人類の影響による後期更新世以降の哺乳類の身体サイズの低下
これは4月23日分の記事として掲載しておきます。人類の影響による後期更新世以降の哺乳類の身体サイズの低下に関する研究(Smith et al., 2018)が報道されました。日本語の解説記事もあります。ロイターでも報道されました。現在、人類の活動により大型動物が絶滅危険に陥っていることはよく知られています。本論文は、この傾向が近代以降の新しい現象なのか、それともさらに古い時代からの傾向なのか、後期更新世以降を対象に世界規模で検証しました。
すでに、後期~末期更新世において人類の拡散にともない大型動物が絶滅したことは、アメリカ大陸(関連記事)や更新世の寒冷期にはニューギニア島・タスマニア島と陸続きでサフルランドを形成していたオーストラリア大陸(関連記事)の事例が指摘されていました(これらの地域での大型動物の絶滅には気候変動の影響が大きかった、との説も提示されていますが)。本論文は、オーストラリア大陸やアメリカ大陸のみならず、ユーラシア大陸やアフリカ大陸も対象として、後期更新世以降の哺乳類の多様性の変容を検証しました。
本論文は125000年前頃以降を主要な検証対象とし、この期間を、125000~70000年前頃の後期更新世、70000~20000年前頃の末期更新世、20000~10000年前頃の終末期更新世、10000万年前頃以降の完新世に区分するとともに、今後200年間も対象としてその傾向を予測しています。本論文が強調しているのは、後期~終末期更新世における哺乳類の絶滅には、顕著なサイズ偏向性が見られる、ということです。この期間に絶滅した哺乳類は生き残った哺乳類よりも平均して2~3倍大きく、これは世界中で見られた傾向でした。一方、完新世になると哺乳類の絶滅のサイズ偏向性が低下しますが、これは身体サイズの小さな動物が生息地の変化・捕食動物の導入・都市化のために絶滅危険性にたいして脆弱になったことを反映しているのではないか、と推測されています。また、終末期更新世までに大型哺乳類の多くが絶滅し、その後は人類にたいして比較的強靭な大型動物が生き残ったため、完新世になってサイズ偏向性が弱まったのかもしれません。
非アフリカ地域では、後期更新世における大型哺乳類の絶滅は、現生人類(Homo sapiens)の拡散以降に顕著になります。まずはユーラシア大陸、続いてオーストラリア大陸、最後にアメリカ大陸と、現生人類がアフリカから拡散していった時期に大型哺乳類が絶滅していきました。この知見は、狩猟も含めて現生人類の活動が大型動物を絶滅に追いやった、とのこれまでの有力説と整合的です。本論文は、西ヨーロッパに拡散してきた現生人類の人口が、ネアンデルタール人の10倍ほどまで急増したと推測されていることから、アフリカから拡散した現生人類の人口急増も、大型哺乳類絶滅の一因になったのではないか、と指摘しています。
一方、気候変動によるサイズ偏向性絶滅の証拠は、後期更新世よりも前において、過去6600万年間(つまり新生代)に見られませんでした。こうした顕著なサイズ偏向性絶滅は、これよりも前では白亜紀末期の大量絶滅まで確認されていません。このような世界的規模での大型哺乳類の絶滅は、集団を形成して道具や火を使う人類により可能だったのだろう、と推測されています。とくにアメリカ大陸では終末期更新世に平均体重が劇的に低下し、北アメリカ大陸では陸生哺乳類の平均体重が98.0kgから7.6kgに低下しました。当時、人類はすでに現生人類のみとなっており、効率的な遠距離武器の開発により、大型哺乳類の大絶滅が起きたのではないか、と推測されています。
しかし本論文は、すでに125000年前頃において、アフリカでは大型哺乳類の生息が可能なほどの生態系が存在したにも関わらず、他の大陸よりも哺乳類の平均体重が50%低かったことも明らかにしています。これは、アフリカにおける人類と哺乳類との、他の大陸よりも長い相互作用史を反映している、と本論文は解釈しています。そのため本論文は、大型哺乳類の大量絶滅といった生態系への大きな影響は、現生人類のみならず人類の一般的な傾向ではないか、と示唆しています。種区分未定のデニソワ人(Denisovan)やネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)も、現生人類と同様に後期更新世には生態系に影響を与えたのではないか、というわけです。
本論文はさらに、今後200年間の動向も推測しています。大型哺乳類の絶滅傾向が続けば、数百年後には、地上最大の生物は体重900kgの家畜ウシ(Bos taurus)になるかもしれない、と本論文は指摘しています。ただ、上述したように、完新世以降には哺乳類絶滅のサイズ偏向性が低下していますし、現在の動物保護政策では小型の動物より象などの大型動物のほうが恩恵を受ける、との指摘もあります。また、大型哺乳類には草食動物が多く、大量の植物を食べて栄養素を生態系周辺に輸送するので、大型哺乳類絶滅の傾向が続けば生態系は大きな影響を受けるのではないか、とも懸念されています。
人類の活動による動物の絶滅に顕著なサイズ偏向性があるとの見解は、かなり確実性が高いと思います。本論文が示唆するように、これは現生人類だけではなく、ネアンデルタール人など他系統のホモ属でも同様だったのでしょう。ただ、人口(集団規模)・技術などの違いにより、現生人類はとくに多くの大型動物を絶滅に追いやった、ということなのでしょう。大型動物は目につきやすく、仕留められれば多くの人を養えるため、ホモ属は好機と判断すれば積極的に大型動物を狙ったのでしょう。「自然と共生する先住民」といった言説は現代社会では珍しくないようですが、そうした言説は慎重に検証されるべきだと思います。
参考文献:
Smith FA. et al.(2018A): Body size downgrading of mammals over the late Quaternary. Science, 360, 6386, 310-313.
