チンパンジーとゴリラのナックル歩行は収斂進化
これは2月6日分の記事として掲載しておきます。現代人も含めた霊長類の大腿骨を比較した研究(Morimoto et al., 2018)が報道されました。日本語の解説記事もあります。現代人と最も近縁な現存生物は大型類人猿です(現代人も大型類人猿の1種と言えますが)。現生大型類人猿で現代人と近縁なのはチンパンジー属(Pan)で、その次がゴリラ属(Gorilla)、その次はオランウータン属(Pongo)です。つまり、現代人・チンパンジー・ゴリラ・オランウータンの最終共通祖先からまずオランウータン系統が、次に現代人・チンパンジーの共通祖先系統とゴリラの祖先系統が、その次に現代人の祖先系統とチンパンジーの祖先系統が分岐しました。その後、チンパンジーの系統はチンパンジー(Pan troglodytes)とボノボ(Pan paniscus)の系統に分岐しました。
現生チンパンジーと現生ゴリラの移動様式はナックル歩行(手を丸めて手の甲の側を地面に当てつつ移動する歩き方)です。上記の分岐順からは、現代人・チンパンジー・ゴリラの最終共通祖先の移動様式はナックル歩行だった、と考えるのが節約的であるように思えます(ナックル歩行仮説)。しかし、この問題に関しては議論が続いており、近年では、現代人・チンパンジー・ゴリラの最終共通祖先の移動様式はナックル歩行ではなかった、との見解が有力になりつつあるように思います(関連記事)。現代人・チンパンジー・ゴリラの最終共通祖先は「普通のサルのような四足歩行」をしていたのではないか、というわけです。ただ、そうだとすると、チンパンジーとゴリラのナックル歩行は収斂進化となります。収斂進化は進化史においてきょくたんに珍しいわけではないとしても、現生チンパンジーと現生ゴリラの移動様式は一見すると類似しているので、収斂進化だという具体的証拠が提示される必要があります。
この研究は、現代人・チンパンジー・ゴリラ・オランウータン・ニホンザル(Macaca fuscata)を対象に、ナックル歩行仮説が妥当なのか、検証しました。この研究は、運動機能の要となる骨格形態の発生パターン(新生児から成体への骨格の形成過程)に着目し、X線CT(コンピューター断層)データを用いた独自の形態解析手法により、これまでにない精度で詳細に分析しました。ナックル歩行仮説が正しいならば、現生類人猿の大腿骨の発生パターンには、共通祖先から受け継いだ共通点があると予想されます。
しかし、分析・比較結果は、「ナックル歩行仮説」を否定するものでした。歩行様式の観察と、全体的に類似したように見える骨格形態から、チンパンジーとゴリラの大腿骨の発生パターンは似ていると予想されていましたが、じっさいは著しく異なることが明らかになりました。この結果は、直立二足歩行はチンパンジーやゴリラのようなナックル歩行者ではなく、「(たまに立ち上がって二足歩行をする)普通の四足」の類人猿から進化したのであり、チンパンジーとゴリラのナックル歩行は収斂進化だった、という仮説を支持します。
さらに、現代人は、他の霊長類にはない特異的な大腿骨の発生パターンを示すことも明らかになりました。現代人においては効率的な二足歩行のために後肢が長くなっていますが、どのようにして脚を伸ばしたのか、その発生基盤についてはよく分かっていませんでした。現代人は大型類人猿と比較して成長期間が長いのですが、それに対応して、大腿骨の形が成体型へ移行する時期が他の霊長類よりも遅くなっている、と示唆されました。これは、人類の直立二足歩行の起源を明らかにするうえで、たいへん重要な知見と言えそうです。
現代人・チンパンジー・ゴリラの最終共通祖先の移動様式に関する今後の研究の課題として、本論文では大腿骨という骨格形態の一部のみが対象になっている、と指摘されています。また、本論文では化石資料が検証対象になっていないことも、今後の研究課題として挙げられています。化石資料は現存生物と比較してきょくたんに少なくなってしまいますが、人類も含めて大型類人猿の移動様式がどのように進化してきたのか、高い信頼性で推測するためには、少なからぬ化石資料が必要でしょう。この研究は大いに注目されるものであり、化石資料は容易に増えないものではありますが、今後の研究の進展が大いに期待されます。
参考文献:
Morimoto N. et al.(2018): Femoral ontogeny in humans and great apes and its implications for their last common ancestor. Scientific Reports, 8, 1930.
