ネアンデルタール人的特徴と祖先的特徴を有する中期更新世のフランスの下顎
これは1月19日分の記事として掲載しておきます。フランスのオート=ガロンヌ県(Haute Garonne)のモンモラン(Montmaurin)のラニッチェ(La Niche)洞窟(以下、MLNと省略)で1949年に発見された、中期更新世のホモ属下顎についての研究(Vialet et al., 2018)が報道されました。当初、MLNの年代は「ミンデル-リス(Mindel-Riss)」間氷期と推定されました。「ミンデル-リス」間氷期は、海洋酸素同位体ステージ(MIS)11~9(42万~30万年前頃)に相当します。
その後、地質学および動物相の証拠に基づき、MLN下顎の年代はMIS7(24万~19万年前頃)と推定されました。しかし、この研究は、MLN下顎のより精確な年代を特定できるだけの確実な証拠はまだないので、今後の研究を俟つ、と慎重な姿勢を示しています。この研究は、MLN遺跡で発見された石器にルヴァロワ技法(Levallois technique)が欠如していることなどから、MLN下顎の年代はMIS9~6(30万~13万年前頃)の範囲に収まると思われ、この期間は下部旧石器時代~中部旧石器時代への移行期に相当する、と指摘しています。
この研究は、MLN下顎の形態を再検証しています。現在は、1970年代の分析の時よりも、更新世の人類化石記録が大きく増えており、人類進化に関する理解が進展しているので、その中での再検証には大きな意味がある、と言えるでしょう。この研究で比較対象になったのは、前期更新世~後期更新世のホモ属および現代人です。比較対象となった更新世のホモ属は、ヨーロッパのネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)のみならず、アフリカ・東アジア・東南アジアのホモ属と広範にわたっており、ハビリス(Homo habilis)やエレクトス(Homo erectus)やハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)や現生人類(Homo sapiens)など多様です。
解析・比較の結果、MLN下顎の形態はネアンデルタール人の下顎と派生的特徴を2もしくは3個しか共有していない、と明らかになりました。一方で、MLN下顎の形態は、アフリカやユーラシアの前期および中期更新世のホモ属のそれとより密接に関連していました。MLN下顎にはホモ属系統の進化史における祖先的特徴が見られる、というわけです。
一方で、MLN下顎の臼歯の形態に関しては、スペイン北部の通称「骨の穴(Sima de los Huesos)洞窟」遺跡(以下、SHと省略)の人類群およびネアンデルタール人の変異内に収まります。SH人骨群は形態的にはネアンデルタール人と派生的特徴を有しており(ネアンデルタール人の派生的特徴すべてを有するわけではありませんが)、43万年前頃という年代から、ネアンデルタール人の祖先集団(の一つ)もしくはその近縁集団と考えられます(関連記事)。核DNAの解析からも、SH集団とネアンデルタール人との近縁性が明らかになっています(関連記事)。
おそらくは24万~19万年前頃のMLN下顎のこうした特徴は、中期更新世のヨーロッパにおけるホモ属の複雑な進化を示している、とこの研究は指摘しています。おそらくネアンデルタール人の進化は単線的ではなくモザイク状であり、中期更新世のヨーロッパにおいて複数系統の人類集団が共存し、遺伝的浮動や創始者効果や交雑などにより複雑な進化が生じたのではないか、というわけです。40万年前頃のポルトガルの人類頭蓋からは、中期更新世のヨーロッパにおいて、人類集団間または集団内の多様性と複雑な人口動態が見られ、さまざまな水準の孤立と交雑を伴う多様な集団置換が想定される、との指摘もあり(関連記事)、この研究はそうした見解と整合的と言えるでしょう。おそらくMLN下顎は、ネアンデルタール人と交雑した非ネアンデルタール人系統に属すのだと思います。
参考文献:
Vialet A, Modesto-Mata M, Martinón-Torres M, Martínez de Pinillos M, Bermúdez de Castro J-M (2018) A reassessment of the Montmaurin-La Niche mandible (Haute Garonne, France) in the context of European Pleistocene human evolution. PLoS ONE 13(1): e0189714.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0189714
その後、地質学および動物相の証拠に基づき、MLN下顎の年代はMIS7(24万~19万年前頃)と推定されました。しかし、この研究は、MLN下顎のより精確な年代を特定できるだけの確実な証拠はまだないので、今後の研究を俟つ、と慎重な姿勢を示しています。この研究は、MLN遺跡で発見された石器にルヴァロワ技法(Levallois technique)が欠如していることなどから、MLN下顎の年代はMIS9~6(30万~13万年前頃)の範囲に収まると思われ、この期間は下部旧石器時代~中部旧石器時代への移行期に相当する、と指摘しています。
この研究は、MLN下顎の形態を再検証しています。現在は、1970年代の分析の時よりも、更新世の人類化石記録が大きく増えており、人類進化に関する理解が進展しているので、その中での再検証には大きな意味がある、と言えるでしょう。この研究で比較対象になったのは、前期更新世~後期更新世のホモ属および現代人です。比較対象となった更新世のホモ属は、ヨーロッパのネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)のみならず、アフリカ・東アジア・東南アジアのホモ属と広範にわたっており、ハビリス(Homo habilis)やエレクトス(Homo erectus)やハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)や現生人類(Homo sapiens)など多様です。
解析・比較の結果、MLN下顎の形態はネアンデルタール人の下顎と派生的特徴を2もしくは3個しか共有していない、と明らかになりました。一方で、MLN下顎の形態は、アフリカやユーラシアの前期および中期更新世のホモ属のそれとより密接に関連していました。MLN下顎にはホモ属系統の進化史における祖先的特徴が見られる、というわけです。
一方で、MLN下顎の臼歯の形態に関しては、スペイン北部の通称「骨の穴(Sima de los Huesos)洞窟」遺跡(以下、SHと省略)の人類群およびネアンデルタール人の変異内に収まります。SH人骨群は形態的にはネアンデルタール人と派生的特徴を有しており(ネアンデルタール人の派生的特徴すべてを有するわけではありませんが)、43万年前頃という年代から、ネアンデルタール人の祖先集団(の一つ)もしくはその近縁集団と考えられます(関連記事)。核DNAの解析からも、SH集団とネアンデルタール人との近縁性が明らかになっています(関連記事)。
おそらくは24万~19万年前頃のMLN下顎のこうした特徴は、中期更新世のヨーロッパにおけるホモ属の複雑な進化を示している、とこの研究は指摘しています。おそらくネアンデルタール人の進化は単線的ではなくモザイク状であり、中期更新世のヨーロッパにおいて複数系統の人類集団が共存し、遺伝的浮動や創始者効果や交雑などにより複雑な進化が生じたのではないか、というわけです。40万年前頃のポルトガルの人類頭蓋からは、中期更新世のヨーロッパにおいて、人類集団間または集団内の多様性と複雑な人口動態が見られ、さまざまな水準の孤立と交雑を伴う多様な集団置換が想定される、との指摘もあり(関連記事)、この研究はそうした見解と整合的と言えるでしょう。おそらくMLN下顎は、ネアンデルタール人と交雑した非ネアンデルタール人系統に属すのだと思います。
参考文献:
Vialet A, Modesto-Mata M, Martinón-Torres M, Martínez de Pinillos M, Bermúdez de Castro J-M (2018) A reassessment of the Montmaurin-La Niche mandible (Haute Garonne, France) in the context of European Pleistocene human evolution. PLoS ONE 13(1): e0189714.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0189714
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