尾本恵市、山極寿一『日本の人類学』

 これは12月10日分の記事として掲載しておきます。ちくま新書の一冊として、筑摩書房から2017年11月に刊行されました。碩学二人の対談だけに、教えられること、汲み取るべきことは多いと思います。もちろん、二人の見解すべてに同意するわけではありませんが、今後の勉強・思索・行動の指針になるような示唆に富む対談になっていると思います。ただ、対談形式で、体系的な解説にはなっていないので、人類学の教科書として読もうとすると、期待外れになってしまいそうです。

 本書を貫くのは、分断されている人類学を統合して、本来の力を取り戻さねばならない、との信念です。日本では、人類学は自然人類学と文化人類学とに分断されているので、本来は学際的・総合的な人類学の潜在的能力が半減しているのではないか、というわけです。この信念の背景には、小さな範囲から地球規模までさまざまな問題を抱えるなか、人類学は現代社会にとって重要な指針たり得る、との確信があります。

 尾本氏の側は先住民族の諸問題、山極氏の側はゴリラの知見がやはり読みごたえのある内容になっており、教えられるところが多々ありました。尾本氏には、狩猟採集民から現代文明を照射するという問題意識もあり、今ではごく一部のみになったとはいえ、人類史の大半は狩猟採集社会だったでしょうから、この観点は重要になると思います。体系的ではありませんが、著者二人の経歴と人間模様にもかなりの分量が割かれており、人類学史になっている点も興味深いと思います。


参考文献:
尾本恵市、山極寿一(2017) 『日本の人類学』(筑摩書房)

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