生物学的侵略者としてのネアンデルタール人とデニソワ人
これは3月27日分の記事として掲載しておきます。取り上げるのが遅れましたが、現生人類(Homo sapiens)だけではなく、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)とデニソワ人(Denisovan)も生物学的侵略者として把握し、概観した研究(Hawks., 2017B)が公表されました。デニソワ人は、南シベリアのアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)でのみ確認されている、ネアンデルタール人と近縁な後期ホモ属の分類群です(関連記事)。
現生人類系統とネアンデルタール人およびデニソワ人の共通祖先系統との分岐は25920世代前(751690年前頃)、ネアンデルタール人系統とデニソワ人系統との分岐は25660世代前(744000年前頃)で、現生人類系統とネアンデルタール人およびデニソワ人の共通祖先系統との分岐後、現生人類系統は人口が増加したのにたいして、ネアンデルタール人およびデニソワ人の共通祖先系統は人口が減少し、ネアンデルタール人系統はデニソワ人系統との分岐後に人口が数万人規模まで増加していき、各地域集団に細分化されていった、と推測されています(関連記事)。ネアンデルタール人系統は、現生人類系統と分岐してさほど時間を経ずにデニソワ人系統と分岐した、というわけです。
本論文は、ネアンデルタール人系統やデニソワ人系統は、厳しいボトルネック(瓶首効果)を経た後、小規模な創始者集団から急速に地理的範囲を拡大して各地域的集団に分岐したのではないか、と推測し、おそらくは小規模だった、非アフリカ系現代人の主要な祖先集団による10万年前頃以降のアフリカからユーラシアへの拡散との類似性を指摘しています。本論文は、ネアンデルタール人系統もデニソワ人系統も、現生人類と同様に生物学的侵略者として新たな地域に拡散し、先住人類も含めて生態系に大きな影響を与えるとともに、先住人類との交雑により、免疫関連の遺伝子などを獲得することで、さらなる拡散と人口増加が可能になったのではないか、と推測しています。生物学的侵略者は新たな地域に出現するものの、その後に続く急速な人口増加との間に移行期間があり、そこで先住人類との交雑により適応度を高めるような遺伝子を獲得するのではないか、というわけです。
現生人類が10万年以上前にアフリカから南西アジアに初めて拡散した後、交雑によるネアンデルタール人などの先住人類からの遺伝子の獲得と定着に時間を要し、その後にさらに遠方へと拡散したのではないか、という想定です。本論文の刊行後に公表された研究では、レヴァントにおける、194000~177000年前頃と推定されている、現生人類的な上顎が報告されています(関連記事)。現生人類の世界中への拡散に、先住人類からの免疫関連などの遺伝子の獲得が貢献した可能性は高いでしょう。死亡率の高い流行病は完新世の大規模な農耕集団の出現以降の現象とも考えられてきました。しかし、非アフリカ系現代人に見られるネアンデルタール人やデニソワ人由来の適応的遺伝子の多くは免疫関連なので、現生人類にとって、新たな地域では、交雑により獲得した免疫関連遺伝子が適応度を高めた可能性はじゅうぶん考えられます。
このようなネアンデルタール人系統やデニソワ人系統の新たな地域への拡散に関しては、現生人類のアフリカからの拡散と同様に、技術革新と関連づけられてきました。しかし現時点では、ネアンデルタール人系統やデニソワ人系統がユーラシアに拡散したと思われる時期に、考古学的な変化が伴っているという証拠は得られていない、と本論文は指摘します。生物学的進化と文化的発展とを安易に結びつけてはならない、と改めて思います。本論文は、こうした文化的発展を若者の高い死亡率が制約したのではないか、と推測しています。一方、上部旧石器時代のヨーロッパでは現生人類の若者の死亡率はそれ以前の人類よりずっと低く、現生人類系統において、どこかの時点で何らかの(生物学的もしくは社会的)要因により若者の死亡率が低下し、それまでの人類と比較しての、5万年前頃以降の現生人類の広範かつ急速な拡散と短期間での文化変容があったのでないか、と考えられます。
本論文は今後の課題として、上述したネアンデルタール人・デニソワ人・現生人類の推定分岐年代が妥当だとすると、アフリカや南西アジアには、それらの祖先系統の有利な候補となりそうな人類化石が現時点では存在しないことを挙げています。ネアンデルタール人系統やデニソワ人系統がどのようにアフリカからユーラシアへと拡散していったのか、などといった問題を解決するには、古代DNA研究が進んでいるユーラシア北部以外での古代DNAの解析数を増やしていくとともに、アフリカでもっと多くの人類化石を発見する必要がある、と本論文は指摘しています。
参考文献:
Hawks J.(2017B): Neanderthals and Denisovans as biological invaders. PNAS, 114, 37, 9761–9763.
