野生の馬はもう存在していなかった

 これは2月26日分の記事として掲載しておきます。馬の古代ゲノムを解析・比較した研究(Gaunitz et al., 2018)が報道されました。AFPでも報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。馬の家畜化については議論が続いていますが、5700~5100年前頃となる、カザフスタン北部のボタイ(Botai)文化が、馬の家畜化の確実な証拠としては最古になる、との見解が提示されています(関連記事)。ボタイ遺跡の動物の骨の95%以上は馬で、馬の利用に特化した生活様式だったようです。この研究は、ボタイ遺跡と同じくカザフスタン北部のクラスヌイヤール(Krasnyi Yar)遺跡で馬の家畜化の最初期の証拠を検証し、それらの遺跡からのものも含めてなどユーラシアの古代馬42頭のゲノムを解析して、既知の古代馬18頭および現生馬28頭と比較しました。

 その結果、モウコノウマはボタイ文化の初期家畜馬の野生化した子孫であり、「真の」野生馬ではない、と明らかになりました。これまで、現存の野生馬はモウコノウマ(Equus ferus przewalskii)だけだと考えられていました。モウコノウマは1969年までに絶滅したと一度は宣言されましたが、1900年頃に捕獲されていた15頭の子孫の計画的繁殖により現在では約2000頭まで回復し、ユーラシアの草原地帯に再導入されました。モウコノウマが「真の」野生馬ではなかった、とのゲノム解析結果は意外です。

 さらに意外だったのは、ボタイ文化の初期家畜馬は現生家畜馬に2.7%程度しか遺伝的影響を及ぼしていない、ということです。現生家畜馬は単一の系統群を形成しておらず、わずかに異なる種もしくは分離された亜種から、2回の異なる家畜化があったのではないか、と推測されています。初期家畜馬の普及は、早期青銅器時代における人類集団の拡散に伴っていたのではないか、と考えられています。馬の家畜化は人類史に大きな影響を及ぼしたので、注目されます。馬の家畜化の過程について、今後の研究の進展が期待されます。


参考文献:
Gaunitz C. et al.(2018): Ancient genomes revisit the ancestry of domestic and Przewalski’s horses. Science, 360, 6384, 111-114.
http://dx.doi.org/10.1126/science.aao3297

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