長期にわたる人類の身長と体重の進化

 これは11月13日分の記事として掲載しておきます。長期にわたる人類の身長と体重の進化を包括的に検証した研究(Will et al., 2017)が報道されました。この研究は、440万年前から完新世までの311個の人類標本から、254個体の体重と204個体の身長の推移を分析しています。もちろん、440万年にわたる人類の体格の進化を包括的に検証するといっても、現在の標本数は明らかに不足しているわけですが、この問題は半永久的に解決できないでしょうし、ともかくその時点で最善を尽くすしかないわけですから、この研究の意義は大きいと思います。440万年前頃の人類は、平均して身長125~130cm、体重25kgだった、と推定されています。

 この研究は、440万年にわたる人類進化史において、体格が増加していく傾向にあったことを指摘しています。しかし、単純な直線的増加でもない、とこの研究は注意を喚起しています。体格は、急激な増加の期間と中断された相対的な停滞の段階を示している、というわけです。また、320万~220万年前頃のアウストラロピテクス的な人類(アウストラロピテクス属と頑丈型とされるパラントロプス属を含みます)において、アウストラロピテクス属ではアフリカヌス(Australopithecus africanus)やセディバ(Australopithecus sediba)、およびアウストラロピテクス属から進化したと考えられるパラントロプス属が、それ以前のアウストラロピテクス属であるアファレンシス(Australopithecus afarensis)より体格が小さかった、と指摘されています。体格が増大していく傾向にある人類進化史440万年において、これは第一の例外である、とこの研究は指摘しています。

 第二の例外は、人類がホモ属のみとなった中期~後期更新世に存在した、30万年前頃のナレディ(Homo naledi)や6万年前頃まで存在したフロレシエンシス(Homo floresiensis)です。これらの例外に関しては、フロレシエンシスの場合に推測されている島嶼化など、何らかの適応があったと考えられます。しかし、ナレディとフロレシエンシスを例外として、ホモ属の200万年以上にわたる進化史においても、体格の増大傾向が見られる、とこの研究は指摘しています。

 ただ、この研究は、ホモ属の身長と体重の増加に関して、常に同時だったわけではない、と注意を喚起しています。ホモ属において、まず体格の増大が起きたのは220万~190万年前頃で、この時期に身長は20cm、体重は15~20kg増加しました。その後、160万~140万年前頃に身長が10cm増加しましたが、この時には体重は増加しませんでした。この頃には、現代人とあまり変わらない程度の平均身長になっています。その後、50万~40万年前頃に体重のみが10~15kg増加し、現代人とさほど変わらない程度になり、それ以降は大きな体格の進化はなく、現代に至っています。

 この研究はホモ属の体格の進化について、環境への適応があるのではないか、と推測しています。160万~140万年前頃の身長のみの増加については、乾燥したアフリカのサバンナ地帯において、ほっそりとした体型は排熱が効率的という点で適応的だったのではないか、というわけです。体重にたいする体表の比率が大きいと、排熱は効率的になります。一方、50万~40万年前頃の体重のみの増加は、高緯度地帯への進出と関わっているのではないか、とこの研究は推測しています。より寒冷な高緯度地帯では、体温を維持するために、体重にたいする体表の比率は小さい方がよい、というわけです。性的二型については、初期人類においては大きかったものの、次第に縮小していったのではないか、と推測されています。


参考文献:
Will M, Pablos A, and Stock JT.(2017): Long-term patterns of body mass and stature evolution within the hominin lineage. ROYAL SOCIETY OPEN SCIENCE, 4, 11, 171339.
http://dx.doi.org/10.1098/rsos.171339

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