https://doi.org/10.1073/pnas.1713163114
現生人類系統とネアンデルタール人およびデニソワ人の共通祖先系統との分岐は25920世代前(751690年前頃)、ネアンデルタール人系統とデニソワ人系統との分岐は25660世代前(744000年前頃)で、現生人類系統とネアンデルタール人およびデニソワ人の共通祖先系統との分岐後、現生人類系統は人口が増加したのにたいして、ネアンデルタール人およびデニソワ人の共通祖先系統は人口が減少し、ネアンデルタール人系統はデニソワ人系統との分岐後に人口が数万人規模まで増加していき、各地域集団に細分化されていった、と推測されています(関連記事)。ネアンデルタール人系統は、現生人類系統と分岐してさほど時間を経ずにデニソワ人系統と分岐した、というわけです。
本論文は、ネアンデルタール人系統やデニソワ人系統は、厳しいボトルネック(瓶首効果)を経た後、小規模な創始者集団から急速に地理的範囲を拡大して各地域的集団に分岐したのではないか、と推測し、おそらくは小規模だった、非アフリカ系現代人の主要な祖先集団による10万年前頃以降のアフリカからユーラシアへの拡散との類似性を指摘しています。本論文は、ネアンデルタール人系統もデニソワ人系統も、現生人類と同様に生物学的侵略者として新たな地域に拡散し、先住人類も含めて生態系に大きな影響を与えるとともに、先住人類との交雑により、免疫関連の遺伝子などを獲得することで、さらなる拡散と人口増加が可能になったのではないか、と推測しています。生物学的侵略者は新たな地域に出現するものの、その後に続く急速な人口増加との間に移行期間があり、そこで先住人類との交雑により適応度を高めるような遺伝子を獲得するのではないか、というわけです。
現生人類が10万年以上前にアフリカから南西アジアに初めて拡散した後、交雑によるネアンデルタール人などの先住人類からの遺伝子の獲得と定着に時間を要し、その後にさらに遠方へと拡散したのではないか、という想定です。本論文の刊行後に公表された研究では、レヴァントにおける、194000~177000年前頃と推定されている、現生人類的な上顎が報告されています(関連記事)。現生人類の世界中への拡散に、先住人類からの免疫関連などの遺伝子の獲得が貢献した可能性は高いでしょう。死亡率の高い流行病は完新世の大規模な農耕集団の出現以降の現象とも考えられてきました。しかし、非アフリカ系現代人に見られるネアンデルタール人やデニソワ人由来の適応的遺伝子の多くは免疫関連なので、現生人類にとって、新たな地域では、交雑により獲得した免疫関連遺伝子が適応度を高めた可能性はじゅうぶん考えられます。
このようなネアンデルタール人系統やデニソワ人系統の新たな地域への拡散に関しては、現生人類のアフリカからの拡散と同様に、技術革新と関連づけられてきました。しかし現時点では、ネアンデルタール人系統やデニソワ人系統がユーラシアに拡散したと思われる時期に、考古学的な変化が伴っているという証拠は得られていない、と本論文は指摘します。生物学的進化と文化的発展とを安易に結びつけてはならない、と改めて思います。本論文は、こうした文化的発展を若者の高い死亡率が制約したのではないか、と推測しています。一方、上部旧石器時代のヨーロッパでは現生人類の若者の死亡率はそれ以前の人類よりずっと低く、現生人類系統において、どこかの時点で何らかの(生物学的もしくは社会的)要因により若者の死亡率が低下し、それまでの人類と比較しての、5万年前頃以降の現生人類の広範かつ急速な拡散と短期間での文化変容があったのでないか、と考えられます。
本論文は今後の課題として、上述したネアンデルタール人・デニソワ人・現生人類の推定分岐年代が妥当だとすると、アフリカや南西アジアには、それらの祖先系統の有利な候補となりそうな人類化石が現時点では存在しないことを挙げています。ネアンデルタール人系統やデニソワ人系統がどのようにアフリカからユーラシアへと拡散していったのか、などといった問題を解決するには、古代DNA研究が進んでいるユーラシア北部以外での古代DNAの解析数を増やしていくとともに、アフリカでもっと多くの人類化石を発見する必要がある、と本論文は指摘しています。
参考文献:
Hawks J.(2017B): Neanderthals and Denisovans as biological invaders. PNAS, 114, 37, 9761–9763.
https://doi.org/10.1073/pnas.1713163114
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