森恒二『創世のタイガ』第2巻(講談社)
これは1月28日分の記事として掲載しておきます。本書は2018年1月に刊行されました。第1巻がたいへん面白かったので、第2巻も楽しみにしていました。第2巻後半では、主人公のタイガとネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)との格闘が描かれました。その分、タイガの仲間たちの出番は減り、青春群像劇的な性格は第1巻よりも弱くなっていたのですが、タイガとネアンデルタール人との格闘およびタイガのサバイバルドラマとしての性格が強くなっており、マンモスなどの大型動物はとくにそうですが、描写に迫力があって楽しめました。
本作は、タイムスリップものとはいっても、舞台が現代から更新世(5万年以上前?)に移っているので、異世界ものとも言えるでしょう。5年前や10年くらい前の同じ地域なら、タイムスリップものとはいっても、言語・価値観などで戸惑う可能性は低いでしょうが、更新世の中東かヨーロッパ?が舞台だけに、現代日本人である主人公一行の戸惑いは半端ではありません。そうしたなか、人類学ゼミの学生として得てきた知見を活かして、主人公たちはこの時代に馴染んでいき、とくに主人公のタイガは他の仲間が驚くほど更新世の環境に適応していきます(タイガにはその自覚はないのですが)。一方で、この時代に馴染めない仲間もおり、そうした苦悩も描かれるところは、特殊な舞台とはいっても、普遍的な青春群像劇的性格が見られます。
ネアンデルタール人と遭遇した主人公一行は、ネアンデルタール人と自分たち現生人類(Homo sapiens)とが敵対関係にあり、殺し合いをしている状況に自分たちはいるのだ、と認識します。そこで、槍などの道具を作って積極的に大型動物を狩って食料にするとともに、リクガメの甲羅を用いた盾や弓も作り、ネアンデルタール人との戦いに備えます。現時点での証拠からは、ネアンデルタール人は弓を使用していなかった可能性が高そうなので、弓を使用すればネアンデルタール人にたいして優位に立ちやすくなりそうです。
主人公一行の懸念は的中し、タイガが一人で狩猟に出かけている間に、根拠地としている岩陰を6人ほどのネアンデルタール人集団(全員男性のようです)が襲撃してきます。タイガ以外の6人は岩陰に立て籠り、盾・槍・弓を用いてネアンデルタール人集団に抵抗しますが、体力の差もあり、劣勢は否めません。タイガは、ネアンデルタール人集団の声を聞いて慌てて岩陰に戻ってきますが、恐怖のあまり足がすくんで立ち尽くしてしまいます。
ところが、タイガは自分でも理解できないまま飛び出して仲間を救おうと声を出し、襲撃してきたネアンデルタール人集団のうち5人はタイガを追ってきます。タイガは、ケサイを利用したり、決死の覚悟でネアンデルタール人を道連れに崖や崖下の川に飛び込んだりして、何とかネアンデルタール人を振り切ります。しかし、必死になって逃げたため、タイガは自分が根拠地からどれくらい離れているのか、分からくなりました。そこでタイガは、樹洞を見つけてそこを拠点に仲間たちを探すことにします。
しかし、3日経っても根拠地を見つけられず、さすがにタイガは焦り始め、拠点としていた樹洞から立ち去って探索を始めます。すると、ネアンデルタール人の声と女性の声が聞こえてきます。仲間が襲撃されていると思ったタイガは急行しますが、ネアンデルタール人の男性2人に襲われていた女性はこの時代の現生人類で、第1巻にてネアンデルタール人に仲間を殺されて悲嘆に暮れていた女性でした。ネアンデルタール人への怒りからタイガはネアンデルタール人を襲撃し、結果的に現生人類の女性を助けます。
この時、タイガは石でネアンデルタール人男性の一方を石で殴り、ネアンデルタール人男性が戦意を喪失して命乞いをしているような様子を見せたため、タイガは立ち去るよう仕草で促して見逃そうとしたのですが、現生人類の女性はそのネアンデルタール人男性に槍を投げて殺します。この場面には、現代人たるタイガとこの時代の人間として育った女性との覚悟の違いを示す、という意図があるのでしょう。女性がネアンデルタール人に突き刺さった槍を引き抜き、タイガに突きつけるところで第2巻は終了です。
第2巻は、主人公一行、とくにタイガがまだネアンデルタール人の生存していた更新世の環境に馴染んでいき、ネアンデルタール人との戦いを経て、本作の重要人物と思われる現生人類の女性と出会うところまで描かれました。この女性は、第1巻での描写から、「ティアリ」という名前だと思われます。まあ、この女性の集団に個人名という概念がどれだけあったのか、そうだとして、一生変わらないものなのか、それとも前近代日本社会のように節目で変わっていくものなのか、まださっぱり分かりませんが、とりあえずは「ティアリ」という(現代日本社会と近い意味での個人的な)名前だとしておきます。
