州カーソンシティに導入されました。この外来植物を摂食することで、在来チョウ類エディタヒョウモンモドキ(Euphydryas editha)の大きな隔離個体群は、長年続いてきた雌の繁殖能力と子の致死率との間のトレードオフから解放されました。エディタヒョウモンモドキがヘラオオバコを摂食すると、従来の寄主である在来のオオバコ科(Collinsia parviflora)よりも幼虫の生存率が速やかに上昇しました。
1980年代の先行研究では、産卵成虫がヘラオオバコへの選好性を進化させたことが実証されました。エディタヒョウモンモドキにとってのヘラオオバコの利用可能性は人間によって制御されており、また、人間はエディタヒョウモンモドキの進化を上回る速さで土地管理を変化させることから、こうした傾向が続けば、エディタヒョウモンモドキが自らを危険にさらす可能性がある、と予測されました。エディタヒョウモンモドキは在来のオオバコ科を利用しなくなり、ヘラオオバコへの完全な依存性を進化させました。
2005年に人間がこの地域での牧場経営をやめたことで、罠が作動しました。ヘラオオバコの周囲にはイネ科植物が成長し、ヘラオオバコは埋もれて環境が冷却され、この地域では、高温を好むエディタヒョウモンモドキは絶滅しました。この局地的な絶滅は、エディタヒョウモンモドキの個体群が、牧場閉鎖に影響されない乾燥性の微小環境を占有していた在来のオオバコ科の使用を部分的に維持していたなら、防げた可能性があります。
イネ科植物の繁栄は急速に終わり、牧草地は再びエディタヒョウモンモドキがいずれの寄主を摂食するにも適した環境に戻りましたが、2008~2012年にこのエディタヒョウモンモドキの存在は確認されませんでした。2013~2014年、この地域には在来のオオバコ科のみを摂食するエディタヒョウモンモドキが自然に再定着し、生態系を原点に回帰させるとともに、人為的な進化サイクルの繰り返しへの準備が整えられました。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
【生態学】エディタヒョウモンモドキの波瀾万丈の進化史
米国ネバダ州の草原の土地利用パターンの変化に応じて、地元に生息するエディタヒョウモンモドキ(Euphydryas editha)の個体数が増加して減少し、再び増加したことを報告する論文が、今週掲載される。この研究では、人間活動によって、図らずも動物界で適応進化が起こってしまうことが示された。この関係は、人間活動によって変化した生息地の保全を計画する際に考慮に入れる必要がある。
25年前に発表されたMichael SingerとCamille Parmesanの論文では、米国ネバダ州カーソンシティに生息するエディタヒョウモンモドキの孤立個体群が、ウシの大規模放牧によって同地域に侵入した外来の植物種ヘラオオバコ(Plantago lanceolata)を好んで餌にし始めた過程について説明されていた。今回、同じ研究チームが発表した論文では、前回と同じエディタヒョウモンモドキの個体群が、在来種の食用植物Collinsia parvifloraを食べなくなってヘラオオバコに完全に依存するようになり、命に関わる進化的わな(evolutionary trap)ができあがったこと、そして、2005年の大規模放牧の終了によって、このわなが働いて、この地域のエディタヒョウモンモドキの個体群が大打撃を受け、絶滅したことが示されている。
今回の研究では、自然個体群の命取りとなり得る進化的わなが人間活動によって図らずも仕込まれることが明確に示されているが、この関係の動的な性質も論文に記述されている。なお、大規模放牧が終了した後、Collinsiaを餌にするエディタヒョウモンモドキが再び出現し、この地域に自然に再定住して、進化過程全体が再び始まる環境が整った。
生態学:外来資源に対する適応進化的な応答によって生じる致死的なわな
Cover Story:バタフライ効果:外来植物を好む傾向が局所個体群を絶滅に追いやる
1993年にNatureに掲載された論文で、米国ネバダ州カーソンシティの牧草地におけるエディタヒョウモンモドキ(Euphydryas editha)の隔離個体群が、畜牛牧場の経営によってその地域に導入された非在来植物ヘラオオバコ(Plantago lanceolata)への選好性を進化させ始めたことが明らかにされた。25年が経過し、今回M SingerとC Parmesanは、このチョウ個体群がこの外来植物に対して完全な依存性を進化させたことを報告している。2005年に牧場が閉鎖されると、周囲に繁茂したイネ科植物によってヘラオオバコは埋もれ、環境が冷却され幼虫が必要な熱を得られなくなったことで、この地域のチョウの個体群は絶滅した。その後、2013~2014年には従来の寄主を利用するエディタヒョウモンモドキが自然に再定着し、摂食対象も原点に立ち戻った。この知見は、自然個体群に対して致死的になりかねない「進化・生態学的わな」が、人間の活動によって意図せず生み出される可能性を例証しており、人間が手を加えた生息地の保全においてこうしたわなを考慮することの重要性を明らかにしている。
参考文献:
Singer MC, and Parmesan C.(2018): Lethal trap created by adaptive evolutionary response to an exotic resource. Nature, 557, 7704, 238–241.
https://dx.doi.org/10.1038/s41586-018-0074-6
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