アフリカ低緯度地帯の東西の狩猟採集民と農耕民の人口史

 これは4月24日分の記事として掲載しておきます。アフリカ低緯度地帯の東西の狩猟採集民と農耕民の人口史に関する研究(Lopez et al., 2018)が報道されました。人間の健康に有害な変異の多様性に関する研究は、感染症や自己免疫疾患のような「複雑な」疾患の危険性を高める変異の識別において重要です。こうした有害な変異の多様性は人口史の影響を受けていると予測され、人口史は生存戦略に影響を受けると考えられます。

 本論文は、アフリカの低緯度地帯の東西の狩猟採集民(ピグミー)と農耕民(バンツー語族)計300人のゲノム多様性を比較し、その人口史を復元するとともに、有害な変異の蓄積が異なっているのか、検証しました。過去2万年間の両集団の人口史は対照的で、狩猟採集民の方は人口サイズが80%にまで低下したのにたいして、農耕民の方は人口が3倍に増加しました。これは、狩猟採集と農耕という生活様式の違いに起因すると考えられます。

 有害な変異の蓄積は人口史に影響を受けると考えられるので、狩猟採集民と農耕民とに違いがある、と予測されました。しかし、現在の有害な変異の蓄積は両集団で類似していました。これは、狩猟採集民の方がかつては農耕民の祖先集団と同じくらいの人口規模を有しており、遺伝的多様性が高かったことと、狩猟採集民と農耕民との間の交雑が絶えなかったことが要因ではないか、と推定されています。他地域での同様の研究の進展が期待されます。


参考文献:
Lopez M. et al.(2018): The demographic history and mutational load of African hunter-gatherers and farmers. Nature Ecology & Evolution, 2, 721–730.
https://dx.doi.org/10.1038/s41559-018-0496-4

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック