初期の石器は文化的伝達の産物なのか
これは11月9日分の記事として掲載しておきます。初期の石器が文化的伝達の産物なのか、検証した研究(Tennie et al., 2017)が報道されました。人類の初期石器として広く認められているのは、260万年前頃までさかのぼるオルドワン(Oldowan)です。それよりもずっとさかのぼる330万年前頃の石器群をロメクウィアン(Lomekwian)と分類する見解も提示されていますが(関連記事)、まだ定説になっているとは言えないように思います。この研究は、初期の石器としておもにオルドワンを対象としています。
人間の道具の多くは他の動物の道具と決定的に異なっており、高い正確さでの文化的伝達が要求されます。この研究は、こうした高い正確さでの文化的伝達が生じた年代・場所・理由について理解するには、考古学的記録の精査が必要だ、と指摘します。しかしこれまで、最初期の石器でも、高い正確さでの文化的伝達の証拠とされる傾向がありました。この研究は初期の石器製作に関して、認知メカニズムが過剰に評価されているのではないか、と指摘しています。この研究は、初期の石器製作における高い正確さでの文化的伝達という前提を改めて検証しようと提言しており、帰無仮説の再設定と表現しています。
人間を除く動物の道具のなかには、チンパンジーの棒(シロアリを釣るため)やミツバチおよびビーバーの巣のように、高い正確さでの文化的伝達なしに作られる複雑なものもあります。オルドワン石器群は、その次に出現した新たな技術段階(関連記事)であるアシューリアン(Acheulian)の出現までの約100万年間ほとんど変わらず、素朴な技術にとどまったことから、文化的伝達の産物というよりもむしろ、人間を除く動物の道具に見られるように「潜在的解決」だったのではないか、という帰無仮説をこの研究は提示しています。潜在的解決とは、道具製作が、個人から個人への文化的手段による伝達ではなく、個体学習もしくは低い正確さの社会学習に依拠していること、とされています。この提案の前提として、文化的に伝達される技術は、現代社会で見られるように頻繁な革新ではなくとも、少なくとも多少の変化を経験する傾向がある、との認識があります。
この研究は、オルドワンのような初期の石器と上部旧石器時代の石器とでは大きな違いがあり、その違いが生じた年代・場所・理由を今後解明していくよう、提言していますが、その要因の一つとして、ホモ属における脳容量の拡大を挙げています。しかしこの研究は、後期ホモ属であるフロレシエンシス(Homo floresiensis)の事例から、脳容量と洗練された技術との関係が単純なものではなかった可能性も指摘しています。この研究が提言しているように、最初期の石器の製作に高い正確さでの文化的伝達が必要なのか、改めて検証されるべきなのでしょう。
参考文献:
Tennie C. et al.(2017): Early Stone Tools and Cultural Transmission: Resetting the Null Hypothesis. Current Anthropology, 58, 5, 652-672.
http://dx.doi.org/10.1086/693846
人間の道具の多くは他の動物の道具と決定的に異なっており、高い正確さでの文化的伝達が要求されます。この研究は、こうした高い正確さでの文化的伝達が生じた年代・場所・理由について理解するには、考古学的記録の精査が必要だ、と指摘します。しかしこれまで、最初期の石器でも、高い正確さでの文化的伝達の証拠とされる傾向がありました。この研究は初期の石器製作に関して、認知メカニズムが過剰に評価されているのではないか、と指摘しています。この研究は、初期の石器製作における高い正確さでの文化的伝達という前提を改めて検証しようと提言しており、帰無仮説の再設定と表現しています。
人間を除く動物の道具のなかには、チンパンジーの棒(シロアリを釣るため)やミツバチおよびビーバーの巣のように、高い正確さでの文化的伝達なしに作られる複雑なものもあります。オルドワン石器群は、その次に出現した新たな技術段階(関連記事)であるアシューリアン(Acheulian)の出現までの約100万年間ほとんど変わらず、素朴な技術にとどまったことから、文化的伝達の産物というよりもむしろ、人間を除く動物の道具に見られるように「潜在的解決」だったのではないか、という帰無仮説をこの研究は提示しています。潜在的解決とは、道具製作が、個人から個人への文化的手段による伝達ではなく、個体学習もしくは低い正確さの社会学習に依拠していること、とされています。この提案の前提として、文化的に伝達される技術は、現代社会で見られるように頻繁な革新ではなくとも、少なくとも多少の変化を経験する傾向がある、との認識があります。
この研究は、オルドワンのような初期の石器と上部旧石器時代の石器とでは大きな違いがあり、その違いが生じた年代・場所・理由を今後解明していくよう、提言していますが、その要因の一つとして、ホモ属における脳容量の拡大を挙げています。しかしこの研究は、後期ホモ属であるフロレシエンシス(Homo floresiensis)の事例から、脳容量と洗練された技術との関係が単純なものではなかった可能性も指摘しています。この研究が提言しているように、最初期の石器の製作に高い正確さでの文化的伝達が必要なのか、改めて検証されるべきなのでしょう。
参考文献:
Tennie C. et al.(2017): Early Stone Tools and Cultural Transmission: Resetting the Null Hypothesis. Current Anthropology, 58, 5, 652-672.
http://dx.doi.org/10.1086/693846
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