異なる石器伝統と共存していたスペイン北西部の中期更新世のアシューリアン
これは2月20日分の記事として掲載しておきます。スペイン北西部の中期更新世のアシューリアン(Acheulean)石器群に関する研究(Méndez-Quintas et al., 2018)が報道されました。ヨーロッパにおけるアシューリアンの起源に関しては、スペイン南東部の90万年前頃の事例(関連記事)など、前期更新世までさかのぼる、との見解も提示されています。しかし本論文は、中期更新世となる海洋酸素同位体ステージ(MIS)12以前のヨーロッパにおけるアシューリアンと主張されている事例に関しては、年代もしくは石器群の同定に疑問がある、と指摘しています。
本論文が分析対象にした石器群は、スペイン北西部のガリシア州のポルトマイオール(Porto Maior)遺跡で発見されました。ポルトマイオール遺跡のすぐ近くを流れるミーニョ川(Miño River)の対岸はポルトガル領となります。本論文は、ここで発見された合計3698点の石器を分析しました。アシューリアン石器の密集がポルトマイオール遺跡の特徴ですが、10cm 以上の長さとなる両面もしくは片面を調整した大型の石器(large cutting tools、略してLCT)の高密度の集積は、これまでアフリカと西アジアでしか確認されておらず、ヨーロッパではポルトマイオール遺跡の石器群が確認された初めての例だ、と指摘されています。
ヨーロッパのアシューリアンについてはアフリカ起源説が有力ですが、アフリカとは直接的には関係なく、ヨーロッパで技術が再開発された、との見解も提示されています。本論文は、アフリカのアシューリアンとの類似性から、ポルトマイオール遺跡のアシューリアンはアフリカ起源だろう、と推測しています。ポルトマイオール遺跡では、LCTの他に、剥片や石核などが確認されています。石器の材料の91.8%は珪岩です。石器の使用痕分析から、材木や骨や動物死骸に用いられたのではないか、と推測されています。
ポルトマイオール遺跡のアシューリアン石器群の年代は、電子スピン共鳴法(ESR)や光刺激ルミネッセンス法(OSL)などから、293000~205000年前頃と推定されています。この年代の南西ヨーロッパには、ポルトマイオール遺跡のアシューリアンとは技術的に異なる初期中部旧石器も確認されます。本論文は、ポルトマイオール遺跡のアシューリアンが「侵入者」たる集団によりもたらされた可能性を提示し、技術的に異なる石器群の共存から、中期更新世の南西ヨーロッパでは異なる複数のホモ属集団が共存していたのではないか、と示唆しています。
本論文のこうした見解は、ホモ属遺骸の分析から、中期更新世のヨーロッパ南西部では複数のホモ属系統が共存していた、と想定する見解と整合的です。たとえば、スペイン北部で発見されたネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)的特徴を有する43万年前頃の人骨群(関連記事)、40万年前頃のポルトガルの人類頭蓋(関連記事)、ネアンデルタール人的特徴と祖先的特徴を有する中期更新世のフランスの下顎(関連記事)といったホモ属遺骸の分析・比較から、中期更新世ヨーロッパにおけるホモ属の多様性が指摘されています。後期更新世になると、ヨーロッパではネアンデルタール人以外のホモ属が確認されていませんが、それ以前は、ネアンデルタール人の(複数の)祖先集団だけではなく、ネアンデルタール人とは近縁関係にはなく、後期更新世に子孫の存在していない(もしくは、ヨーロッパのネアンデルタール人にはほとんど遺伝的影響を与えていない)系統のホモ属も存在した可能性が高そうです。
参考文献:
Méndez-Quintas E. et al.(2018): First evidence of an extensive Acheulean large cutting tool accumulation in Europe from Porto Maior (Galicia, Spain). Scientific Reports, 8, 3082.
http://dx.doi.org/10.1038/s41598-018-21320-1
本論文が分析対象にした石器群は、スペイン北西部のガリシア州のポルトマイオール(Porto Maior)遺跡で発見されました。ポルトマイオール遺跡のすぐ近くを流れるミーニョ川(Miño River)の対岸はポルトガル領となります。本論文は、ここで発見された合計3698点の石器を分析しました。アシューリアン石器の密集がポルトマイオール遺跡の特徴ですが、10cm 以上の長さとなる両面もしくは片面を調整した大型の石器(large cutting tools、略してLCT)の高密度の集積は、これまでアフリカと西アジアでしか確認されておらず、ヨーロッパではポルトマイオール遺跡の石器群が確認された初めての例だ、と指摘されています。
ヨーロッパのアシューリアンについてはアフリカ起源説が有力ですが、アフリカとは直接的には関係なく、ヨーロッパで技術が再開発された、との見解も提示されています。本論文は、アフリカのアシューリアンとの類似性から、ポルトマイオール遺跡のアシューリアンはアフリカ起源だろう、と推測しています。ポルトマイオール遺跡では、LCTの他に、剥片や石核などが確認されています。石器の材料の91.8%は珪岩です。石器の使用痕分析から、材木や骨や動物死骸に用いられたのではないか、と推測されています。
ポルトマイオール遺跡のアシューリアン石器群の年代は、電子スピン共鳴法(ESR)や光刺激ルミネッセンス法(OSL)などから、293000~205000年前頃と推定されています。この年代の南西ヨーロッパには、ポルトマイオール遺跡のアシューリアンとは技術的に異なる初期中部旧石器も確認されます。本論文は、ポルトマイオール遺跡のアシューリアンが「侵入者」たる集団によりもたらされた可能性を提示し、技術的に異なる石器群の共存から、中期更新世の南西ヨーロッパでは異なる複数のホモ属集団が共存していたのではないか、と示唆しています。
本論文のこうした見解は、ホモ属遺骸の分析から、中期更新世のヨーロッパ南西部では複数のホモ属系統が共存していた、と想定する見解と整合的です。たとえば、スペイン北部で発見されたネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)的特徴を有する43万年前頃の人骨群(関連記事)、40万年前頃のポルトガルの人類頭蓋(関連記事)、ネアンデルタール人的特徴と祖先的特徴を有する中期更新世のフランスの下顎(関連記事)といったホモ属遺骸の分析・比較から、中期更新世ヨーロッパにおけるホモ属の多様性が指摘されています。後期更新世になると、ヨーロッパではネアンデルタール人以外のホモ属が確認されていませんが、それ以前は、ネアンデルタール人の(複数の)祖先集団だけではなく、ネアンデルタール人とは近縁関係にはなく、後期更新世に子孫の存在していない(もしくは、ヨーロッパのネアンデルタール人にはほとんど遺伝的影響を与えていない)系統のホモ属も存在した可能性が高そうです。
参考文献:
Méndez-Quintas E. et al.(2018): First evidence of an extensive Acheulean large cutting tool accumulation in Europe from Porto Maior (Galicia, Spain). Scientific Reports, 8, 3082.
http://dx.doi.org/10.1038/s41598-018-21320-1
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