2018年度アメリカ自然人類学会総会(歯の分析によるネアンデルタール人と現生人類の食性・文化の多様性
取り上げるのが遅れましたが、今年(2018年)4月11日~4月14日にかけて、アメリカ合衆国テキサス州オースティン市で第87回アメリカ自然人類学会総会が開催されました。アメリカ自然人類学会総会では、最新の研究成果が多数報告されるだけに、古人類学に関心のある私は大いに注目しています。総会での各報告の要約はPDFファイルで公表されているのですが、まだいくつかの報告を読んだだけです。とりあえず今回は、とくに興味深いと思った報告(Fiorenza et al., 2018)を取り上げます(P86)。今後、興味のある報告をこのブログで取り上げた場合は、この記事にトラックバックを送ることにします。
本報告は、歯の摩耗を分析し、ヨーロッパと近東のネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)および現生人類(Homo sapiens)の食性と文化の多様性を検証しています。ネアンデルタール人は肉食に依存し、現生人類は多様な食資源を消費する柔軟な種だった、との見解には根強いものがあるかもしれません。しかし本報告は、犬歯より後方の歯の摩耗および摩耗面を分析し、その形成の原因となる顎の動きを復元することで、ネアンデルタール人も現生人類も食性が多様だったことを明らかにしています。
摩耗面のサイズと分布は食性とよく相関しているようで、ネアンデルタール人と現生人類の大きな多様性を示しますが、その多様性は居住地に大きく依存している、と明らかになりました。高緯度になるほど食性で肉への依存度が高くなり、寒冷地と温暖地の住民を区別できる、とのことです。摩耗面の傾斜は、調理法など偶然性に強く影響を受けるそうです。また、近東の集団においては、犬歯より後方の歯列の非食性摩耗を識別でき、それは毎日の作業活動の道具としての歯の使用を示唆している、と指摘されています。
参考文献:
Fiorenza L. et al.(2018): Diet and cultural diversity in Neanderthals and modern humans from dental macrowear analyses. The 87th Annual Meeting of the AAPA.
なお、アメリカ自然人類学会総会に関するこのブログの過去の記事は以下の通りです。
2017年度(第86回)
https://sicambre.seesaa.net/article/201705article_13.html
2016年度(第85回)
https://sicambre.seesaa.net/article/201606article_23.html
2015年度(第84回)
https://sicambre.seesaa.net/article/201504article_15.html
2014年度(第83回)
https://sicambre.seesaa.net/article/201404article_22.html
https://sicambre.seesaa.net/article/201404article_34.html
https://sicambre.seesaa.net/article/201404article_37.html
https://sicambre.seesaa.net/article/201405article_5.html
https://sicambre.seesaa.net/article/201405article_7.html
2013年度(第82回)
https://sicambre.seesaa.net/article/201304article_30.html
2012年度(第81回)
https://sicambre.seesaa.net/article/201204article_20.html
2011年度(第80回)
https://sicambre.seesaa.net/article/201104article_27.html
2010年度(第79回)
https://sicambre.seesaa.net/article/201004article_23.html
2009年度(第78回)
https://sicambre.seesaa.net/article/200905article_27.html
2008年度(第77回)
https://sicambre.seesaa.net/article/200804article_20.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200804article_28.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200804article_32.html
2007年度(第76回)
https://sicambre.seesaa.net/article/200703article_32.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200704article_11.html
本報告は、歯の摩耗を分析し、ヨーロッパと近東のネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)および現生人類(Homo sapiens)の食性と文化の多様性を検証しています。ネアンデルタール人は肉食に依存し、現生人類は多様な食資源を消費する柔軟な種だった、との見解には根強いものがあるかもしれません。しかし本報告は、犬歯より後方の歯の摩耗および摩耗面を分析し、その形成の原因となる顎の動きを復元することで、ネアンデルタール人も現生人類も食性が多様だったことを明らかにしています。
摩耗面のサイズと分布は食性とよく相関しているようで、ネアンデルタール人と現生人類の大きな多様性を示しますが、その多様性は居住地に大きく依存している、と明らかになりました。高緯度になるほど食性で肉への依存度が高くなり、寒冷地と温暖地の住民を区別できる、とのことです。摩耗面の傾斜は、調理法など偶然性に強く影響を受けるそうです。また、近東の集団においては、犬歯より後方の歯列の非食性摩耗を識別でき、それは毎日の作業活動の道具としての歯の使用を示唆している、と指摘されています。
参考文献:
Fiorenza L. et al.(2018): Diet and cultural diversity in Neanderthals and modern humans from dental macrowear analyses. The 87th Annual Meeting of the AAPA.
なお、アメリカ自然人類学会総会に関するこのブログの過去の記事は以下の通りです。
2017年度(第86回)
https://sicambre.seesaa.net/article/201705article_13.html
2016年度(第85回)
https://sicambre.seesaa.net/article/201606article_23.html
2015年度(第84回)
https://sicambre.seesaa.net/article/201504article_15.html
2014年度(第83回)
https://sicambre.seesaa.net/article/201404article_22.html
https://sicambre.seesaa.net/article/201404article_34.html
https://sicambre.seesaa.net/article/201404article_37.html
https://sicambre.seesaa.net/article/201405article_5.html
https://sicambre.seesaa.net/article/201405article_7.html
2013年度(第82回)
https://sicambre.seesaa.net/article/201304article_30.html
2012年度(第81回)
https://sicambre.seesaa.net/article/201204article_20.html
2011年度(第80回)
https://sicambre.seesaa.net/article/201104article_27.html
2010年度(第79回)
https://sicambre.seesaa.net/article/201004article_23.html
2009年度(第78回)
https://sicambre.seesaa.net/article/200905article_27.html
2008年度(第77回)
https://sicambre.seesaa.net/article/200804article_20.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200804article_28.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200804article_32.html
2007年度(第76回)
https://sicambre.seesaa.net/article/200703article_32.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200704article_11.html
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