完新世の気候の変化傾向

 完新世の気候の変化傾向に関する研究(Marsicek et al., 2018)が公表されました。過去11700年間の完新世における気候の変化傾向については、まだ議論が続いています。過去2000年の大半の期間における寒冷化は広く認識されており、これは完新世における全球気温の支配的な変化傾向であると推測されています。しかし、長期的な寒冷化と全球の強制力を一致させることは難しく、気候モデルでは、一貫して長期的な温暖化がシミュレートされています。たとえば、日射の既知の変化を強制力として与えた気候モデルは、温暖化をシミュレートする傾向があります。しかし、海洋記録などの代理指標を用いた再構築結果は、産業革命後の急速な温暖化の前に、後期完新世にわたって寒冷化したことを示すことが多くなっています。シミュレーション結果と再構築結果の相違は、おもに北半球中緯度域に現れており、複数の手法を用いて、海洋と沿岸域の記録から著しい寒冷化が推測されています。

 この研究は、北アメリカ大陸とヨーロッパの642地点に由来する花粉の準化石から再構築された気温がシミュレーション結果とよく一致し、寒冷化ではなく、長期的な温暖化が約2000年前までの完新世の特徴であることを示しています。また再構築結果は、長期的な寒冷化の証拠が北大西洋域の記録に限定されていたことを示しています。この研究の結果は、単一の古気候データ源(花粉)と単一の気候モデルシミュレーションに依存していますが、気候モデルが、現代以外の期間の気候も適切にシミュレートできるという考えを補強するものです。この研究の結果はさらに、最近数十年間の増幅された温暖化によって上昇した気温は、過去11000年間のどの世紀の平均値よりも高いことも実証しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


古気候学:完新世の気温の1000年スケールの変動の変化傾向の相違を調整する

古気候学:過去の気候を示す保存された花粉

 数十年に及ぶ研究にもかかわらず、完新世(過去1万1700年間)における気候の変化傾向についてはまだ議論が積み重ねられている。例えば、日射の既知の変化を強制力として与えた気候モデルは温暖化をシミュレートする傾向があるのに、海洋記録などの代理指標を用いた再構築結果は、産業革命後の急速な温暖化の前に、後期完新世にわたって寒冷化したことを示すことが多い。今回J Marsicekたちは、北米とヨーロッパで得られた広範な花粉記録を再解析して、完新世は温暖化傾向にあることを示している。これは、気候モデルのシミュレーション結果と一致する。寒冷化の証拠は、全球ではなく、北大西洋域に限定されているようである。



参考文献:
Marsicek J. et al.(2018): Reconciling divergent trends and millennial variations in Holocene temperatures. Nature, 554, 7690, 92–96.
http://dx.doi.org/10.1038/nature25464

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