アフリカ南部におけるトバ噴火の影響(追記有)
これは3月16日分の記事として掲載しておきます。アフリカ南部におけるトバ噴火の影響を検証した研究(Smith et al., 2018)が報道されました。『サイエンス』のサイトには解説記事が掲載されています。この研究はオンライン版での先行公開となります。74000年前頃となるスマトラ島のトバ噴火は、火山灰のような微小物質の大量噴出と効果による冷却効果などにより生態系に大きな影響を与え、現生人類(Homo sapiens)も含めて人類は激減した、とのトバ大惨事仮説(トバ・カタストロフ理論)が提示されています。しかし、これには批判も少なくありません。
南アジア南部では、トバ大噴火前後での人類の継続性が指摘されています(関連記事)。トバ大噴火の起きたスマトラ島でさえ、オランウータンがトバ大噴火後も生き延びていることから、トバ大噴火そのものは大型動物には大きな影響を及ぼさなかった、との見解も提示されています(関連記事)。ミトコンドリアDNA(mtDNA)解析からも、トバ大噴火による現生人類のボトルネックとの仮説には否定的な見解が提示されています(関連記事)。また、スマトラ島の近隣のフローレス島でも、現生人類とは異なるホモ属種(Homo floresiensis)が、トバ大噴火の前後で継続して存続していたと考えられます(関連記事)。アフリカ東部のマラウイ湖(Lake Malawi)の堆積物コアの分析からは、アフリカ東部において現生人類のボトルネック(瓶首効果)もしくは絶滅の危機は起きなかっただろう、との見解が提示されています(関連記事)。
この研究は、南アフリカ共和国南岸のピナクルポイント(Pinnacle Point)遺跡とフリースバーイ(Vleesbaai)遺跡の火山灰を分析し、トバ大惨事仮説を検証しています。9kmほど離れている両遺跡に関しては、同じ現生人類集団が使用していた可能性も指摘されています。この研究は、凝灰岩の破片を含む両遺跡の火山灰を高精度で分析し、年代を測定しました。この高精度の分析は、他の遺跡での適用が期待されています。分析の結果、年代はトバ噴火の頃のもので、これらの破片の化学的特徴はマレーシアとマラウィ湖で発見された、トバ噴火によると考えられている火山灰と一致している、と明らかになりました。
ピナクルポイント遺跡では、人工物は火山灰の痕跡の直下と直上で発見されており、人間による居住の空白は見られない、とこの研究は指摘します。火山灰の直後に人間の痕跡は強く見られるようになっているので、アフリカ南部沿岸では、トバ噴火の破滅的影響はなかったのではないか、との見解が提示されています。この地域の(おそらくは)現生人類集団がトバ噴火の影響を受けなかった理由として、海に近かったことが挙げられています。ピナクルポイント遺跡では人類による甲殻類など海洋資源の消費の証拠が確認されていますが、海洋は内陸部の植物や動物よりトバ噴火の影響を受けにくかったのではないか、というわけです。そのため、海洋資源を利用する沿岸地域の狩猟採集経済は弾力性があったのではないか、と指摘されています。
しかし、トバ大惨事仮説を提唱したアンブローズ(Stanley Ambrose)氏は、この研究の見解に納得していません。火山灰の直上には砂層があり、これは劇的な環境変化の指標となるので、人類の減少を示しているのではないか、というわけです。ただ、この研究や上述したさまざまな証拠から、74000年前頃のトバ噴火が地球(のかなりの地域?)に一定以上の大きな影響を与えたかもしれないとしても、人類の激減・現生人類絶滅の危機といった「大惨事」はなかった可能性が高そうです。
参考文献:
Smith EI. et al.(2018): Humans thrived in South Africa through the Toba eruption about 74,000 years ago. Nature, 555, 7697, 511–515.
http://dx.doi.org/10.1038/nature25967
追記(2018年3月17日)
ナショナルジオグラフィックでも報道されました。
南アジア南部では、トバ大噴火前後での人類の継続性が指摘されています(関連記事)。トバ大噴火の起きたスマトラ島でさえ、オランウータンがトバ大噴火後も生き延びていることから、トバ大噴火そのものは大型動物には大きな影響を及ぼさなかった、との見解も提示されています(関連記事)。ミトコンドリアDNA(mtDNA)解析からも、トバ大噴火による現生人類のボトルネックとの仮説には否定的な見解が提示されています(関連記事)。また、スマトラ島の近隣のフローレス島でも、現生人類とは異なるホモ属種(Homo floresiensis)が、トバ大噴火の前後で継続して存続していたと考えられます(関連記事)。アフリカ東部のマラウイ湖(Lake Malawi)の堆積物コアの分析からは、アフリカ東部において現生人類のボトルネック(瓶首効果)もしくは絶滅の危機は起きなかっただろう、との見解が提示されています(関連記事)。
この研究は、南アフリカ共和国南岸のピナクルポイント(Pinnacle Point)遺跡とフリースバーイ(Vleesbaai)遺跡の火山灰を分析し、トバ大惨事仮説を検証しています。9kmほど離れている両遺跡に関しては、同じ現生人類集団が使用していた可能性も指摘されています。この研究は、凝灰岩の破片を含む両遺跡の火山灰を高精度で分析し、年代を測定しました。この高精度の分析は、他の遺跡での適用が期待されています。分析の結果、年代はトバ噴火の頃のもので、これらの破片の化学的特徴はマレーシアとマラウィ湖で発見された、トバ噴火によると考えられている火山灰と一致している、と明らかになりました。
ピナクルポイント遺跡では、人工物は火山灰の痕跡の直下と直上で発見されており、人間による居住の空白は見られない、とこの研究は指摘します。火山灰の直後に人間の痕跡は強く見られるようになっているので、アフリカ南部沿岸では、トバ噴火の破滅的影響はなかったのではないか、との見解が提示されています。この地域の(おそらくは)現生人類集団がトバ噴火の影響を受けなかった理由として、海に近かったことが挙げられています。ピナクルポイント遺跡では人類による甲殻類など海洋資源の消費の証拠が確認されていますが、海洋は内陸部の植物や動物よりトバ噴火の影響を受けにくかったのではないか、というわけです。そのため、海洋資源を利用する沿岸地域の狩猟採集経済は弾力性があったのではないか、と指摘されています。
しかし、トバ大惨事仮説を提唱したアンブローズ(Stanley Ambrose)氏は、この研究の見解に納得していません。火山灰の直上には砂層があり、これは劇的な環境変化の指標となるので、人類の減少を示しているのではないか、というわけです。ただ、この研究や上述したさまざまな証拠から、74000年前頃のトバ噴火が地球(のかなりの地域?)に一定以上の大きな影響を与えたかもしれないとしても、人類の激減・現生人類絶滅の危機といった「大惨事」はなかった可能性が高そうです。
参考文献:
Smith EI. et al.(2018): Humans thrived in South Africa through the Toba eruption about 74,000 years ago. Nature, 555, 7697, 511–515.
http://dx.doi.org/10.1038/nature25967
追記(2018年3月17日)
ナショナルジオグラフィックでも報道されました。
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