フロレシエンシスとさまざまな人類との頭蓋形態の比較

 取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、インドネシア領フローレス島のリアンブア(Liang Bua)洞窟遺跡で発見された後期更新世の人類遺骸と、さまざまな系統の人類との頭蓋形態を比較した研究(Baab et al., 2013)が公表されました。リアンブア洞窟で発見された後期更新世の人類遺骸は、ホモ属の新種フロレシエンシス(Homo floresiensis)と分類されました。フロレシエンシスがどのホモ属から進化したのか、本論文の刊行から5年近く経過した2018年4月時点でも議論が続いています。フロレシエンシスの起源をめぐる議論について大別すると、エレクトス(Homo erectus)の子孫で島嶼化により小型化した、という仮説と、エレクトスよりも祖先的な人類系統、たとえばハビリス(Homo habilis)から進化した、という仮説が提示されています。後者においても、島嶼化によるフロレシエンシスの小型化が否定されているわけではありません。

 一方で、フロレシエンシスは病変の小柄な現生人類(Homo sapiens)集団との見解も提示されています。その病変とは、小頭症・クレチン病・ラロン型小人症などです。本論文は、フロレシエンシスの正基準標本とされるLB1の頭蓋形態と、現生人類では健康な現代人・小頭症など病変の現代人・化石現生人類、絶滅(古代型)ホモ属ではネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)・ハイデルベルク人(Homo heidelbergensis)・エレクトス・ハビリスの頭蓋形態を比較しました。

 その結果、LB1は健康な現代人のみならず病変の現代人とも明確に区別でき、全体的には古代型ホモ属と類似している、と明らかになりました。本論文は、後期更新世のフローレス島の人類はホモ属の新種(Homo floresiensis)として区分され得る、と改めて強調しています。古代型ホモ属のなかでもとくにLB1と類似しているのは、広義のエレクトス、具体的には180万~170万年前頃のジョージア(グルジア)のドマニシで発見された人類遺骸です。ただ、本論文は、LB1と広義のエレクトスとの類似性が、人類進化系統樹におけるフロレシエンシスの位置づけを直ちに決定するわけではない、と慎重な姿勢を示しています。なお、本論文の筆頭著者が再び筆頭著者となった3年後(2016年)の論文では、LB1がダウン症の現生人類との説が否定されています(関連記事)。


参考文献:
Baab KL, McNulty KP, Harvati K (2013) Homo floresiensis Contextualized: A Geometric Morphometric Comparative Analysis of Fossil and Pathological Human Samples. PLoS ONE 8(7): e69119.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0069119

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