小野寺史郎『中国ナショナリズム 民族と愛国の近現代史』

 これは10月8日分の記事として掲載しておきます。中公新書の一冊として、中央公論新社から2017年6月に刊行されました。本書は、19世紀末から現在までの中国におけるナショナリズムの変容を検証しています。近現代中国のナショナリズムは、伝統的世界観を前提に、西洋の衝撃への対応として形成されていったものなので(中国に限らず、非西洋地域の近代はおおむねそうだったのでしょうが)、本書はまず序章において伝統中国の世界観を解説しています。

 本書はその後に、19世紀末から現在までの中国におけるナショナリズムの変容を5期に区分して解説しています。これは、1895~1911年・1912~1924年・1925~1945年・1945~1971年・1972年~現在となっており、日清戦争・辛亥革命・広州での国民政府の成立・第二次世界大戦の終結・西側世界への開放が契機とされています。確かに、これらは中国史において重要な転換点になっていると思います。

 本書は近現代中国におけるナショナリズムの変容を、実質的には西洋化である近代化の推進・徹底(封建的因習の排除)と、中国独自の価値の重視とのせめぎ合いという観点から論じています。これは現在でも変わらない構図なのですが、近年の中国では経済・軍事大国化の進展により、儒教のような伝統的価値観に傾斜している様子が窺えます。この構図と関連して、近現代中国において、英米を中心とする国際秩序にたいする強烈な不信感が存在し続けていることも指摘されています。日本でしばしば報道される中国の「無法」も、これに一因があると言えるでしょう。

 本書の主要な対象読者は日本人でしょうから、近現代中国ナショナリズムにおける日本観の変容にもかなりの分量が割かれています。中国ナショナリズムにおいて日本への印象が悪化した契機として、まずは1915年の二十一ヵ条要求が挙げられています。次の契機は1928年の済南事件で、これにより中国ナショナリズムの主要敵がイギリスから日本に変わった、と指摘されています。また、時の政権の課題(主要敵がどこなのか、などといった問題)により、政権側が対日ナショナリズムを抑制することもあった、とも指摘されています。

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