マウスの仔の行動異常をもたらすの母体の炎症

 これは12月2日分の記事として掲載しておきます。マウスの仔の行動異常をもたらすの母体の炎症に関する二つの研究が公表されました。霊長類と齧歯類の両方で、妊娠中に起こる母体免疫活性化(MIA)が仔の神経発達症に伴う行動異常の一因になっていることが知られています。ヒトの場合には、胎児が母体の炎症にさらされると、自閉症スペクトラム症にかかる確率が高くなることが複数の研究で示唆されています。また、過去のマウスの研究では、Th17細胞(複数の炎症性疾患に関与するヘルパーT細胞)によって産生されるインターロイキン17aという分子が関係している可能性が示唆されています。妊娠マウスの免疫系が感染症や自己炎症性症候群のために活性化されると、インターロイキン17aが仔の行動異常と皮質異常を誘発します。

 一方の研究(Kim et al., 2017)は、仔マウスがMIA関連行動をとるようになる過程に母体の腸内細菌が寄与しているのかどうか、調べました。その結果、妊娠中のTh17細胞の産生を促進する腸内細菌が母体内に存在していると、その仔がMIA関連の行動異常を起こす確率が高くなる、と判明しました。とくに、Th17細胞を誘導するマウスセグメント細菌やヒト共生細菌が定着したマウスが妊娠中に感染症にかかると、仔が神経発達症を発症するリスクが通常より高くなる可能性がある、と明らかになりました。

 もう一方の研究(Yim et al., 2017)は、マウスの母体の炎症にさらされた仔に観察された行動異常に介在する脳領域を特定しました。こうした仔に対する影響が、一次体性感覚皮質を含む領域に生じることが明らかになったわけです。一次体性感覚皮質は、(自分の体の位置が分かる感覚に関連した)固有受容機能に関係するとされてきました。また、MIA関連神経発達症を発症した仔に観察された行動異常を修正する場合には、一次体性感覚皮質の神経活動を低下させることで充分なことも明らかになりました。これらの知見はヒトの自閉症とは関係ないものの、腸内細菌・免疫系・脳の発達の相互作用の複雑さを明らかにすることで、貴重な手掛かりをもたらしている、と指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトから引用(引用1および引用2)です。


【免疫学】マウスの母体の炎症が仔の行動異常の一因になる仕組み

 マウスの母体の炎症が仔の行動異常の発生につながる仕組みに関する手掛かりを論じた2編の論文が、今週掲載される。

 霊長類と齧歯類の両方で、妊娠中に起こる母体免疫活性化(MIA)が仔の神経発達症に伴う行動異常の一因になっていることが知られている。ヒトの場合には、胎児が母体の炎症にさらされると、自閉症スペクトラム症にかかる確率が高くなることが複数の研究で示唆されている。また、過去のマウスの研究では、Th17細胞(複数の炎症性疾患に関与するヘルパーT細胞)によって産生されるインターロイキン17aという分子が関係している可能性が示唆されている。妊娠マウスの免疫系が感染症や自己炎症性症候群のために活性化されると、インターロイキン17aが仔の行動異常と皮質異常を誘発する。

 Jun Huh、Gloria Choiたちの研究グループは、仔マウスがMIA関連行動をとるようになる過程に母体の腸内細菌が寄与しているのかどうかを調べた。その結果、妊娠中のTh17細胞の産生を促進する腸内細菌が母体内に存在していると、その仔がMIA関連の行動異常を起こす確率が高くなることが判明した。特に、Th17細胞を誘導するマウスセグメント細菌やヒト共生細菌が定着したマウスが妊娠中に感染症にかかると、仔が神経発達症を発症するリスクが通常より高くなる可能性のあることが明らかになった。

 一方Choi、Huhたちの研究では、マウスの母体の炎症にさらされた仔に観察された行動異常に介在する脳領域が特定された。つまり、こうした仔に対する影響が一次体性感覚皮質を含む領域に生じることが明らかになったのだ。一次体性感覚皮質は、(自分の体の位置が分かる感覚に関連した)固有受容機能に関係するとされてきた。また、MIA関連神経発達症を発症した仔に観察された行動異常を修正する場合には、一次体性感覚皮質の神経活動を低下させることで十分なことも明らかになった。

 上記2論文に記述された機構はヒトの自閉症とは関係ないが、「これらの論文は腸内細菌、免疫系、脳の発達の相互作用の複雑さを明らかにすることで貴重な手掛かりをもたらしていることに変わりはない」と同時掲載のCraig PowellのNews & Views論文に記されている。


免疫学:母体の炎症に曝露されたマウスの行動異常を回復させる

免疫学:母体の腸内細菌は仔マウスに神経発達障害を促進する

免疫学:行動異常の背景となる脳の小領域

 妊娠中のウイルス感染と母体免疫活性化(MIA)は、子の行動異常との関連が示されている。今回G ChoiとJ Huhたちは、体性感覚皮質の特異的な皮質小領域が、機能不全の決定的領域であることを突き止め、このような皮質小領域の存在とそのサイズが、特定の社会的行動と相関することを示している。彼らはさらに別の論文で、MIAを介する異常な行動表現型には、インターロイキン17(IL-17)を産生する17型ヘルパーT(TH17)細胞を誘導する特定の腸内共生細菌が必要であるとする証拠を示している。この結果は以前彼らが示した、この関連性におけるTH17細胞の役割と一致する。



参考文献:
Kim S. et al.(2017): Maternal gut bacteria promote neurodevelopmental abnormalities in mouse offspring. Nature, 549, 7673, 528–532.
http://dx.doi.org/10.1038/nature23910

Yim YS. et al.(2017): Reversing behavioural abnormalities in mice exposed to maternal inflammation. Nature, 549, 7673, 482–487.
http://dx.doi.org/10.1038/nature23909

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