性差が大きいと絶滅の可能性が高い
これは4月22日分の記事として掲載しておきます。性差と絶滅の可能性に関する研究(Martins et al., 2018)が公表されました。性選択の結果として、交尾相手の誘引や獲得競争に役立つ性質を有する一定数の個体の繁殖成功度が高まります。このため、両性間に顕著な身体的差異が生じ、これを「性的二形」と言います。これが種の発達にどのような影響を与えるのか、という論点を巡っては、かなりの議論があります。性選択により適応速度が上昇し、種が絶滅しにくくなるという考え方を示した研究がある一方で、誇張された性特異的な性質によって絶滅のリスクが高まるとした研究もあります。ただし、それらの研究には、現生種だけを対象とし、実際の絶滅ではなく、その代理指標を用いている、という限界があります。
この研究は、こうした問題を解決するため、貝虫類の大量の化石記録(初めて出現した4億5000万年前から現在まで)を調べました。貝虫類は小さな殻をもつ甲殻類で、程度に差があるものの、性的二形を示します。雄の貝虫類は、通常、大きな性器を格納するために細長い殻を形成し、射精の質を高めると考えられる大型の筋肉質の精子ポンプも備えています。この研究は、8400万~6600万年前頃となる白亜紀後期のミシシッピ川東部に生息していた93種の貝虫類を調べ、性的二形性が高い種ほど絶滅率が高く、性的二形性が最も小さい種の最大10倍に達していた、と明らかにしました。繁殖への投資が大きい雄の貝虫類は、結果として、その他の生存のための機能に利用できる資源が少なくなっている可能性があります。もしこの傾向が他の動物にも見られるのであれば、絶滅の危険のある生物種の保全活動において強力な性選択を考慮に入れるべきだ、とこの研究は結論づけています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
【進化】性差が大きい生物種は絶滅する可能性が大きい
性差が大きな生物種ほど絶滅する可能性が高くなることを明らかにした論文が、今週掲載される。
性選択の結果として、交尾相手の誘引や獲得競争に役立つ性質を有する一定数の個体の繁殖成功度が高まる。このため、両性間に顕著な身体的差異が生じるが、これを「性的二形」という。これが種の発達にどのような影響を与えるのか、という論点を巡っては、かなりの議論がある。性選択によって適応速度が上昇し、種が絶滅しにくくなるという考え方を示した研究がある一方で、誇張された性特異的な性質によって絶滅のリスクが高まるとした研究もある。ただし、それらの研究には限界がある。現生種だけを対象としており、実際の絶滅ではなく、その代理指標を用いているからだ。
今回、Gene Huntたちの研究グループは、この問題を解決するため、貝虫類の大量の化石記録(初めて出現した4億5000万年前から現在まで)を調べた。貝虫類は、小さな殻をもつ甲殻類で、程度に差があるが、性的二形を示す。雄の貝虫類は、通常、大きな性器を格納するために細長い殻を形成し、射精の質を高めると考えられる大型の筋肉質の精子ポンプも備えている。
Huntたちは、白亜紀後期(約6600~8400万年前)のミシシッピ川東部に生息していた93種の貝虫類を調べて、性的二形性が高い種ほど絶滅率が高く、性的二形性が最も小さい種の最大10倍に達していたことを明らかにした。繁殖への投資が大きい雄の貝虫類は、結果として、その他の生存のための機能に利用できる資源が少なくなっている可能性がある。もしこの傾向が他の動物にも見られるのであれば、絶滅の危険のある生物種の保全活動において強力な性選択を考慮に入れるべきだとHuntたちは結論付けている。
進化学:化石貝形虫類では、雄の高い性的投資が絶滅の駆動要因となった
進化学:大きくなり過ぎた生殖器で危機に瀕した貝形虫類
性選択と絶滅の関係は、厄介な問題である。というのも、一部の研究は、性選択が自然選択を強化し、種の適応度を高めて絶滅しにくくすると示しているのに対し、他の研究は、性的二型性への投資がリスクを生じ、絶滅の確率を高めると示しているからである。これまでの研究では、「絶滅」が局地的または実験室レベルのものでしかなく、すなわち人為的なものにすぎないという制限があった。では、実際の絶滅を経験した化石記録を利用してはどうだろう。M Fernandes Martinsたちは今回、石灰化した二枚貝様の背甲を有する小型の甲殻類である貝形虫類の極めて良好に管理された化石記録を用いて、この問題に取り組んだ。貝形虫類は、現生種がいるために生物学的な特徴が分かっており、また化石標本は性別を確実に判定することができるため、理想的な研究対象である。雄の背甲は、生殖器を収納するために雌と比べ大きくて長いが、その程度は一定ではない。著者たちがこの貝形虫類の化石記録をたどったところ、性的二型性が絶滅リスクと関係することが明らかになった。二型性がより顕著な種は、そうではない種に比べて絶滅しやすいことが分かったのである。
参考文献:
Martins MJF. et al.(2018): High male sexual investment as a driver of extinction in fossil ostracods. Nature, 556, 7701, 366–369.