http://dx.doi.org/10.1126/science.aao5987
すでに、後期~末期更新世において人類の拡散にともない大型動物が絶滅したことは、アメリカ大陸(関連記事)や更新世の寒冷期にはニューギニア島・タスマニア島と陸続きでサフルランドを形成していたオーストラリア大陸(関連記事)の事例が指摘されていました(これらの地域での大型動物の絶滅には気候変動の影響が大きかった、との説も提示されていますが)。本論文は、オーストラリア大陸やアメリカ大陸のみならず、ユーラシア大陸やアフリカ大陸も対象として、後期更新世以降の哺乳類の多様性の変容を検証しました。
本論文は125000年前頃以降を主要な検証対象とし、この期間を、125000~70000年前頃の後期更新世、70000~20000年前頃の末期更新世、20000~10000年前頃の終末期更新世、10000万年前頃以降の完新世に区分するとともに、今後200年間も対象としてその傾向を予測しています。本論文が強調しているのは、後期~終末期更新世における哺乳類の絶滅には、顕著なサイズ偏向性が見られる、ということです。この期間に絶滅した哺乳類は生き残った哺乳類よりも平均して2~3倍大きく、これは世界中で見られた傾向でした。一方、完新世になると哺乳類の絶滅のサイズ偏向性が低下しますが、これは身体サイズの小さな動物が生息地の変化・捕食動物の導入・都市化のために絶滅危険性にたいして脆弱になったことを反映しているのではないか、と推測されています。また、終末期更新世までに大型哺乳類の多くが絶滅し、その後は人類にたいして比較的強靭な大型動物が生き残ったため、完新世になってサイズ偏向性が弱まったのかもしれません。
非アフリカ地域では、後期更新世における大型哺乳類の絶滅は、現生人類(Homo sapiens)の拡散以降に顕著になります。まずはユーラシア大陸、続いてオーストラリア大陸、最後にアメリカ大陸と、現生人類がアフリカから拡散していった時期に大型哺乳類が絶滅していきました。この知見は、狩猟も含めて現生人類の活動が大型動物を絶滅に追いやった、とのこれまでの有力説と整合的です。本論文は、西ヨーロッパに拡散してきた現生人類の人口が、ネアンデルタール人の10倍ほどまで急増したと推測されていることから、アフリカから拡散した現生人類の人口急増も、大型哺乳類絶滅の一因になったのではないか、と指摘しています。
一方、気候変動によるサイズ偏向性絶滅の証拠は、後期更新世よりも前において、過去6600万年間(つまり新生代)に見られませんでした。こうした顕著なサイズ偏向性絶滅は、これよりも前では白亜紀末期の大量絶滅まで確認されていません。このような世界的規模での大型哺乳類の絶滅は、集団を形成して道具や火を使う人類により可能だったのだろう、と推測されています。とくにアメリカ大陸では終末期更新世に平均体重が劇的に低下し、北アメリカ大陸では陸生哺乳類の平均体重が98.0kgから7.6kgに低下しました。当時、人類はすでに現生人類のみとなっており、効率的な遠距離武器の開発により、大型哺乳類の大絶滅が起きたのではないか、と推測されています。
しかし本論文は、すでに125000年前頃において、アフリカでは大型哺乳類の生息が可能なほどの生態系が存在したにも関わらず、他の大陸よりも哺乳類の平均体重が50%低かったことも明らかにしています。これは、アフリカにおける人類と哺乳類との、他の大陸よりも長い相互作用史を反映している、と本論文は解釈しています。そのため本論文は、大型哺乳類の大量絶滅といった生態系への大きな影響は、現生人類のみならず人類の一般的な傾向ではないか、と示唆しています。種区分未定のデニソワ人(Denisovan)やネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)も、現生人類と同様に後期更新世には生態系に影響を与えたのではないか、というわけです。
本論文はさらに、今後200年間の動向も推測しています。大型哺乳類の絶滅傾向が続けば、数百年後には、地上最大の生物は体重900kgの家畜ウシ(Bos taurus)になるかもしれない、と本論文は指摘しています。ただ、上述したように、完新世以降には哺乳類絶滅のサイズ偏向性が低下していますし、現在の動物保護政策では小型の動物より象などの大型動物のほうが恩恵を受ける、との指摘もあります。また、大型哺乳類には草食動物が多く、大量の植物を食べて栄養素を生態系周辺に輸送するので、大型哺乳類絶滅の傾向が続けば生態系は大きな影響を受けるのではないか、とも懸念されています。
人類の活動による動物の絶滅に顕著なサイズ偏向性があるとの見解は、かなり確実性が高いと思います。本論文が示唆するように、これは現生人類だけではなく、ネアンデルタール人など他系統のホモ属でも同様だったのでしょう。ただ、人口(集団規模)・技術などの違いにより、現生人類はとくに多くの大型動物を絶滅に追いやった、ということなのでしょう。大型動物は目につきやすく、仕留められれば多くの人を養えるため、ホモ属は好機と判断すれば積極的に大型動物を狙ったのでしょう。「自然と共生する先住民」といった言説は現代社会では珍しくないようですが、そうした言説は慎重に検証されるべきだと思います。
参考文献:
Smith FA. et al.(2018A): Body size downgrading of mammals over the late Quaternary. Science, 360, 6386, 310-313.
http://dx.doi.org/10.1126/science.aao5987
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