小林武彦『DNAの98%は謎 生命の鍵を握る「非コードDNA」とは何か』
これは11月19日分の記事として掲載しておきます。講談社ブルーバックスの一冊として、講談社から2017年10月に刊行されました。本書は、ヒトのDNAのうち98%を占めると推定されているタンパク質をコードしていない領域(非コードDNA領域)について解説しています。本文は200ページにも満たない新書サイズですが、遺伝の基礎から非コードDNA領域の役割まで丁寧に解説されており、遺伝に関する一般向けの良書になっていると思います。ただ、たいへん充実した内容なので、私の見識・能力では一度読んだだけでおおむね把握できたとはとても言えず、今後何度か再読していく必要があります。
非コードDNA領域はタンパク質をコードしていないことから、かつては軽視されていたそうですが、近年では、遺伝子発現の調整や遺伝子の安定性など多くの役割を担っていると明らかになってきて、たいへん注目されているようです。本書は三毛猫のように身近な事例も挙げつつ、非コードDNA領域の多様な役割を解説しています。長大な非コードDNA領域が、活性酸素や放射線や化学物質によるDNAの損傷を引き受けることにより、人体への悪影響を小さくするなど、タンパク質をコードしていなくとも、その役割はひじょうに重要だと了解されます。
本書は進化にも1章を割いており、非コードDNA領域がヒトの進化にも重要な役割を果たしてきたことが解説されています。非コードDNA領域の変化は遺伝子の発現量を変えることもあり、それが表現型にも大きく影響を及ぼす、というわけです。また、非コードDNA領域だと思われていたDNA領域が、じつはコード領域だと判明したこともあるそうで、今後の研究の進展が注目されます。やや気になったのは、Y染色体について、500万年後には消滅するという仮説が取り上げられている一方で、それに否定的な見解(関連記事)は言及されていないことです。とはいえ、それが本書の価値を大きく下げていることにはならないと思います。
参考文献:
小林武彦(2017)『DNAの98%は謎 生命の鍵を握る「非コードDNA」とは何か』(講談社)
非コードDNA領域はタンパク質をコードしていないことから、かつては軽視されていたそうですが、近年では、遺伝子発現の調整や遺伝子の安定性など多くの役割を担っていると明らかになってきて、たいへん注目されているようです。本書は三毛猫のように身近な事例も挙げつつ、非コードDNA領域の多様な役割を解説しています。長大な非コードDNA領域が、活性酸素や放射線や化学物質によるDNAの損傷を引き受けることにより、人体への悪影響を小さくするなど、タンパク質をコードしていなくとも、その役割はひじょうに重要だと了解されます。
本書は進化にも1章を割いており、非コードDNA領域がヒトの進化にも重要な役割を果たしてきたことが解説されています。非コードDNA領域の変化は遺伝子の発現量を変えることもあり、それが表現型にも大きく影響を及ぼす、というわけです。また、非コードDNA領域だと思われていたDNA領域が、じつはコード領域だと判明したこともあるそうで、今後の研究の進展が注目されます。やや気になったのは、Y染色体について、500万年後には消滅するという仮説が取り上げられている一方で、それに否定的な見解(関連記事)は言及されていないことです。とはいえ、それが本書の価値を大きく下げていることにはならないと思います。
参考文献:
小林武彦(2017)『DNAの98%は謎 生命の鍵を握る「非コードDNA」とは何か』(講談社)
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