第2巻は、恋愛模様(と言ってよいのか、タイガとユカもはっきりと自覚していないようですが)も含めた青春群像劇と、サバイバルドラマという普遍的性格も強く見られ、こちらの方も面白いのですが、謎解き要素のある創作の好きな私としては、やはり本作の舞台がどこでいつの年代のことなのか、現生人類とネアンデルタール人との関係がひじょうに敵対的なのはなぜなのか、といった問題が気になり、今後の展開がたいへん楽しみです。
本作では、現生人類はもちろんのこと、ネアンデルタール人も言葉を用いていますが、現時点ではその訳語が示されていないので、何と言っているのか、明らかではありません。さすがに、単語・文法が詳細に設定されているわけではないでしょうが、ネアンデルタール人がよく言っている「ガァドロ」や「ガァデロ」は、何らかの意味が設定されているのではないか、と思います。この二つの単語は発音がよく似ているので、似たような意味なのでしょうか。ネアンデルタール人の方にも、人間らしい油断や命乞い的な描写があることから、ネアンデルタール人と現生人類はある程度以上意思疎通が可能という設定なのかもしれません。そうだとすると、ネアンデルタール人と現生人類との交雑があったとする現在の有力説からも、あるいは今後ネアンデルタール人との友好的な関係も描かれるのではないか、と楽しみです。
ただ、現時点では、ネアンデルタール人と現生人類とは敵対的関係にあり、ネアンデルタール人の方は、単に遭遇したからというわけではなく、積極的に現生人類を探して殺そうとしているように思われます。これは、単にネアンデルタール人が暮らしてきた地域に現生人類が侵入してきたからなのかもしれませんが、あるいはそれ以外にも理由が設定されているかもしれず、今後の展開が楽しみです。一つ気になるのは、この時代の現生人類は男女ともすでに登場しているのに、ネアンデルタール人の方は男性しか描かれていないことです。今のところ、ネアンデルタール人はおもに現生人類を襲撃する場面が描かれているので、それは男性の役割だとする性別分担がネアンデルタール人社会にはある、という設定なのでしょうか。タイガと重要人物と思われるティアリとの関係がどう描かれるのか、ということも含めて第3巻もたいへん楽しみです。
本作は、タイムスリップものとはいっても、舞台が現代から更新世(5万年以上前?)に移っているので、異世界ものとも言えるでしょう。5年前や10年くらい前の同じ地域なら、タイムスリップものとはいっても、言語・価値観などで戸惑う可能性は低いでしょうが、更新世の中東かヨーロッパ?が舞台だけに、現代日本人である主人公一行の戸惑いは半端ではありません。そうしたなか、人類学ゼミの学生として得てきた知見を活かして、主人公たちはこの時代に馴染んでいき、とくに主人公のタイガは他の仲間が驚くほど更新世の環境に適応していきます(タイガにはその自覚はないのですが)。一方で、この時代に馴染めない仲間もおり、そうした苦悩も描かれるところは、特殊な舞台とはいっても、普遍的な青春群像劇的性格が見られます。
ネアンデルタール人と遭遇した主人公一行は、ネアンデルタール人と自分たち現生人類(Homo sapiens)とが敵対関係にあり、殺し合いをしている状況に自分たちはいるのだ、と認識します。そこで、槍などの道具を作って積極的に大型動物を狩って食料にするとともに、リクガメの甲羅を用いた盾や弓も作り、ネアンデルタール人との戦いに備えます。現時点での証拠からは、ネアンデルタール人は弓を使用していなかった可能性が高そうなので、弓を使用すればネアンデルタール人にたいして優位に立ちやすくなりそうです。
主人公一行の懸念は的中し、タイガが一人で狩猟に出かけている間に、根拠地としている岩陰を6人ほどのネアンデルタール人集団(全員男性のようです)が襲撃してきます。タイガ以外の6人は岩陰に立て籠り、盾・槍・弓を用いてネアンデルタール人集団に抵抗しますが、体力の差もあり、劣勢は否めません。タイガは、ネアンデルタール人集団の声を聞いて慌てて岩陰に戻ってきますが、恐怖のあまり足がすくんで立ち尽くしてしまいます。
