カラスにおける群れの規模と認知能力の関係

 これは3月10日分の記事として掲載しておきます。カラスにおける群れの規模と認知能力の関係についての研究(Ashton et al., 2018)が公表されました。脳サイズ・栄養状態・環境要因はそれぞれ、一般的知能を決定づける役割を果たしていますが、最も支持されている仮説の一つが、知能は社会的複雑性と関連するとする「社会脳仮説」です。安定した社会的群れで生活する生物種の場合、個体群内の群れの大小により情報処理の需要に格差が生じ、それが認知形質に影響を与える可能性がある、というわけです。これまでの研究では、ヒトや飼育下のカワスズメ科魚類(シクリッド)や飼育下のマカクザルの場合に、脳構造の測定値が群れの大きさと関連している、と明らかになっていますが、異なる種間での比較だったために混乱があり、野生動物における群れの大きさと認知パフォーマンスの関係は解明されていませんでした。

 この研究は、社会性と認知との因果関係を理解するには、種内における社会性の多様性を調べることも重要との見通しのもと、野生のカササギフエガラス(Gymnorhina tibicen)の個体群においてその規模から個体の認知パフォーマンスを予測できるのか、調べました。対象は14の群れを形成する56羽で、それぞれの群れの個体数は3~12羽と幅がありました。この研究は、空間記憶などの脳の情報処理過程を測定するために設計された4つの課題を用いて、個体の認知パフォーマンスを定量化しました。

 その結果、4つの課題すべてで成体の認知パフォーマンスを予測する因子として最も有力だったのが群れの規模であり、大きな群れの個体の方が小さな群れの個体よりも課題の成績が優秀である、と明らかになりました。このような群れの規模と認知パフォーマンスの関係は、巣立ちから200日後という早い時期に出現しました。さらにこの研究は、それぞれの課題における雌のカササギフエガラスの成績と繁殖の成功を示す3つの因子との正の関連を明らかにしました。この研究はこうした知見から、認知パフォーマンスが向上することの選択的利点の一つが、繁殖の成功である可能性を指摘しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


【生態学】カササギフエガラスは大きな群れで生活する個体の方が賢い

 カササギフエガラスは、大きな群れで生活する個体の方が高い認知パフォーマンスを示し、これが高い繁殖成功度と関連していることを報告する論文が、今週掲載される。この研究結果は、社会環境が認知形質の形成と進化の推進に重要な役割を担っていることを示唆している。

 安定した社会的群れで生活する生物種の場合、個体群内の群れの大小によって情報処理の需要に格差が生じ、それが認知形質に影響を与える可能性がある。これまでの研究では、ヒトや飼育下のカワスズメ科魚類(シクリッド)、飼育下のマカクザルの場合に脳構造の測定値が群れの大きさと関連していることが判明しているが、野生動物における群れの大きさと認知パフォーマンスの関係は解明されていなかった。

 今回、Benjamin Ashtonたちの研究グループは、野生のカササギフエガラスの個体群において群れの大きさから個体の認知パフォーマンスを予測できるかどうかを調べた。対象は14の群れを形成する56羽で、それぞれの群れの個体数は3~12羽と幅があった。Ashtonたちは、空間記憶などの脳の情報処理過程を測定するために設計された4つの課題を用いて、個体の認知パフォーマンスを定量化した。その結果、4つの課題全てで成体の認知パフォーマンスを予測する因子として最も有力だったのが群れの大きさであり、大きな群れの個体の方が小さな群れの個体よりも課題の成績が優秀であることが分かった。このような群れの大きさと認知パフォーマンスの関係は、早い時期(巣立ちから200日後)に出現した。さらにAshtonたちは、それぞれの課題における雌のカササギフエガラスの成績と繁殖の成功を示す3つの因子との正の関連を明らかにした。以上の結果から、Ashtonたちは、認知パフォーマンスが向上することの選択的利点の1つが繁殖の成功である可能性があるという考えを示している。


動物行動:カササギフエガラスにおいて、認知能力は群れのサイズと関連し適応度に影響を及ぼす

動物行動:社会脳

 一般的知能を決定付けるものとは何か。脳のサイズ、栄養状態、環境要因がそれぞれ役割を果たしているが、最も支持されている考えの1つに、知能は社会的複雑性と関連するとする「社会脳仮説」がある。しかし、これまでの研究の大半は、異なる種間での比較を行っていたために混乱があった。今回B Ashtonたちは、協同繁殖を行う野生のカササギフエガラスという単一の種において、サイズの異なる複数の群れを調べた。その結果、大きな群れで生活するカササギフエガラスは、小さな群れで生活する個体に比べて、課題を解く速度が速いことが明らかになった。課題解決能力の高さは、繁殖の成功につながっていた。



参考文献:
Ashton BJ. et al.(2018): Cognitive performance is linked to group size and affects fitness in Australian magpies. Nature, 554, 7692, 364–367.
http://dx.doi.org/10.1038/nature25503

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