新石器時代~青銅器時代のヨーロッパにおける大規模な移住の性差

 これは4月4日分の記事として掲載しておきます。取り上げるのが遅れてしまいましたが、新石器時代~青銅器時代のヨーロッパにおける人類の大規模な移住の性差に関する研究(Goldberg et al., 2017)が報道されました。人類史においてはたびたび大規模な移住が見られますが、性別の偏りが伴っている場合もあります。たとえば、ヨーロッパ勢力がアメリカ大陸へと侵出していったさいには、さまざまな証拠から、単身男性に偏っていたと考えられています(関連記事)。

 本論文は、新石器時代~青銅器時代のヨーロッパにおける2回の大規模な移住において、性差が見られるのか、検証しています。この2回の大規模な移住とは、ヨーロッパに農耕をもたらした、9000年前頃以降のアナトリア半島からの移住と、5000年前頃以降の、後期新石器時代~青銅器時代にかけてのポントス-カスピ海草原(中央ユーラシア西北部から東ヨーロッパ南部までの草原地帯)からの移住です。前者に関しては、古代DNA研究により、北ヨーロッパ(関連記事)やイベリア半島(関連記事)などヨーロッパの広範な地域で確認されています。後者に関しても、古代DNA研究により確認されています(関連記事)。また、両方の大規模な移住では男性が主体だったのではないか、と考えられており、青銅器時代のヨーロッパにおいて男性人口の拡大があった、との見解も提示されています(関連記事)。

 本論文は、早期新石器時代の20人と後期新石器時代~青銅器時代の16人の遺骸から常染色体とX染色体を分析し、両方の移住において性差が見られるのか、検証しています。まず早期新石器時代に関しては、アナトリア半島からヨーロッパへの移住民の間に大きな性差は確認されませんでした。本論文は、アナトリア半島からヨーロッパへ移住してきた初期農耕民集団は、家族全体で移住してきたのではないか、と推測しています。ただ、ヨーロッパの初期農耕民集団は先住の狩猟採集民集団をじょじょに統合していったと考えられているものの(関連記事)、その過程では狩猟採集民集団の男性よりも女性の方が農耕民集団に吸収されやすかった可能性も、本論文では指摘されています。

 後期新石器時代~青銅器時代にかけてのポントス-カスピ海草原からの大規模な移住に関しては、じゅうらいの仮説と同様に、男性が主体だった、と改めて確認されました。本論文は、この大規模な移住において、女性1人にたいして男性は5~14人だったのではないか、と推測しています。ヨーロッパにおける、早期新石器時代の大規模な移住と後期新石器時代~青銅器時代の大規模な移住における性別の偏りの違いの要因として、社会構造・文化が挙げられています。後期新石器時代~青銅器時代の大規模な移住においては、騎馬技術や青銅器などといった技術革新を伴い、男性主体の広範な移動と征服が進行したのではないか、と推測されています。


参考文献:
Goldberg A. et al.(2017): Ancient X chromosomes reveal contrasting sex bias in Neolithic and Bronze Age Eurasian migrations. PNAS, 114, 10, 2657–2662.
https://doi.org/10.1073/pnas.1616392114

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