トバ大噴火のアフリカ東部における影響は限定的
これは2月9日分の記事として掲載しておきます。74000年前頃のスマトラ島のトバ大噴火のアフリカ東部における影響を検証した研究(Yost et al., 2018)が報道されました。トバ大噴火による6年もの冷却効果(火山の冬)の影響は広範囲に及び甚大で、現生人類(Homo sapiens)の有効な集団規模は10000人以下にまで減少し、その後に急速に人口が増加するという、ボトルネック(瓶首効果)が生じたのではないか、とのトバ大惨事仮説(トバ・カタストロフ理論)が提示されており、一般層にも広く浸透しているようです。
しかし、トバ大惨事仮説への批判は以前より根強く、このブログでも何度か取り上げてきました。南アジア南部では、トバ大噴火前後での人類の継続性が指摘されています(関連記事)。トバ大噴火の起きたスマトラ島でさえ、オランウータンがトバ大噴火後も生き延びていることから、トバ大噴火そのものは大型動物には大きな影響を及ぼさなかった、との見解も提示されています(関連記事)。ミトコンドリアDNA(mtDNA)解析からも、トバ大噴火による現生人類のボトルネックとの仮説には否定的な見解が提示されています(関連記事)。また、スマトラ島の近隣のフローレス島でも、現生人類とは異なるホモ属種(Homo floresiensis)が、トバ大噴火の前後で継続して存続していたと考えられます(関連記事)。
一般層にも定着した感のあるトバ大惨事仮説ですが、このように、批判は少なくないようです。この研究は、アフリカ東部のマラウイ湖(Lake Malawi)の堆積物コアを分析し、アフリカ東部においてトバ大噴火の影響がどの程度だったのか、推定しています。この研究は、マラウイ湖の100万年前までさかのぼる堆積物コアのうち、トバ大噴火の前100年~その後200年の計300年ほどの期間のものを分析しました。堆積物コアは、3mm~4mm(8~9年)単位で分析されました。
堆積物コアのプラントオパールと木炭の分析の結果、低地帯においては、より温暖な気候で成長する草もより寒冷な気候で成長する草も、トバ大噴火の前後で大きな変化は見られませんでした。山地の植物では枯死が相次いだことを示唆する証拠が得られましたが、火山の冬があったことを示すほどではない、と指摘されています。これらの分析結果は、トバ大惨事仮説の想定とは大きく異なりますが、この研究は、トバ大惨事仮説で想定されたほど二酸化硫黄の噴出量は多くなく、スマトラ島と同じく現在はインドネシア領のスンバワ島で紀元後1815年に起きたタンボラ山大噴火と同じ程度の規模だったのではないか、と推定しています。
この研究は、これまでの遺伝学的知見と新たに得られた古環境データから、トバ大惨事仮説で想定されているような、アフリカ東部における6年の冷却効果はなく、アフリカの現生人類のボトルネックもしくは絶滅の危機は起きなかっただろう、との見解を提示しています。トバ大惨事仮説は一般層にも根強く浸透しているようですが、トバ大噴火の人類への影響は、想定されていたほどには大きくなく、現生人類のボトルネックがあったとしても、トバ大噴火が要因ではなかったのでしょう。
参考文献:
Yost CL. et al.(2018): Subdecadal phytolith and charcoal records from Lake Malawi, East Africa imply minimal effects on human evolution from the ∼74 ka Toba supereruption. Journal of Human Evolution, 116, 75–94.
https://doi.org/10.1016/j.jhevol.2017.11.005
しかし、トバ大惨事仮説への批判は以前より根強く、このブログでも何度か取り上げてきました。南アジア南部では、トバ大噴火前後での人類の継続性が指摘されています(関連記事)。トバ大噴火の起きたスマトラ島でさえ、オランウータンがトバ大噴火後も生き延びていることから、トバ大噴火そのものは大型動物には大きな影響を及ぼさなかった、との見解も提示されています(関連記事)。ミトコンドリアDNA(mtDNA)解析からも、トバ大噴火による現生人類のボトルネックとの仮説には否定的な見解が提示されています(関連記事)。また、スマトラ島の近隣のフローレス島でも、現生人類とは異なるホモ属種(Homo floresiensis)が、トバ大噴火の前後で継続して存続していたと考えられます(関連記事)。
一般層にも定着した感のあるトバ大惨事仮説ですが、このように、批判は少なくないようです。この研究は、アフリカ東部のマラウイ湖(Lake Malawi)の堆積物コアを分析し、アフリカ東部においてトバ大噴火の影響がどの程度だったのか、推定しています。この研究は、マラウイ湖の100万年前までさかのぼる堆積物コアのうち、トバ大噴火の前100年~その後200年の計300年ほどの期間のものを分析しました。堆積物コアは、3mm~4mm(8~9年)単位で分析されました。
堆積物コアのプラントオパールと木炭の分析の結果、低地帯においては、より温暖な気候で成長する草もより寒冷な気候で成長する草も、トバ大噴火の前後で大きな変化は見られませんでした。山地の植物では枯死が相次いだことを示唆する証拠が得られましたが、火山の冬があったことを示すほどではない、と指摘されています。これらの分析結果は、トバ大惨事仮説の想定とは大きく異なりますが、この研究は、トバ大惨事仮説で想定されたほど二酸化硫黄の噴出量は多くなく、スマトラ島と同じく現在はインドネシア領のスンバワ島で紀元後1815年に起きたタンボラ山大噴火と同じ程度の規模だったのではないか、と推定しています。
この研究は、これまでの遺伝学的知見と新たに得られた古環境データから、トバ大惨事仮説で想定されているような、アフリカ東部における6年の冷却効果はなく、アフリカの現生人類のボトルネックもしくは絶滅の危機は起きなかっただろう、との見解を提示しています。トバ大惨事仮説は一般層にも根強く浸透しているようですが、トバ大噴火の人類への影響は、想定されていたほどには大きくなく、現生人類のボトルネックがあったとしても、トバ大噴火が要因ではなかったのでしょう。
参考文献:
Yost CL. et al.(2018): Subdecadal phytolith and charcoal records from Lake Malawi, East Africa imply minimal effects on human evolution from the ∼74 ka Toba supereruption. Journal of Human Evolution, 116, 75–94.
https://doi.org/10.1016/j.jhevol.2017.11.005
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