アフリカにおける後期ホモ属の進化
これは11月29日分の記事として掲載しておきます。取り上げるのが遅れましたが、アフリカにおける後期ホモ属の進化についての研究(Profico et al., 2016)が公表されました。ここでの後期ホモ属とは、脳容量の増大した、中期更新世以降に存在したホモ属を想定しています。この研究は、分類について議論があることも取り上げつつ、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と現生人類(Homo sapiens)の共通祖先としてハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)という種区分を採用しており、アフリカにおけるハイデルベルゲンシスの出現過程を検証しています。ハイデルベルゲンシスについては、形態学的に多様性が大きく一つの種に収まらないほどの変異幅があるとか(関連記事)、ハイデルベルゲンシスの正基準標本とされているマウエル(Mauer)の下顎骨は現生人類とネアンデルタール人の共通祖先と考えるにはあまりにも特殊化しているとか(関連記事)、指摘されています。
アフリカのホモ属の進化に関するこれまでの知見では、100万年前頃の人類化石がアフリカの最初期の(異論の余地のほぼない)ホモ属であるエルガスター(Homo ergaster)との形態学的類似性を示す一方で、中期更新世以降のイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)と呼ばれている分類群とは頭蓋の形態が異なるため、不連続性が示唆されていました。これは、アフリカにおける90万~60万年前頃の人類化石記録の乏しさが要因になっていると考えられます。
この研究は、アフリカにおけるホモ属化石の空白期間を埋めるものとして、エチオピアのアワッシュ川上流のメルカクンチュレ(Melka Kunture)層のゴンボレ2(Gombore II)遺跡で1973年と1975年に発見された2個の大きなホモ属の頭蓋断片を分析・比較しています。一方は部分的な左側頭頂であるメルカクンチュレ1(Melka Kunture 1)で、もう一方は側頭骨の右側であるメルカクンチュレ2(Melka Kunture 2)で、両者は同一個体のものだと推測されています。両頭蓋の年代は、875000±10000年前よりやや新しいのではないか、と推定されています。両頭蓋の比較対象は、更新世のホモ属化石です。
ゴンボレ2遺跡の2個の頭蓋は、エルガスターとハイデルベルゲンシスというアフリカのホモ属化石と比較して、頭蓋が顕著に厚く、むしろイタリアのセプラノ(Ceprano)遺跡で発見された前期もしくは中期更新世の頭蓋冠に似ている、と指摘されています。しかし、ゴンボレ2遺跡の2個の頭蓋が総合的に最もよく類似しているのは、アフリカのエルガスターおよびハイデルベルゲンシスで、ネアンデルタール人や現生人類とはもっと相違が大きくなる、と指摘されています。
この研究は、総合すると、ゴンボレ2遺跡の2個の頭蓋(おそらくは1個体のもの)は、アフリカにおけるエルガスターとハイデルベルゲンシスの間の形態学的な相違を埋めるものであり、80万年前頃にアフリカに出現したハイデルベルゲンシスがユーラシアへと拡散したのではないか、との見解を提示しています。ハイデルベルゲンシスという種区分の問題はさておくとして、ネアンデルタール人と現生人類(だけではないのでしょうが)の共通祖先系統としてのホモ属の分類群が80万年前頃までにアフリカに出現し、ユーラシアへと拡散した、との見解は、大まかにはじゅうらいの有力説の枠組みで把握できるでしょうし、近年の遺伝学の研究成果とも整合的だと思います(関連記事)。ただ、やはりアフリカにおける90万~60万年前頃の人類化石記録の乏しさという問題は残っており、この時期の新たな人類化石の発見が期待されます。
参考文献:
Profico A. et al.(2016): Filling the gap. Human cranial remains from Gombore II (Melka Kunture, Ethiopia; ca. 850 ka) and the origin of Homo heidelbergensis. Journal of Anthropological Sciences, 94, 41-63.
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