現代人の表現型へのネアンデルタール人の影響(追記有)

 これは10月7日分の記事として掲載しておきます。現代人の表現型へのネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の影響に関する研究(Dannemann, and Kelso., 2017)が報道されました。『サイエンス』のサイトには解説記事が掲載されています。この研究は、イギリスのバイオバンクで収集された112000人以上のデータを用いて、ネアンデルタール人の遺伝子が現代人の表現型の多様性に与えた影響を検証しています。

 ネアンデルタール人と現生人類(Homo sapiens)との交雑はすでに広く認められており、非アフリカ系現代人のゲノムにはわずかながらネアンデルタール人のゲノム由来の領域が確認されています。ネアンデルタール人由来の遺伝子のなかには、かつては中立的だったか有益だったのに、現在では適応度を下げているものもあります(関連記事)。24時間周期のリズムの妨害が契機となり得る、鬱病の危険性を高める遺伝子や、血液が凝固しやすくなる遺伝子や、ニコチン依存症の危険性を高める遺伝子などです。

 この研究は、鬱病のような心理状態に関わるもの・肌や髪の色・睡眠パターンなど、非アフリカ系現代人の中でもヨーロッパ系の複数の表現型に、ネアンデルタール人の遺伝的影響が見られることを明らかにしました。注目されるのは、異なる遺伝子座の複数のネアンデルタール人の対立遺伝子がヨーロッパ系現代人の肌と髪の色に影響を及ぼしているものの、それは色合いを濃くする方にも薄くする方にも作用している、ということです。そのため、ネアンデルタール人の肌と髪の色も、現代人と同じく多様だったのではないか、と推測されています。

 また、肌と髪の色・心理状態・睡眠パターンといった表現型が日光暴露と関連している、との見解も注目されます。ネアンデルタール人は現生人類よりも高い緯度の地域で生存してきたので、現生人類よりも低い紫外線放射水準に適応していたことを反映しているのでしょう。アフリカ起源の現生人類が世界へと拡散していくさいに、それまで存在していた地域よりも高い緯度の地帯に進出することもありましたが、そのさいの適応にネアンデルタール人由来の遺伝子が有益だった、ということは充分あり得そうです。


参考文献:
Dannemann M, and Kelso J.(2017): The Contribution of Neanderthals to Phenotypic Variation in Modern Humans. The American Journal of Human Genetics, 101, 4, 578-589.
http://dx.doi.org/10.1016/j.ajhg.2017.09.010


追記(2017年10月10日)
 ナショナルジオグラフィックでも報道されました。

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