https://dx.doi.org/10.1038/s41586-018-0020-7
この研究は、こうした問題を解決するため、貝虫類の大量の化石記録(初めて出現した4億5000万年前から現在まで)を調べました。貝虫類は小さな殻をもつ甲殻類で、程度に差があるものの、性的二形を示します。雄の貝虫類は、通常、大きな性器を格納するために細長い殻を形成し、射精の質を高めると考えられる大型の筋肉質の精子ポンプも備えています。この研究は、8400万~6600万年前頃となる白亜紀後期のミシシッピ川東部に生息していた93種の貝虫類を調べ、性的二形性が高い種ほど絶滅率が高く、性的二形性が最も小さい種の最大10倍に達していた、と明らかにしました。繁殖への投資が大きい雄の貝虫類は、結果として、その他の生存のための機能に利用できる資源が少なくなっている可能性があります。もしこの傾向が他の動物にも見られるのであれば、絶滅の危険のある生物種の保全活動において強力な性選択を考慮に入れるべきだ、とこの研究は結論づけています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
【進化】性差が大きい生物種は絶滅する可能性が大きい
性差が大きな生物種ほど絶滅する可能性が高くなることを明らかにした論文が、今週掲載される。
性選択の結果として、交尾相手の誘引や獲得競争に役立つ性質を有する一定数の個体の繁殖成功度が高まる。このため、両性間に顕著な身体的差異が生じるが、これを「性的二形」という。これが種の発達にどのような影響を与えるのか、という論点を巡っては、かなりの議論がある。性選択によって適応速度が上昇し、種が絶滅しにくくなるという考え方を示した研究がある一方で、誇張された性特異的な性質によって絶滅のリスクが高まるとした研究もある。ただし、それらの研究には限界がある。現生種だけを対象としており、実際の絶滅ではなく、その代理指標を用いているからだ。
今回、Gene Huntたちの研究グループは、この問題を解決するため、貝虫類の大量の化石記録(初めて出現した4億5000万年前から現在まで)を調べた。貝虫類は、小さな殻をもつ甲殻類で、程度に差があるが、性的二形を示す。雄の貝虫類は、通常、大きな性器を格納するために細長い殻を形成し、射精の質を高めると考えられる大型の筋肉質の精子ポンプも備えている。
Huntたちは、白亜紀後期(約6600~8400万年前)のミシシッピ川東部に生息していた93種の貝虫類を調べて、性的二形性が高い種ほど絶滅率が高く、性的二形性が最も小さい種の最大10倍に達していたことを明らかにした。繁殖への投資が大きい雄の貝虫類は、結果として、その他の生存のための機能に利用できる資源が少なくなっている可能性がある。もしこの傾向が他の動物にも見られるのであれば、絶滅の危険のある生物種の保全活動において強力な性選択を考慮に入れるべきだとHuntたちは結論付けている。
進化学:化石貝形虫類では、雄の高い性的投資が絶滅の駆動要因となった
進化学:大きくなり過ぎた生殖器で危機に瀕した貝形虫類
性選択と絶滅の関係は、厄介な問題である。というのも、一部の研究は、性選択が自然選択を強化し、種の適応度を高めて絶滅しにくくすると示しているのに対し、他の研究は、性的二型性への投資がリスクを生じ、絶滅の確率を高めると示しているからである。これまでの研究では、「絶滅」が局地的または実験室レベルのものでしかなく、すなわち人為的なものにすぎないという制限があった。では、実際の絶滅を経験した化石記録を利用してはどうだろう。M Fernandes Martinsたちは今回、石灰化した二枚貝様の背甲を有する小型の甲殻類である貝形虫類の極めて良好に管理された化石記録を用いて、この問題に取り組んだ。貝形虫類は、現生種がいるために生物学的な特徴が分かっており、また化石標本は性別を確実に判定することができるため、理想的な研究対象である。雄の背甲は、生殖器を収納するために雌と比べ大きくて長いが、その程度は一定ではない。著者たちがこの貝形虫類の化石記録をたどったところ、性的二型性が絶滅リスクと関係することが明らかになった。二型性がより顕著な種は、そうではない種に比べて絶滅しやすいことが分かったのである。
参考文献:
Martins MJF. et al.(2018): High male sexual investment as a driver of extinction in fossil ostracods. Nature, 556, 7701, 366–369.
https://dx.doi.org/10.1038/s41586-018-0020-7
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