桜井万里子、本村凌二『集中講義!ギリシア・ローマ』

 これは4月22日分の記事として掲載しておきます。ちくま新書の一冊として、筑摩書房から2017年12月に刊行されました。20年前の『世界の歴史5 ギリシアとローマ』(中央公論社、1997年)と同じ著者二人による古代ギリシア・ローマ史です。この間、研究は大きく進展しているでしょうから、時間を作って『世界の歴史5 ギリシアとローマ』を再読し、違いを見つけていくのも楽しいかもしれません。

 ただ、古代ギリシア・ローマ史の概説書という制約を課せられていた『世界の歴史5 ギリシアとローマ』にたいして、本書はより自由な姿勢で執筆されたとのことで、古代ギリシア・ローマ史の復習としてよりは、現代社会も視野に入れた新たな視点・考察への示唆として読むべきなのかな、とも思います。さすがに大御所二人の解説・対談だけに、本書から得るものは少なくないと思います。

 本書は、第1章では政治体制、第2章では文化・生活について、ギリシア・ローマの観点から著者二人がそれぞれ解説した後、第3章で著者二人の対談を収録する、という構成になっています。一般向け概説書という制約がないため、弁論や奴隷制など、特定の観点からの古代ギリシア・ローマ史という性格が強く出ています。古代ギリシアとはいっても一様ではないという指摘と、古代ギリシアは古代ローマよりも非寛容な傾向がある、との指摘がとくに印象に残ります。

 第3章は著者二人による対談ですが、暴走気味の本村氏にたいして、桜井氏が(困惑しつつ?)突っ込みを入れている様子が窺え、私のような非専門家の部外者が読む分には、その点でも楽しめました。意外だったのは、桜井氏が『黒いアテナ』を一定以上評価していることです。桜井氏によると、『黒いアテナ』の主張はある程度受け入れられ、古代ギリシア文化におけるオリエントの影響の大きさを重視すべきだ、という見解が主流になりつつあるそうです。

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