ホモ属出現前に現代人のように歩いていた人類

 366万年前頃の人類の歩行様式についての研究が報道されました。アメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴ市で今月(2018年4月)21日~25日にかけて開催中の実験生物学2018年度年次総会で公表されました。この研究は、タンザニアのラエトリ(Laetoli)で発見された366万年前頃の足跡を詳細に分析しました。ラエトリの足跡はアウストラロピテクス属のものと推測されており、アファレンシス(Australopithecus afarensis)に分類されています。ラエトリの足跡の分析からは、アファレンシスの性的二型は大きかった、と推定されています(関連記事)。

 アファレンシスに関しては、後のホモ属よりも樹上生活に適応しており、直立二足歩行の様式は現代人と異なっており、現代人よりも非効率的だっただろう、と推測されています(関連記事)。アファレンシスは前かがみの姿勢で歩いていたのではないか、というわけです。これは、アファレンシスの中でもとくに有名な化石である「ルーシー(A.L. 288-1)」の分析に基づいています。しかし、別の360万年前頃のアファレンシス化石(KSD-VP-1/1)の分析からは、アファレンシスがルーシーの分析から想定されるよりも直立二足歩行に適応していた、との見解も提示されています(関連記事)。

 この研究は、ラエトリの足跡を実験的手法で検証しました。現代人が直立して歩いた時と前かがみ姿勢で歩いた時の足跡が、ラエトリの足跡と比較されました。その結果、ラエトリの足跡は、現代人の直立二足歩行のさいの足跡と一致していた、と明らかになりました。直立二足歩行は、類人猿的な前かがみの姿勢での二足歩行よりエネルギー消費が少なくなります。そのため、より遠方にまで食料を探しに行けます。環境変化により、エネルギー消費が少なくなるような歩行様式への選択圧が生じ、ホモ属の出現(250万~200万年前頃?)よりも前の360万年前頃までには、人類(の一部?)はじゅうらいの想定よりも現代人に近いような歩行様式へと進化したのではないか、とこの研究は推測しています。

 ただ、上記報道でも指摘されているように、この研究の推測が妥当だとして、人類系統がいつ現代人のような歩行様式へと進化したのか、まだ不明です。これは人類進化の研究においてたいへん関心の高い問題でしょうが、その解明のためには、現時点ではあまりにも証拠が不足しています。新たな化石証拠や足跡とともに、既知の資料の見直しも必要になるでしょう。また、現代人と現生類人猿とは確かに歩行様式が異なりますが、現生類人猿のなかでも現代人と近縁なゴリラとチンパンジーの歩行様式が、現代人・チンパンジー・ゴリラの最終共通祖先と類似していたのか疑わしいので(関連記事)、そうした観点からの検証も必要でしょう。

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