http://dx.doi.org/10.1038/s41598-018-20410-4
現生チンパンジーと現生ゴリラの移動様式はナックル歩行(手を丸めて手の甲の側を地面に当てつつ移動する歩き方)です。上記の分岐順からは、現代人・チンパンジー・ゴリラの最終共通祖先の移動様式はナックル歩行だった、と考えるのが節約的であるように思えます(ナックル歩行仮説)。しかし、この問題に関しては議論が続いており、近年では、現代人・チンパンジー・ゴリラの最終共通祖先の移動様式はナックル歩行ではなかった、との見解が有力になりつつあるように思います(関連記事)。現代人・チンパンジー・ゴリラの最終共通祖先は「普通のサルのような四足歩行」をしていたのではないか、というわけです。ただ、そうだとすると、チンパンジーとゴリラのナックル歩行は収斂進化となります。収斂進化は進化史においてきょくたんに珍しいわけではないとしても、現生チンパンジーと現生ゴリラの移動様式は一見すると類似しているので、収斂進化だという具体的証拠が提示される必要があります。
この研究は、現代人・チンパンジー・ゴリラ・オランウータン・ニホンザル(Macaca fuscata)を対象に、ナックル歩行仮説が妥当なのか、検証しました。この研究は、運動機能の要となる骨格形態の発生パターン(新生児から成体への骨格の形成過程)に着目し、X線CT(コンピューター断層)データを用いた独自の形態解析手法により、これまでにない精度で詳細に分析しました。ナックル歩行仮説が正しいならば、現生類人猿の大腿骨の発生パターンには、共通祖先から受け継いだ共通点があると予想されます。
しかし、分析・比較結果は、「ナックル歩行仮説」を否定するものでした。歩行様式の観察と、全体的に類似したように見える骨格形態から、チンパンジーとゴリラの大腿骨の発生パターンは似ていると予想されていましたが、じっさいは著しく異なることが明らかになりました。この結果は、直立二足歩行はチンパンジーやゴリラのようなナックル歩行者ではなく、「(たまに立ち上がって二足歩行をする)普通の四足」の類人猿から進化したのであり、チンパンジーとゴリラのナックル歩行は収斂進化だった、という仮説を支持します。
さらに、現代人は、他の霊長類にはない特異的な大腿骨の発生パターンを示すことも明らかになりました。現代人においては効率的な二足歩行のために後肢が長くなっていますが、どのようにして脚を伸ばしたのか、その発生基盤についてはよく分かっていませんでした。現代人は大型類人猿と比較して成長期間が長いのですが、それに対応して、大腿骨の形が成体型へ移行する時期が他の霊長類よりも遅くなっている、と示唆されました。これは、人類の直立二足歩行の起源を明らかにするうえで、たいへん重要な知見と言えそうです。
現代人・チンパンジー・ゴリラの最終共通祖先の移動様式に関する今後の研究の課題として、本論文では大腿骨という骨格形態の一部のみが対象になっている、と指摘されています。また、本論文では化石資料が検証対象になっていないことも、今後の研究課題として挙げられています。化石資料は現存生物と比較してきょくたんに少なくなってしまいますが、人類も含めて大型類人猿の移動様式がどのように進化してきたのか、高い信頼性で推測するためには、少なからぬ化石資料が必要でしょう。この研究は大いに注目されるものであり、化石資料は容易に増えないものではありますが、今後の研究の進展が大いに期待されます。
参考文献:
Morimoto N. et al.(2018): Femoral ontogeny in humans and great apes and its implications for their last common ancestor. Scientific Reports, 8, 1930.
http://dx.doi.org/10.1038/s41598-018-20410-4
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