後藤明『世界神話学入門』
これは1月14日分の記事として掲載しておきます。講談社現代新書の一冊として、講談社から2017年12月に刊行されました。遺伝学を中心に考古学・言語学などの諸研究成果から、現生人類(Homo sapiens)がアフリカから世界中にどのように拡散したのか、次第に明らかになりつつあります。世界神話学とは、世界の遠く離れた地域同士の神話の類似性(たとえば、日本神話とゲルマン神話)を、現生人類拡散の様相から説明する仮説です。この仮説自体は以前に報道で知りましたが、具体的な内容をほとんど知らなかったので、本書を読もうと思った次第です。
本書は、世界の神話を古層ゴンドワナ型と新層ローラシア型に分類します。ゴンドワナ型は、サハラ砂漠以南のアフリカやインドの非アーリア系住民地帯やアンダマン諸島やメラネシアやオーストラリアなどで見られます。その特徴・傾向は、ストーリー性が弱く、天地(自然)は最初から存在して絶対的な創造神がおらず、罪を犯した人類には洪水のような罰がくだされるものの、終末論的性格は欠けている、とされます。ゴンドワナ型は現生人類が出アフリカ(10万~5万年前頃?)の前より語っていた神話群と想定されていますが、オーストラリア先住民やメラネシアの現代人は、アフリカから最初期に拡散してきた現生人類集団が、後続の現生人類集団から強い影響を受けずに形成されてきた、と考えられています(関連記事)。そのために、出アフリカ時点の現生人類の神話が保持されているのではないか、というわけです。
一方、ローラシア型はユーラシア大陸やポリネシアで見られ、アメリカ大陸については、ローラシア型とゴンドワナ型の混合だ、との見解が本書では提示されています。その特徴・傾向は、ストーリー性が強く、天地(自然)を無から創造する絶対的な創世神がおり、神々の系譜が語られ、世界は秩序化されて明確な時代区分が存在し、終末論が見られることです。本書は、人間と世界の成り立ちを明快に説明するローラシア型は、支配者の正統性の説明に用いられる傾向がある、と指摘します。ローラシア型の起源は4万年前頃の西アジアにあると提唱されていますが、本書は、その起源は3万~2万年前頃との見解を提示しています。ローラシア型は、騎馬遊牧民の拡散や大航海によるポリネシアへの拡散など、現生人類の最初期の拡散より後の移動により広まり浸透していった、と想定されています。本書は日本神話について、基本的にはローラシア型であるものの、ゴンドワナ型の影響も見られ、それは38000年前頃に日本列島に到達した現生人類集団が持ち込んだ、という可能性を想定しています。
世界神話学はたいへん興味深い仮説で、今後の研究の進展が大いに期待されます。ただ、本書で主張されているゴンドワナ型神話の意義については、疑問が残ります。本書はゴンドワナ型神話について、人間と動植物や自然現象を区別せず、自民族中心主義や征服者の思想には決して導かれることのない神話であり、現代世界で最も必要とされている思考様式だ、と主張しています。ゴンドワナ型神話は調和と共存を叡智としており、右肩上がりのローラシア型神話とは異なるが故に、現代世界において再評価されなければならない、というわけです。しかし、議論が続いているとはいえ、オーストラリアの最初期の現生人類が大型動物を絶滅させた、という仮説は有力ですから(関連記事)、ゴンドワナ型神話に環境破壊抑制の展望を見出すのは、現代社会の問題意識を過剰に投影しているためではないか、との疑問は残ります。
参考文献:
後藤明(2017)『世界神話学入門』(講談社)
本書は、世界の神話を古層ゴンドワナ型と新層ローラシア型に分類します。ゴンドワナ型は、サハラ砂漠以南のアフリカやインドの非アーリア系住民地帯やアンダマン諸島やメラネシアやオーストラリアなどで見られます。その特徴・傾向は、ストーリー性が弱く、天地(自然)は最初から存在して絶対的な創造神がおらず、罪を犯した人類には洪水のような罰がくだされるものの、終末論的性格は欠けている、とされます。ゴンドワナ型は現生人類が出アフリカ(10万~5万年前頃?)の前より語っていた神話群と想定されていますが、オーストラリア先住民やメラネシアの現代人は、アフリカから最初期に拡散してきた現生人類集団が、後続の現生人類集団から強い影響を受けずに形成されてきた、と考えられています(関連記事)。そのために、出アフリカ時点の現生人類の神話が保持されているのではないか、というわけです。
一方、ローラシア型はユーラシア大陸やポリネシアで見られ、アメリカ大陸については、ローラシア型とゴンドワナ型の混合だ、との見解が本書では提示されています。その特徴・傾向は、ストーリー性が強く、天地(自然)を無から創造する絶対的な創世神がおり、神々の系譜が語られ、世界は秩序化されて明確な時代区分が存在し、終末論が見られることです。本書は、人間と世界の成り立ちを明快に説明するローラシア型は、支配者の正統性の説明に用いられる傾向がある、と指摘します。ローラシア型の起源は4万年前頃の西アジアにあると提唱されていますが、本書は、その起源は3万~2万年前頃との見解を提示しています。ローラシア型は、騎馬遊牧民の拡散や大航海によるポリネシアへの拡散など、現生人類の最初期の拡散より後の移動により広まり浸透していった、と想定されています。本書は日本神話について、基本的にはローラシア型であるものの、ゴンドワナ型の影響も見られ、それは38000年前頃に日本列島に到達した現生人類集団が持ち込んだ、という可能性を想定しています。
世界神話学はたいへん興味深い仮説で、今後の研究の進展が大いに期待されます。ただ、本書で主張されているゴンドワナ型神話の意義については、疑問が残ります。本書はゴンドワナ型神話について、人間と動植物や自然現象を区別せず、自民族中心主義や征服者の思想には決して導かれることのない神話であり、現代世界で最も必要とされている思考様式だ、と主張しています。ゴンドワナ型神話は調和と共存を叡智としており、右肩上がりのローラシア型神話とは異なるが故に、現代世界において再評価されなければならない、というわけです。しかし、議論が続いているとはいえ、オーストラリアの最初期の現生人類が大型動物を絶滅させた、という仮説は有力ですから(関連記事)、ゴンドワナ型神話に環境破壊抑制の展望を見出すのは、現代社会の問題意識を過剰に投影しているためではないか、との疑問は残ります。
参考文献:
後藤明(2017)『世界神話学入門』(講談社)
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