更新世末期のアラスカの幼児のゲノム解析

 これは1月5日分の記事として掲載しておきます。更新世末期のアラスカの幼児のゲノム解析に関する研究(Moreno-Mayar et al., 2018)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。アメリカ大陸への人類最初の移住はベーリンジア(ベーリング陸橋)経由だった、と現在では広く認められています。しかし、その時期と具体的な過程については、議論が続いています。この研究は、アラスカのアップウォードサン川(Upward Sun River)で発見された、放射性炭素年代測定法により較正年代で11600~11270年前と推定されている2人の幼児(関連記事)のうち、USR1のゲノムを解析しました(平均網羅率は17倍)。すでに、USR1とUSR2のミトコンドリアDNA(mtDNA)は解析されています(関連記事)。

 USR1のゲノム解析および他個体との比較の結果、USR1はアメリカ大陸先住民と最も密接に関連しているものの、現代および古代のアメリカ大陸先住民とは異なる、これまでには知られていない遺伝学的集団に属する、と明らかになりました。この新たな集団は「古代ベーリンジア人」と呼ばれています。現代および古代のアメリカ大陸先住民の最終共通祖先集団と分岐した集団にUSR1は属す、というわけです。アメリカ大陸への人類の拡散に関するこの研究の推測は以下の通りです。

 現代および古代のアメリカ大陸先住民と古代ベーリンジア人の共通祖先は単一の創始者集団であり、東アジアの人類集団と36000±15000年前頃に分岐したものの、25000±1100年前頃まで両者の間には遺伝子流動がありました。22000~18100年前頃に(既知の)古代および現代アメリカ大陸先住民の祖先集団と古代ベーリンジア人が分岐し、25000~20000年前頃に北ユーラシアからアメリカ大陸先住民の祖先集団への遺伝子流動がありました。アメリカ大陸先住民集団における最初の分岐は17500~14600年前頃で、おそらくは北アメリカ大陸の氷床の南でのことでした。11500年前以降、北アメリカ大陸先住民集団の一部は、古代エスキモー(Palaeo-Eskimo)やイヌイット(Inuits)またはケット人(Kets)よりもコリャーク人(Koryaks)と密接なシベリアの集団から遺伝的影響を受けました。古代ベーリンジア人は、DNAと考古学のデータから、6000年前頃に北方への移動を開始した、現代ではアラスカにいるアサバスカ人(Athabascan)の祖先集団に吸収されるか、置換されました。

 この研究は、アメリカ大陸への人類最初の移住について、このような見解を提示しています。この研究の見解は、人類はアメリカ大陸に進出する前に、最終最大氷期を含む寒冷期に、ベーリンジアに孤立した状態で1万年程度留まっていた、とするベーリンジア潜伏モデルと整合的です。ベーリンジア潜伏モデルは今では有力な仮説と言えるでしょう。ただ、アサバスカ人による古代ベーリンジア人の吸収もしくは置換については、現代のアラスカのアサバスカ人についての遺伝的情報はひじょうに限定的だ、と注意が喚起されています。


参考文献:
Moreno-Mayar JV. et al.(2018): Terminal Pleistocene Alaskan genome reveals first founding population of Native Americans. Nature, 553, 7687, 203–207.
http://dx.doi.org/10.1038/nature25173

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