左右相称動物の神経系の収斂進化

 これは1月6日分の記事として掲載しておきます。左右相称動物の神経系の収斂進化に関する研究(Martín-Durán et al., 2018)が公表されました。左右相称動物(左右相称で明確な前端と後端がある動物群)は、正中線に集中した腹側神経索を持つ単一の共通祖先から進化した、との見解が有力です。その根拠は、ショウジョウバエや環形動物やヒトといった多種多様な動物で、体軸に沿った分子発現パターンが共通して見られることです。しかし、こうした類似性が左右相称動物の多様な神経構造で一般的に見られるのか、明らかではなく、そのため神経系の進化史に関しては議論が続いています。

 この研究は、渦虫(左右相称動物の基部に位置する)やさまざまな冠輪動物(環形動物、腕足動物、輪形動物など)を含む幅広い種類の動物について、神経外胚葉の中外側のパターン形成を調べました。その結果、調べたいずれの種の神経索においても、共通した分子発現の背腹領域化は見られず、それは胴部の神経構造が脊椎動物やハエと似ている環形動物のチマキゴカイ(Owenia fusiformis)でも同様でした。つまり、中枢神経系の最終的な解剖学的構造はパターン形成系とは無関係というわけです。この研究は、類似した中枢神経系の構造が左右相称動物の中で何度も独立に生じた、収斂進化の例だと示唆しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


進化発生生物学:左右相称動物の神経索の収斂進化

進化発生生物学:神経系の収斂進化

 左右相称動物(左右相称で明確な前端と後端がある動物群)は、正中線に集中した腹側神経索を持つ単一の共通祖先から進化したと考えられることが多い。ショウジョウバエや環形動物、ヒトといった多種多様な動物で体軸に沿った分子発現パターンが共通して見られることが、このシナリオを裏付けている。今回A Hejnolたちは、珍渦虫(左右相称動物の基部に位置する)やさまざまな冠輪動物(環形動物、腕足動物、輪形動物など)を含む幅広い種類の動物について、神経外胚葉の中外側のパターン形成を調べた。その結果、中枢神経系の最終的な解剖学的構造はパターン形成系とは無関係なことが分かった。著者たちは、類似した中枢神経系の構造が左右相称動物の中で何度も独立に生じた、つまりこれが収斂進化の例であると結論付けている。



参考文献:
Martín-Durán JM. et al.(2018): Convergent evolution of bilaterian nerve cords. Nature, 553, 7686, 45–50.
http://dx.doi.org/10.1038/nature25030

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