ところが、タイガは自分でも理解できないまま飛び出して仲間を救おうと声を出し、襲撃してきたネアンデルタール人集団のうち5人はタイガを追ってきます。タイガは、ケサイを利用したり、決死の覚悟でネアンデルタール人を道連れに崖や崖下の川に飛び込んだりして、何とかネアンデルタール人を振り切ります。しかし、必死になって逃げたため、タイガは自分が根拠地からどれくらい離れているのか、分からくなりました。そこでタイガは、樹洞を見つけてそこを拠点に仲間たちを探すことにします。
しかし、3日経っても根拠地を見つけられず、さすがにタイガは焦り始め、拠点としていた樹洞から立ち去って探索を始めます。すると、ネアンデルタール人の声と女性の声が聞こえてきます。仲間が襲撃されていると思ったタイガは急行しますが、ネアンデルタール人の男性2人に襲われていた女性はこの時代の現生人類で、第1巻にてネアンデルタール人に仲間を殺されて悲嘆に暮れていた女性でした。ネアンデルタール人への怒りからタイガはネアンデルタール人を襲撃し、結果的に現生人類の女性を助けます。
この時、タイガは石でネアンデルタール人男性の一方を石で殴り、ネアンデルタール人男性が戦意を喪失して命乞いをしているような様子を見せたため、タイガは立ち去るよう仕草で促して見逃そうとしたのですが、現生人類の女性はそのネアンデルタール人男性に槍を投げて殺します。この場面には、現代人たるタイガとこの時代の人間として育った女性との覚悟の違いを示す、という意図があるのでしょう。女性がネアンデルタール人に突き刺さった槍を引き抜き、タイガに突きつけるところで第2巻は終了です。
第2巻は、主人公一行、とくにタイガがまだネアンデルタール人の生存していた更新世の環境に馴染んでいき、ネアンデルタール人との戦いを経て、本作の重要人物と思われる現生人類の女性と出会うところまで描かれました。この女性は、第1巻での描写から、「ティアリ」という名前だと思われます。まあ、この女性の集団に個人名という概念がどれだけあったのか、そうだとして、一生変わらないものなのか、それとも前近代日本社会のように節目で変わっていくものなのか、まださっぱり分かりませんが、とりあえずは「ティアリ」という(現代日本社会と近い意味での個人的な)名前だとしておきます。
第2巻は、恋愛模様(と言ってよいのか、タイガとユカもはっきりと自覚していないようですが)も含めた青春群像劇と、サバイバルドラマという普遍的性格も強く見られ、こちらの方も面白いのですが、謎解き要素のある創作の好きな私としては、やはり本作の舞台がどこでいつの年代のことなのか、現生人類とネアンデルタール人との関係がひじょうに敵対的なのはなぜなのか、といった問題が気になり、今後の展開がたいへん楽しみです。
本作では、現生人類はもちろんのこと、ネアンデルタール人も言葉を用いていますが、現時点ではその訳語が示されていないので、何と言っているのか、明らかではありません。さすがに、単語・文法が詳細に設定されているわけではないでしょうが、ネアンデルタール人がよく言っている「ガァドロ」や「ガァデロ」は、何らかの意味が設定されているのではないか、と思います。この二つの単語は発音がよく似ているので、似たような意味なのでしょうか。ネアンデルタール人の方にも、人間らしい油断や命乞い的な描写があることから、ネアンデルタール人と現生人類はある程度以上意思疎通が可能という設定なのかもしれません。そうだとすると、ネアンデルタール人と現生人類との交雑があったとする現在の有力説からも、あるいは今後ネアンデルタール人との友好的な関係も描かれるのではないか、と楽しみです。
ただ、現時点では、ネアンデルタール人と現生人類とは敵対的関係にあり、ネアンデルタール人の方は、単に遭遇したからというわけではなく、積極的に現生人類を探して殺そうとしているように思われます。これは、単にネアンデルタール人が暮らしてきた地域に現生人類が侵入してきたからなのかもしれませんが、あるいはそれ以外にも理由が設定されているかもしれず、今後の展開が楽しみです。一つ気になるのは、この時代の現生人類は男女ともすでに登場しているのに、ネアンデルタール人の方は男性しか描かれていないことです。今のところ、ネアンデルタール人はおもに現生人類を襲撃する場面が描かれているので、それは男性の役割だとする性別分担がネアンデルタール人社会にはある、という設定なのでしょうか。タイガと重要人物と思われるティアリとの関係がどう描かれるのか、ということも含めて第3巻もたいへん楽しみです。
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