先コロンブス期におけるポリネシアとアメリカ大陸との人的交流

 これは4月14日分の記事として掲載しておきます。サツマイモ(Ipomoea batatas)のDNA解析についての研究(Muñoz-Rodríguez et al., 2018)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。本論文は、サツマイモとその近縁種199標本から、葉緑体全領域と核の605個の単一領域のDNA解析結果を報告しています。その結果、サツマイモは近縁野生種の中でも、メキシコアサガオ(Ipomoea trifida)にのみ起源がある、と明らかになりました。サツマイモ系統は遅くとも80万年前頃にメキシコアサガオ系統から分岐した後、メキシコアサガオ系統と交雑し、サツマイモ系統には2系統目が生じたことも明らかになりました。

 注目されるのは、ハワイに自生するサツマイモの近縁野生種(Ipomoea tuboides)は、110万年以上前にメキシコの最近縁野生種(Ipomoea leucotricha)と分岐し、海流など非人為的要因でアメリカ大陸からハワイに到達した、と推測されることです。人類が介在しないサツマイモ属の渡海を含む長距離移動は、きょくたんに珍しいわけではないようです。

 本論文は、ポリネシアのサツマイモについても調べました。ポリネシアにおいては、先コロンブス期からサツマイモが存在していたと考えられており、先コロンブス期におけるポリネシアとアメリカ大陸との人的交流の有力な証拠と考えられてきました。以前には、ニワトリもその有力な証拠と考えられていたのですが(関連記事)、近年では否定されています(関連記事)。人類のゲノム解析からも、先コロンブス期におけるポリネシアとアメリカ大陸との人的交流の可能性が指摘されていましたが(関連記事)、イースター島住民の古代ゲノム解析では、その証拠は確認されませんでした(関連記事)。

 このように、最近になって、先コロンブス期におけるポリネシアとアメリカ大陸との人的交流に否定的な研究が相次いで提示されている感があります。本論文は、ポリネシアの18世紀のサツマイモ標本の分析から、このサツマイモ系統が遅くとも115000万年前頃には最近縁系統から分岐した、と推測しています。上述したハワイのサツマイモ属の事例からも、ポリネシアにおいて、3000年前頃の人類到達のずっと前にサツマイモがすでに存在していた可能性は高い、と本論文は指摘します。つまり、先コロンブス期におけるポリネシアとアメリカ大陸との人的交流の有力な証拠とされてきたサツマイモについても、その証拠とはならない、というわけです。

 現時点では、先コロンブス期におけるポリネシアとアメリカ大陸との人的交流について、確たる証拠はない、と言うべきなのでしょう。ただ、ポリネシアの古代DNAの解析数は、ヨーロッパほどDNAの残存には向いていない環境であることからまだ少なく、ポリネシアのサツマイモに関しても、状況証拠からは人類到達以前にすでに存在していた可能性は高いものの、決定的とは言えないでしょう。可能性はかなり低くなったかもしれませんが、先コロンブス期におけるポリネシアとアメリカ大陸との人的交流は、まだ真剣な検証に値する仮説なのではないか、と思います。


参考文献:
Muñoz-Rodríguez P. et al.(2018): Reconciling Conflicting Phylogenies in the Origin of Sweet Potato and Dispersal to Polynesia. Current Biology, 28, 8, 1254–1256.e12.
https://doi.org/10.1016/j.cub.2018.03.020

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